第160話 トールメイ遊撃隊、はぐれ女神連合軍との距離を詰める! ~現役の序列8位お姉ちゃんを舐めんじゃねぇ!!~

 トールメイ遊撃隊は、当初ロギスリン領の南端にて陣を張る予定だった。

 アルバーノ隊かはぐれ女神連合軍。

 あるいはその両方を後背から突き崩すためである。


 が、目論見が外れる。


 アルバーノ隊がロギスリン領を無視して侵攻したため、背後から強襲するタイミングを逸した。

 はぐれ女神連合軍に至っては予測していた5つのパターンのいずれも無視して、バーリッシュの東の森に突然出現する予定。


 だが、この精鋭部隊は自らを游兵に貶める愚行を犯さない。

 遊撃隊だからと言って、似たような文字を追及してもらっては困るのである。


「トールメイ様! 私からお知らせがあります!!」

「なんだ。プリモ。今後の方針について考えているところなのだがな」


「これを見てください!!」

「これは?」



「タケノコです!!」

「見れば分かるわ!! 私をバカにしているのか!!」



 プリモさんの取り出したタケノコは赤く光っていた。

 エルミナさんのキノコに対抗してついに属性攻撃を得たのかと言えば、そうではない。


「これは『危機感知リスクマネジタケノコ』と言います!! 私がせっせとエルミナ連邦の各所に植えて回りました!! 素晴らしい!!」

「変なものを勝手に植えるのは生態系的に良くないだろうが。エノキはともかく、ジオが泣くぞ」


「タケノコの効能を聞きますか? はい! お応えしましょう!! そしてお答えしましょう!!」

「勝手に言葉の足し算をするな。私が期待に応えてもらうみたいになっただろうが。それで? 何をつけて食べたら美味しいのだ?」


「はい!! このタケノコ! 私が敵性だと思う魔力の種類を探知すると、色が変わるのです!! 緑から黄色、黄色から赤の順に変化して危険を教えてくれます!! 黒くなるともうヤバいです!! 素晴らしい!! 100点!!」

「判断基準がプリモなのか……。何にしても、赤いぞ?」


「はい!! これはバーリッシュの東の森の辺りに植えたタケノコとリンクしています!!」

「あんな何もない場所にも植えたのか。で、プリモの言う敵性とは?」


「女神の魔力です!!」

「そうか。……いやぁぁぁ!! 早く言えよ!! 貴様ぁ!! 普通に反応しているじゃないか! 女神の魔力と言う事は、帝国に与している女神か!!」



「そうだと思います!! ですが、安心してください!! マザーの魔力をお借りして、警戒基準を設定しました!! 赤ならマザーよりも弱い魔力です!! 黒くならない限りはマザーが対応できるので、あんし……。あっ」

「黒くなったが? これはどうなる? おい! プリモ! 貴様! いつもハキハキ喋るのに、どうして言葉に詰まる!? これはどういう状況だ!?」



 プリモは目を逸らしながら、そっと呟いた。


「それはー。そのー。ですねー。マザーに対する想定致死量を超える魔力ですねー。はいー。あー。残念ですー。遺憾の意ですねぇー」

「バカ者が!! お悔やみ申し上げるな!! まずいぞ! ここからバーリッシュを超えて、東の森を目指しても……!! 4、いや、5時間はかかるか!? マザーが殺される!!」


 風雲急を告げるマザーのピンチ。

 察知したは良いものの、遊撃隊は現在遠方。


 マザーはまだ何もしていないのに死ぬのだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃。

 森をあと少しで抜け出せるところまで進軍していたはぐれ女神連合軍。


「ほら見ろよぉ!! やっぱりべべベラお腹壊したじゃんか!! あたしら、自分で歩くことになったじゃんかぁ!! もう、膝とか太ももが擦り傷だらけなんだが!!」

「ベルが悪いよー。そんな、太ももから下を全部出すからー。森を通るんだよ? ちゃんと準備しとかないとー」


「お、お前ぇ!! フゴリーヌが言ったんだぞ!! あたしの脚が綺麗だってぇ!! んなこと言われたらさぁ!! 太ももだって出したい欲求が生まれるじゃん!! フゴリーヌのおっぱいと差別化図りたくなるじゃんかぁ!!」

「えー。私のせいなのー? ベルのスタイルが良いのは見れば分かるんだからさー。無理して露出しないでも良かったのにー」


 ベルさん、かなりお怒りの様子。

 ちゃんとした理由があった。



「そう言うフゴリーヌはさぁ!! なんでおっぱいがっつり強調してんのさぁ!? ズルいじゃんかぁ!! しかもミニスカの下にレギンス穿くとかぁぁ!! なんでオシャレとセクシーの両立してんのぉ!? ズルい、ズルい!! あたしショートパンツで太もも出しただけなのに!! なにこの差!! やってられないよぉ!!」

