第158話 エルミナ連邦に到着する帝国二大勢力 ~正道を行く霧雨、搦め手のはぐれ女神コンビ~

 霧雨の聖騎士アルバーノ・エルムドアが率いる帝国軍本隊。

 強欲の女神・ベルと豚の女神・フゴリーヌが旗振り役のはぐれ女神連合軍。


 この2つの勢力はまずアルバーノ隊がエルミナ連邦の領土に攻め込んでいた。

 隣接するロギスリン領へのけん制を行いながら、着実に首都バーリッシュへと侵攻する。


 バーリッシュ総督ジオ・バッテルグリフは霧雨の聖騎士の思考をどうにかトレースしようと試みていたが、こちらが知っていれば相手も当然こちらを知っている。

 いわゆる深淵をのぞく時と言うアレ。


 紅蓮の聖騎士の性格は帝国でも広く認知されており、そこから紐付けてアルバーノは考えた。

 「ロギスリン領はエルミナ連邦に加わってから日が浅い。そこを戦場にする事をかの武人は嫌うだろう」と。


 事実、それは的中する。

 エノキ&ジオの首脳コンビはロギスリン領主カレン・ウィッシュマイムに通達を行っていた。


 「最低限の防衛の意思を表明したのちは、領地の治安維持に注力し、戦場への介入は不要である」との旨を、昨日の早朝には伝達済み。


 国家の要職に就く者の考えとしては立派であるし、正しい判断と言えるだろう。

 人間としては言うに及ばず。人道的な判断。


 だが、それは敵であるアルバーノにも筒抜けであり、結果としてロギスリン領はスルーされる。

 戦力が一切分散しなかった事は、少しばかりエルミナ連邦サイドの見積もりを狂わせた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 対して、ベルさんとフゴさんと亜人の愉快な仲間たち。

 先ほど謎の意思によって名付けられたはぐれ女神連合軍は深く光も届かないうっそうとした森の中を突っ切ると言う、実にトリッキーな進軍を見せていた。


「うぎゃ!! いてぇ。枝で顔しばかれた。なぁー。もうちょっと良い道ないのかよ? あたし、快適な進軍に対する欲求が高まってんだけど」

「ちょっと気持ちは分かるかもー。けど、正解ルートだよ。これ。亜人さんしか知らない道だもん。連邦さんも絶対に警戒してないよー。実際のところ、斥候とかそんなレベルじゃなくてさー。人が通った形跡もないもん。マリリンさんのおかげだねー」


 エルミナ連邦の東は瘴気を発する湿地だらけの森に囲まれており、そこは帝国領だった頃から未開、未踏の地とされている。

 断崖絶壁が道を阻む北側と同じく「そもそも通れないので警戒は無意味」とされている、デッドスペース。


 そこを巨体が自慢の亜人、ドラゴニュートとサイクロプスにパワープレイな整地をさせて強引に突破すると言う発想は、あまりにも乱暴で策と言い難い気もするが結果として極めて有効な移動ルートをもたらしていた。


 知恵を授けたのは鬼面族の最長老。マリリンおじいちゃん。

 「巨体の皆さんは目立ちますですさー。ならば、巨体を生かして姿を隠すのが良いでございますさー」との事。


「ごめんな。べべベラ。あたしら肩に乗っちゃってさ。邪魔だろ?」

「へへっ! とんでもねぇ! 女神様の尻が両肩に乗ってるとか!! ご褒美ですわ!! アガるぅ!!」


「あ。そう。お前、ちょっとキモいな。名前も呼びづらいしさ。何なん。べべベラって」

「サイクロプスに伝わる偉人ですぜ! 10メートルを超える巨体で、かつては山に大穴を空けたこともあるんでさぁ!! へへっ!!」


 女神コンビはサイクロプスで最も大きい男。べべベラの両肩に搭乗。

 由来になった偉人には及ばないものの、8メートル近い体は充分な巨大戦艦。


「あ。ごめん。そんな由緒ある名前なんだ。あたし、悪いこと言っちゃった。そんな顔伏せんなよ。悪かったって」

「いえ! ベル様がモジモジして尻を動かしたの! 正直興奮したんで!! つい前かがみに! へへっ!!」


 ベルさん。ちょっと涙目で逆サイドの肩に乗る相方に訴える。



「おい! フゴリーヌぅ!! こいつやっぱキモい!! あたし、飛んじゃダメ!? 逐一あたしの尻についてコメントしてくんだけど!?」

「ダメだよー。ベルってばー。飛んだら視覚的にも捕捉されちゃう可能性あるしさー。連邦さんにはマザー様がいるっぽいじゃん? さすがに、ここまで近づくと女神の魔力で場所察知されちゃうよー。お尻くらい良いじゃん。減らないしさー」



