第154話 籠城戦を選んだエルミナ団! 雷鳴の遊撃隊を編成へ!! ~二手に分かれるエルミナ連邦~

 エルミナ連邦では部隊の編成が急ぎ進められていた。


「私たち聖騎士は意見を同じくしております。それらを具申いたします。諸君、是非とも忌憚なき意見を賜りたい」


 作戦会議の議長を務めるのは紅蓮の聖騎士ジオ・バッテルグリフ。

 進行役に榎木武光敏腕首席補佐官。

 その補佐にリン後輩社員さん。


 補佐が渋滞している。


 エルミナ団、およびエルミナ連邦の会議は基本的に榎木武光が主導する。

 それがこれまで不文律のようになっていたが、今回はその武光が辞退。

 軍事分野が大半を占める内容であれば、戦いが専門の聖騎士たちに任せるべきというのがエノキ社員の意見。


 それを受けたのがジオさん。

 気付けば常に責任の伴う第一線に立っている、エルミナ連邦メンズコンビの片割れであり、このメンズコンビは苦労人コンビとしても活動中。


「良いか」

「もちろんです。トールメイ様。お願いいたします」


「エノキ。貴様には許可を求めていない」

「もぉー! お姉ちゃんってば!! あんまりぶっきらぼうを拗らせてると、出番減りますよぉー? あとあと! テコ入れに殺されますねっ!!」


「黙れ!! さっきまで逃亡して、酒に溺れていた愚妹には何も言われたくない!!」

「お姉ちゃん……。頑張って目立って、サービス要員から脱却しようと……!! よよよっ。なんて涙ぐましい努力!! わたしは何もしないままでもメインヒロインなのでっ!! そんな苦労の味は知らずに生きていますっ!! ぐへへっ!!」



「この畜生キノコを呼び戻した意味をわたくしはちょっと理解できてねぇですわ」

「まあ、普通に考えたらヘイト役じゃろ? こんな明確なデカい乳の的があれば、うちのお師匠でもいない限り安定なのじゃ」

「エルミナ様ー!! そこのお茶取ってー!! 喉渇いちったー!!」


 乳キノコさん、無事に復権。

 エルミナ団古参メンバーは何となく落ち着くと思ったが、口には出さない。



「話が進みませんので、トールメイ様。お願いいたします」

「ふんっ。……聖騎士たちの意見は分かった。籠城戦か。悪くないと思う。敢えて道を開け、攻め込ませることで人的被害を防ぐか。敵の数と我らの数。比較するまでもない。そこで、遊撃隊だったな?」


 聖騎士トリオの出した結論は、籠城と遊撃隊による各個撃破の2段構え。


 帝国軍の物量作戦に対して、籠城は最も愚策とも思えるチョイス。

 だが、それはトールルメイさんの前述にもあるように、敵の進行ルートを開ける事で被害を抑える目的がある。

 何より、その籠城戦事態を囮にすると言う大前提が存在する。


「はい。エルミナ連邦の戦力の約3割を割き、遊撃隊を編成します。その精鋭により、まず最優先に狙うべきは霧雨の聖騎士アルバーノ・エルムドア。彼の懐柔は難しいでしょう。師である蒼雲の聖騎士レンブラント・フォルザへの忠誠心は高い。ゆえに、今回は非道を承知で急襲ののち、ピンポイントで彼の首を狙います。私の知っている限り、霧雨の部隊は存在しない。どれほど練度を積んでいようと、隊長と部隊が主従関係にない。この点は大きいかと」


