第159話 開戦 ~エルミナ連邦国境警備隊からお仕事開始! 現場にいるのはステラさんとリンさん!!~

 エルミナ連邦首都・バーリッシュの立地は割と悪い。

 南に20キロも移動すれば街道にぶつかり、その先にはすぐ国境がある。


 これは、かつてのラジルーニ地方に首都が制定されていなかった点が大きく関係している。

 そもそも、帝国領の北の僻地にあるこの地。

 大都市もバーリッシュとフロラリアくらいしかなく、首都を設けるほど人口も多くなければ都市が栄えていた訳でもない。


 そこに突如生えて来たエルミナ連邦。

 最も規模が大きく、防衛設備も整っていたためバーリッシュが首都として産声を上げたが、元より選択肢がなかったのである。


 フロラリアは貿易都市。

 つまり、四方八方に街道が伸びており、なだらかな盆地のど真ん中に都市がデンと構える。


 全方位から狙われ放題なのだ。


 モンスターが都市の中に観光しに来るレベルの状態から、首都としての防備を整えるにはあまりにも時間が足りていない。

 もしかすると将来的には首都移転の可能性もあるかもしれないが、現状と言う括りの中ではまず有り得ないチョイス。


 よって、一択問題としてバーリッシュは合格をゲット。

 そのまま首都となった。


 エルミナ連邦内の首都機能を考えると不足はないが、国外からの侵略に備える点では結構な勢いで不足が散見される。

 今回は、防衛ラインとバーリッシュの距離感が大問題。


 たった20キロしか国境と離れていないため、ロングレンジの大砲などを用いられると非常に面倒な事になる。端的に言えば、砲撃を喰らうのだ。

 当然、対策は講じられている。


 聖騎士部隊の中には魔法兵も多くいるため、持ち回りで警戒に当たり、対空迎撃システムとしてしっかり機能している。

 本日は普段からその任に当たっている紅蓮の聖騎士部隊に加えて、翡翠の聖騎士部隊も参加。


 ただし、手厚い防御布陣を整えると、その分他に回す人手が足りなくなるのが新興国の悲しい現状。

 よって、国境警備部隊にはエルミナ団のメンバーが出向していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらはエルミナ連邦国境の砦。

 2日で作った急ごしらえであるため、塹壕がメイン。見た目は切ない。


「来やがりましたわね! 皆様! 準備はできてやがりますの!?」

「あいさー。準備万端さー」


 冒険者でご令嬢で行方不明の大ベテラン。ステラ・トルガルトさん。

 キノコの力をゲットして、知略も備える貴重な長距離砲。リンさん。


「おっしゃあ!! やれるぞ!! 俺らの部隊! 当たりだ!!」

「最前線なのに!! なんだろうな! この上官の大当たり感って!!」


 2人の指揮下に配属された、白金の聖騎士部隊の皆さん。

 白金の聖騎士部隊は精鋭たちがトールメイ遊撃隊として出向中なので、砦に出張って来たのは若い兵士たち。


 普段の上官はソフィアさん。

 彼女に教えを乞うと「よし! 分かった! 近づくな!! その気持ちを大事にしろ!!」と言われる。


 諦めて何も言わずにいると「そうか……。お前たち、私に飽きたか。そうだよな。スタイルはエルミナ様やトールメイ様に劣り、愛想も無ければ愛嬌もない。こんな私は嫌だよな。おっぱい触るか? ははっ。おっぱい差し出したのに見向きもされない。はははっ」などと、長文で病んだコミュ症ムーブかましてくるため、まだ部隊に慣れていない新兵は毎日を過ごすだけでストレスに苛まれている。


「おらおらぁ! ですわ!! 帝国兵の野郎ども方!! 命が惜しけりゃお引き取りくださいませ!! ぶっ飛ばしますわよ!!」


 この明快な意思表明。

 弾ける笑顔と若さ溢れる少女と大人の中間に立つ、ステラさんの覇気。


「うぉぉぉぉ!! ここは行かせねぇぜ!!」

「やらせるかよぉぉぉぉぉ!!」



 ご覧の通り、凄まじい士気の高さを見せていた。



 対するはアルバーノ隊の先陣。

 魔法兵部隊。


 彼らは遠距離攻撃に徹するよう命令を受けているため、接近して来ない。

 接近して来てくれないと、頑張ってもミドルレンジが適正距離のステラさんには出番が来ない。


「むきーっ!! なんですの!! 帝国兵は肝っ玉が小せぇですわ!! こんな小娘に良いように言われて、悔しくねぇんですの!! この非モテ系根暗魔導士の集まり!!」


 なお、普段からエルミナさんをディスり慣れているステラさん。

 相手を挑発させたらかなりのものである。


 その後も、メンタルの弱い者が聞けばお漏らしして泣き崩れそうになるレベルを誇るステラさんのディスが続き、ちょっとだけアルバーノ隊は怯み、エルミナ兵の士気は更に上がった。一部の兵は恍惚の表情を浮かべる。


