第162話 キノココンビ、やりたい放題!! ~最近影が薄いので必死にキノコをアピールする女神と使徒~

 敵部隊の侵入を看破した名探偵エノキ。

 だが、エルミナさんの相手をしていると隙が生まれた。


 近頃は会社単位ではなく国家規模で活動していたため、久しぶりの少人数出張業務の感覚を失っていたらしい。

 だが、80人も間者がいたのでは警戒していても意味がなかったかもしれない。


「い、いかん! ヤツらを逃がすな!!」

「いえ、無理です! ドブカス兵長!! 数が多すぎます!!」


「くっ! エノキ様、私の失策です。これほどの数の侵入者に気付かぬとは」

「そりれは仕方がありません。彼らは斥候部隊の装備で顔を隠しておられましたし、なにより兵長は部隊の運営が主なお仕事。全ての人員の顔まで暗記せよとは酷でございます」


「エノキ様……!!」

「何より、私も賢しく敵の方々の策謀を看破するのではなく、まず捕縛に動くべきでした。本来ですと捕らえる用意もあったのですが……」


 武光は笑顔でエルミナさんを見つめた。


「ぴっ!! な、なんですかぁー!? 無言で笑顔は怖いですよぉー!!」

「エルミナさん」



「あなたの乳をビンタしていたせいで、敵を逃がしました」

「ええええっ!? 女神のおっぱい触っておいて、そんなクレームつけますぅ!? 普通はありがたがりますよね!? やっぱりおかしいですよぉ、武光さんってぇ!! その年で性欲枯れてるとかぁ!! この仕事にしか性的興奮を覚えない異常性癖ぃ!! ……あ。ご、ごめんなさい。あのぉ。えへへ、今のはちょっと失言で。えへへへへ。ほら、可愛い女神スマイルですよぉ? にこーっ。えへへふぎゃっ」



 乳をしばく事にもはや躊躇いなどないのである。

 屯所の外に駆けだしたエノキ社員の目の前で、侵入者たち連絡弾を打ち上げていた。


「私はいささか浮足立っていますね。このように対応が後手に回り続けるとは」

「ふぐぅぅ。わたしのおっぱい叩いてるからじゃないですかぁ? あ。なんでもないですっ!!」


 連絡弾の光を確認した帝国軍の別同部隊。

 ガルス・エヴィングの率いるガルス隊が馬車と騎馬隊に分かれて猛スピードで追し寄せて来る姿を黙視する武光。


 彼は手からキノコを生やしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ドブカス兵長。私などが指示を出すのは大変僭越なのですが、よろしいでしょうか」

「もちろんでございます!! 何なりと!!」


「では、私たちが敵の足を止めますので。合図いたしましたらば、左方から回り込んで捕縛をお願いできますか。恐らく聖騎士クラスの指揮官がいらっしゃると思いますので、可能ならば戦力を分散させたいと存じます」

「はっ! 指示を飛ばします!!」


 ドブカス兵長が伝令を走らせる。

 一方で、エルミナさんが不思議そうに小首をかしげた。


「およ? 私たち? あっ! 分かりましたよぉー!! マザーに頼んで、増援をドカンと出しちゃうんですね?」

「違います」


「そうなんですか? じゃあ、誰が頑張るんですか?」

「エルミナさんです」


「ほよ?」

「エルミナさんです」


「い、嫌ですよぉ!! って言うか、無理ですからぁ!! わたし、治癒魔法と防御魔法しか使えないの知ってるじゃないですかぁ!?」

「私をあまり舐めないで頂きたいですね。先日、マザー様にヒアリング済みです。エルミナさん。あなた、魔力を転用すれば攻撃魔法も使えますね?」



「うぎゅっ!? え、ええー? 知りませんけどぉー? マザー、ボケてるんじゃないですかねぇー? そ、そんなぁー? だったらわたしぃ、今まで皆さんのピンチを見捨てて来たことになるじゃないですかぁー。や、やだなぁー? あ゛っ! ちょ、待ってください!! たけ、たけみちゅしゃん!! 振りかぶって近づかないで! びゃあぁぁ!!」

「エルミナさん。これまでの事は構いません。人には向き不向きがあります。無理強いもしません。が、現状、ここにはあなたは私だけ。無理強いをします。具体的には、次からジャケットをはぎ取ってビンタします」