「だってー。ゼステルがくれた装備、どれも胸元が空いてるんだもん。仕方ないじゃんかー。ベルだって、軍用のズボン持ってたんだからそれ穿けば良かったのにー」



 ベルさん、半泣きへ。


「ぐすっ。やだよ……。なんでフゴリーヌがオシャレで可愛い恰好してんのにさ。あたしだけそんなもっさりした格好になんのさ……。ひどいじゃんよぉ。欲求が生まれて来るんだから、仕方ねぇじゃんよぉ。……んぁ? フゴリーヌ?」


 フゴさんは前方へと駆けだしてから、何かを拾って戻って来た。

 それを掲げて、嬉しそうに告げる。


「見てー!! ベル!! タケノコさん拾ったー!!」

「こいつぅ!! あたしのクレームをもう処理した顔になってるんだが!? くそぅ!! ここぞとばかりに豚の要素出して、地面掘りやがって……!! じゃあトリュフ見つけろよぉ!! なんだよ、タケノコって!! フゴリーヌ? それ、すっげぇ光ってない?」


 フゴリーヌは笑顔のまま答える。


「そうだねー。多分これ、女神さんのアイテムだもん。拾っちゃったー。とりあえず!」

「やべぇじゃん!! 破壊しろ! 破壊!!」


「食べます!! あーんっ!! おー! ゴリゴリしてて、歯ごたえがありますなー。これはなかなかー。んー。んー? はっ!!」

「なんで食ってんだよ……。マジかよこいつ。危機管理欲求低すぎだろ。つか、どうした? まさか、魔力の影響受けたとか?」



「お、おお、おいしー!! このタケノコさんは! いいタケノコさんだよー!!」

「あ。そう。なんか急に装備のこととかどうでも良くなったわ。おい、マリリンじいちゃん。敵に見つかったっぽい。どうする? 知恵貸してくれよ」



 豚さんに掘り当てられてしまったプリモさんのタケノコさん。

 こればかりは巡り合わせが悪かった。


 なお、現代の日本でタケノコをガツガツ食べるのはイノシシさん。

 イノシシさんは豚さんの親戚。


 つまり、豚さんもタケノコさんを食べる。

 証明完了。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃。

 トールメイ遊撃隊はと言うと。


「は、はぁ、はぁ。ひぃ。ふぅ。と、トールメイ? あなた、むちゃくちゃな事をさせますね? 私、さっきまでおにぎり食べてたんですよ? お、お腹が痛い……」

「申し訳ありません! マザー!! ですが、あなたの御身を守るためです!!」


 何故かバーリッシュ外壁付近に転移していた。

 からくりはこうである。


 トールメイ遊撃隊が敵の後背を突いたタイミングで、マザーの転移魔法を使うための通信を行う予定だった。

 傍受されない通信方法として、エルミナ連邦には魔族由来の『血の鼓動石ブラッドルビー』によるものがある。


 「これが砕けたら転移魔法を」と指示をされていたマザー。

 そのマザーの持っていたルビーがいきなり砕ける。開戦してまだ1時間と少し。

 余りにも早い要請。マザーでなければ見落としちゃうヤツ。


 「え、ええ……」と困惑したものの、念のためトールメイの元へ転移してみたところ、「今すぐ私たちを連れてバーリッシュへと戻ってください!!」とお姉ちゃんに怒られた。

 「なんなんですか……」としょんぼりしながらマザーは再転位。


 遊撃隊はロギスリン領に留め置いて、少数精鋭の3人が先んじて戻る。

 マザーに「総督府から出たらタダでは済まさないですよ?」と強く言い含めたトールメイさんは、東の森へと急いだ。


 これが現在の女神界序列第8位。

 雷鳴の女神トールメイさんの実務能力。


 なお、マザーは。


「マザー様! どうしたんですか? すごい汗!! お茶淹れますねっ!! 冷たいの!」

「ああ。ルゥさん、ありがとうございます。いえね、穏やかだった娘になんだか急にキレられまして……。私、どこで育て方を間違ったのでしょうか……」


 12歳の少女に「うちの娘、怖いんです」とガチ相談していた。

 未だ底を打たないマザーの株価。


 グラストルバニアにはストップ安が存在しない事実は大いに悔やまれるところである。

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