「意外と理性的ですわね。やるじゃねぇですの。畜生キノコだったらもう泣きべそかいて乳振り乱しながら逃亡してますわよ。……うちの国家主席を超えやがりましたわ!!」


 早速うちのエルミナさんがただの一兵卒にランクを下げられる。


「仕方がないさー。撃って来る前にこっちから撃っちゃうさー。なにせ、敵さんは山ほどいるのさー。対して、こっちはボクを含めて遠距離攻撃できる人はたったの5人さー。後手に回ると押し込まれちゃうのさー」


 リンさん。

 茶色の丸薬をポケットから取り出した。

 これを収納するために体操服の上にジャージを着て来た念の入れよう。


 諸君は覚えておいでだろうか。

 エルミナ連邦の眠らない爆薬。

 佐羽山花火姉さんが生み出した、極めてニッチな服用型兵器の名を。


「出ましたわね。武光様が4度挑戦して、4度床に伏せる事になったヤベークスリ!! その度に膝枕させてもらったので、わたくしは大好きですわよ!! そのクスリ!!」

「あいさー。ボクも好きなのさー。カタカナでクスリって言うといかがわしさが匂い立つのさー。いただきますなのさー。できればお酒で飲みたかったのさー」


 エルミナ連邦の新兵器。

 『キノコブースター』である。


 既にお召し上がりになっていた紫茸の力が何倍にも増幅される。

 リンさんの腕がバチバチと鳴き、スパークし始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その様子を見ていたアルバーノ隊の魔法兵たち。

 リーダーのモスケスは27歳。先月、ヴァレグレラで行われた街コンで生まれて初めての彼女ができた。

 この戦争が終わったら一緒に旅行に行く予定だとか。



 非常に危ない要素が揃っている。ファミリーネームがないのも怪しい。



 モスケスは指示を出した。


「なんだかまずいぞ!! 全兵! 攻撃魔法を撃て!!」

「モスケスさん! 何の属性を選びますか!?」


「水か氷だ! 環境被害を考えるんだ!! 自然に罪はない!!」

「了解しました!! はぁぁぁぁぁぁ!!」


 約42人の魔法兵が一斉に魔力を蓄え始めた。

 人数も危ない。不吉が渦巻いている。


「よし! 全兵! 放てぇ!! あっ」


 次の瞬間。

 巨大な雷柱が天空から飛来したかと思えば、刹那、すぐに天に向かって柱は伸びる。


「えべぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 モスケス氏に代表して叫んでもらったが、魔法兵たちの悲鳴は下手をすると100キロ以上離れているロギスリン領にも聞こえたのではないかと、後世の文献に書き記されている。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「やべぇですわね。リンさんの雷。それ、トールメイ様超えてねぇんですの?」

「とんでもないさー。ボクの雷は所詮、横に飛ばすか空から降らせるかの2種類しかないのさー。雷鳴の女神様と比較するのはおこがましいのさー」


「いや、すっげぇ焼け焦げてますけど。皆さん、死んじまったんですの?」

「大丈夫さー。ちゃんと手加減したさー。だけど、ボクの力だとあと2発くらいしか撃てないさー」


 モスケス氏、生存のご報告。

 早く本国に帰って、退役すると良い。


 それからしばらくリンさんの「やべぇ雷」が最高のけん制として機能して、戦線を維持し続けた国境警備部隊。

 実に1時間をわずかな軍勢で耐えた末、バーリッシュからの伝令を受けて撤退する。


 エルミナ連邦の基本スタンスは籠城戦。

 その準備が整うまで帝国軍の侵入を阻んだ2人のぶっこみ乙女と白銀の聖騎士部隊の新兵たち。


 初戦は上々の成果を残し、国境警備隊は砦を放棄した。


 アルバーノが現場に到着するまで、帝国兵たちは動けなかった。

 彼は「これは自分の采配ミスだったか」と悔しがったが、すぐに前を向く。


「いずれにせよ。我々は進軍する。敵を倒さねば帰る場所はないも同じ。全兵、退路の事は考えるな。全てが終われば、自分の一太刀で切り開こう」


 この言葉だけで、帝国軍も士気を取り戻す。

 いずれの指揮官も大いに部下の信頼を集めている証拠であった。

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