 緊急事態につき、榎木武光がドメスティックキノコになっております。

 が、彼らは一心同体なので、この場合はコンプライアンスに抵触しません。


 ご理解、ご了承のほど、よろしくおねがいいたします。


 迫りくる兵士は約220余り。

 キノココンビには分からないが、ガルス・エヴィングも含まれている。


 彼は姑息な小悪党にも関わらず、戦場では前線に出るタイプ。

 別に正々堂々としている訳ではなく、単純に「敵の幹部の首が獲れるかもしれないから」と言う利己的な考えからなのだが、戦場に指揮官が出ると言う行為だけで士気は上がるため意外と有能である。


「ふぐぅぅぅ。やりますよぉ。けどぉ……攻撃魔法なんか使ったら、わたしが狙われちゃうじゃないですかぁ……」

「私が確実にお守りしますので、ご安心ください」


「ぴゃっ!! 武光さんがラブコメ主人公ムーブを!! こ、これが最終決戦効果!!」

「いえ。あなたが死ぬと私も死にますので。当然かと。まだまだやるべき事はありますから。最悪お亡くなりになるのであれば、最終盤でお願いします」


「ガーン!! 全然ロマンチックじゃなかったですよぉー!! もぉぉ! やりますっ!! てぇやぁぁぁぁぁ!! 『キノコ収穫祭ハーベスト』!!!」


 エルミナさんが魔力の塊を地面に与えると、そこかしこからキノコが生えて来た。

 敵は普通にその上を駆け抜けて来る。

 キノコは踏まれたが、萎れる事も潰れる事もなく健在。


「エルミナさん。上着をご自分で脱がれますか? 私が剥ぎ取りましようか?」

「ぴぃぃ! なんでビンタの準備するんですかぁ!? ま、まだ! これからですよぉ!! 見ててくださいよ!! 必殺のぉー!! 『キノコ大成長コンニチハ』!!」


 エルミナさんが再度魔力を放つと、生えていたキノコが巨大化した。

 そのサイズ、約1メートルから3メートル。


 カラフルで頑丈なキノコが突如現れ、兵士たちは驚く。

 特に効果的だったのは、兵士たちよりも馬が驚き、興奮のあまり騎手を振り落として走り去り始めた点である。


 周囲の馬が興奮する事で、それは他の馬にも伝播する。

 結果的に、馬車と騎馬隊の足を完全に封じ込める事に成功した。


 意外とやれる、キノコの女神様。

 彼女は敬虔な信徒たちに対するアピールを忘れない。



 可愛い顔でわがままボディで酒豪で明るく賑やかで地面からキノコが生やせます。

 ご満足いただけたでしょうか。こちら、メインヒロインです。



「むふふっ! どうですかぁ! これがキノコの力ですよぉ!! ぐへへっ!! まだたくさん生やせますよぉ!!」

「思った以上に効果的だった事は認めましょう」


「もぉー! 素直に褒めてくれればいいのにぃー!! さあ! 本心を聞かせてくださーい!!」

「では。巨大なキノコがこれほど生えて来ると、結構不気味ですね。グロテスクまであるかもしれません」


「ガーン!! 素直ですけれどもっ!! 違うんですぅー! そーゆうのじゃないんですぅー!!」

「よしよし。頑張りましたね。では、私も頑張りましょう」


 武光はキノコを口に入れた。

 その色は黒。

 新色である。


「およ! 新しいヤツじゃないですかぁ! どうしたんですか、それ!!」

「これはですね。マザー様にご相談して生み出しました。さすがマザー様です。多くの魔法や異能をご存じで。すぐにイメージできる力を……ぐふっ」


「うぇぇ!? 武光さん!?」

「まずいですね……。ああ、いえ。よろしくないと言う意味でなく、不味いです。これまでのキノコの中でも群を抜いて」



「あー。マザーってかなり年ですから。わたしが知ってる情報でも、500歳超えてますもん。そりゃ、おばあちゃんの知識がベースだとまずいですよぉー」

「……なるほど。よく分かりました」



 よく分かったエノキ社員。

 だが、どうにか実食完了。


「ぐっ。コンディションがかなり悪化しましたが。……発現します!! 『増加の黒茸ドッペルアバター』!!」

「おおー! ええ……。武光さんが増えましたぁ……。2、4、6……。10人もいますよぉ。これはこれで結構な恐怖映像なんですけどぉ……」


 榎木武光の新キノコ。

 エノキ社員が増殖します。

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