 直情的な思考のベル。

 包括的な思考のフゴリーヌ。


 お互いが極端な考えを持つことで、それぞれをカバーし合うナイスバランスを見せる。

 これも2人を長らく一緒に済ませていたゼステルの思惑通りなのだろうか。


「けど、思ってたより時間かかってるねー。帝国軍の陽動部隊って着いちゃったかなー?」

「知らね。まあ、数十人くらいの規模だろ? ヤバくなったら逃げるって」


 おわかりいただけただろうか。

 はぐれ女神連合軍は帝国軍本隊、以降はアルバーノ隊で表記を統一させるが、その部隊の存在の全容を理解していない。もちろん愉悦さんの仕業。


 アルバーノ隊に至っては、はぐれ女神連合軍が侵攻している事すら知らないでいる。

 こちらはゼステルではなく、蒼雲の聖騎士レンブラント・フォルザの指示。


 「アルバーノのプライドを傷つけることもあるまい」と言う親心からの配慮であったが、そこで仲介する愉悦さんの良くないハッスルが加わる。

 「あ。これ、ベルとフゴリーヌにも最低限しか伝えないようにしましょう! そっちの方が面白そうです!!」と、総合的な判断を下す。


 ゼステルも勝利を放棄するつもりはないが、彼女はその過程の面白さも重視する。

 良い感じにみんなが戸惑って、盛り上がったら素敵だなと考えている彼女。


 最近の権威失墜っぷりがいっそ清々しいマザーだが、ゼステルの抹消については正しい判断だったという証明になるだろう。


「ベル、ベルー。私ね、オヤツ持って来たんだよー」

「マジかよ! ちょうだい!! そんなの聞いたら、欲求抑えられないわ!!」


「はーい。森のヘドロで捕まえた、ゲロウナギさん!! お刺身にしてみましたー」

「よっしゃあ!! いや、バカか!! いらねぇんだが!! あっ! さっきお花摘みに行ってくるって言った時だな!? 何してんだよ! 変なもん拾ってくんな!! せめて火を通せよ!! あと、トイレ行け!!」


「えー。女神はトイレ行かないもん」

「行くだろ!! あたし、すぐお腹壊すんだよ!! 戦争前に味方殺しにかかってんじゃないよ!! それはその辺に捨てとけ!! あっ! べべベラ! おまっ! ヤメろ!!」


「へへっ! 神々しいフゴリーヌ様から、あーんしてもらえるなんて!! 興奮してきましたぜ!! ああー!! くっそ不味いです!! おかわりください!!」

「あーあー。もうダメだ。絶対こいつ、腹壊して途中で動かなくなるよ。マジでさー。分かんだよ、こんな目に見える置き石されたらよー」


 フゴさん。自分でもゲロウナギの刺身を食べてご満悦の表情。


「んー。美味しいよー。もうね、誰かが口の中で咀嚼したんじゃないかって思える食感の主張がすごいの。これはご当地名物になるねー」

「お前の食レポ聞いてたら、食欲消えたわ。すごいな、フゴリーヌ。まさか、言葉であたしの欲求叩き折ってくるとか」


 はぐれ女神連合軍は戦場到達までまだしばらくかかりそうである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 アルバーノ隊は。


「報告します!! アル様!!」

「ああ。頼む」


「先ほど、ブヨブヨしたウナギっぽいものを連絡部隊がたくさん拾いました!!」

「そ、そうか。拾ったのか。それは恐らく、ゲロウナギだな。ラジルーニ地方に古くからいる固有種で、その辺の沼とかに山ほどいるらしい」


 レオーナ・アルキシオンさんもゲロウナギをゲット。

 エルミナ連邦で敵勢力を最初に歓迎するのが彼ら。ゲロウナギさん。


「アル様にも差し上げます! どうぞ!! 続けて、ご報告です!!」

「あ、ああ。凄まじくヌルヌルしているな。うっ。しまった、鎧が……」


「部隊の先頭がそろそろエルミナ連邦の哨戒区域に差し掛かります!! いかがいたしましょうか!!」

「予定通りだな。では、魔法兵を中心に超遠距離で挨拶をさせろ。この規模の軍だ。存在を隠そうとするのは愚策。こちらを意識させ、敵の足に重りを付けさせよう」


「了解しました! 伝令を飛ばします!!」

「ところで、レオーナ。このウナギは?」



「私はいりません!! アル様は乙女をネバネバさせるのがお好きですか!?」

「君は絶対大物になるぞ。軍人ではなく、政治分野が向いているのではないか?」



 アルバーノ隊。

 エルミナ連邦に到達。


 順次攻撃しつつ、バーリッシュへと進軍開始。

 指揮官は着実にベタベタしております。

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