 ジオ総督の理は当然だが絶対ではない。

 ある種、希望的観測が含まれている事も否定はできない。


 だが、既に敵が侵攻してきている状態であれば、作戦立案に確証のない事実を積み込むのも致し方ない。

 現状、得られる情報を総動員したのち、どんな地盤の緩い理屈も加味して複合的に判断する事が肝要。


 さらに短時間で実現可能であると言う条件まで付く。

 多少の粗さに目をつぶってでも今は立案、実行を急ぐとき。


「よし。ジオ。そしてソフィア。この場にはおらぬが、マチコ。貴様らの覚悟はよく分かった。ならば、遊撃隊の指揮はこの私。雷鳴の女神が執ろう」


「えっ!? お姉ちゃんが行っちゃうんですかぁ!?」

「えっ!? トールメイが行ってしまうのですか!?」


 先のコメントがデキの悪いキノコ娘のエルミナさん。

 後のコメントは最近地位が失墜中のおっかさん。マザー。


「そうだ。女神が関与している事が分かった以上、人間たちばかりを矢面に立たせる訳にはいくまい。……マザー。あなた、急激にエルミナに寄って行っておりますが? 大丈夫ですか?」


「トールメイ!! 何という事を言うのですか!! 私は、総合的な事柄を踏まえて意見しているのです!! ……私の傍にいるのが、エルミナとプリモになるのですか!?」



 確かに、割と不安の残る布陣であった。



「致し方ないでしょう。私たちの中で最も戦闘に向いている女神は私です。ならば、戦場に出るのも私であるのが必定。マザーも来られますか?」

「行って来なさい! 私の自慢の娘!!」


「会話をしたくないが、エノキ!」

「はい。お着替えでしたら、すぐにご用意します」


「だぁぁまれぇ!! 私のお着替えを貴様がご用意するな!! ルゥにでも頼む!! それよりも、編成の要望を出すから纏めろ!!」

「あ。はい」


 トールメイお姉ちゃんが出した希望の部隊編成はかなり質素だった。


 副官にプリモ。実労部隊に白銀の聖騎士部隊。隊長にソフィア。

 残りはエルミナ親衛騎士団から特殊工作部隊のスリラー。

 現在バーリッシュに向かっている、ウェアタイガーとガネーシャの亜人戦闘員。


 以上の人員をエルミナ遊撃隊として出向させて欲しいとの事である。


「手配します。ジオ様。よろしいでしょうか?」

「無論だ。しかし、トールメイ様。いくらなんでも層が薄いのでは。聖騎士部隊をもう1つくらいお連れ下さい」


「いらぬ。バーリッシュの防衛をこれ以上削れるか。ここが落ちれば全てが終わるのだ。何より、急場しのぎの人員だ。大所帯になれば足が遅くなる。霧雨の部隊と同じ条件を作ってどうする」

「なるほど。正しいお考えです。だが、やはり私はトールメイ様の身を案じたい」


 トールメイ様は「ふっ」と笑う。


「案ずるな。こちらにはマザーがおられる。マザーは女神の気配を掴めれば、転移魔法が可能。つまり、遊撃隊の人員補給は自在と言う事だ」

「えっ!? あ。ええ! もちろんですよ!! お任せなさい!!」


 エノキ社員。念のために確認してみる。


「マザー様」

「はい。何でしょうか?」


「帝国の指揮官と見られる愉悦の女神様の気配を捉えて、本陣を急襲する事はできないのですか?」


 マザー。顔色を悪くして隣の娘に耳打ちした。



「エルミナ! エルミナぁ!! あんたのとこの武光さんが、おっそろい事を言うてるじゃないの!! ちょっと、どうにかしなさい!! 戦争の序盤で本陣に裏ルート特攻とか!! 確実に死にますよ!? あの人、女神界の総帥を初手で殺す気ですか!?」

「武光さん、そーゆうとこありますからねぇー。あの人、効率重視マンですから。効率厨なんですよぉー。適当に理由付けて断った方が良いですよ?」



 エノキ社員の耳は地獄耳。

 全てを聞き取って、「分かりました」と答えた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 会議から遊撃隊の参加メンバーが離脱する。

 ルゥが会議室にお茶をトテトテと持って来てくれたため、心を和ませながらしばしの休憩が取られる事となった。


「ルーナさん。お願いできますでしょうか?」

「オッケー!! 任せてー!!」


「おや。まだ何も言っておりませんが?」

「君はあたしの師匠だもん!! 何でも言う事聞くよー!!」


 ここにも睦まじい師弟を見つけて、総督閣下が目を細めた。


「素晴らしい信頼関係だな。エノキ殿。貴殿は優れた師にもなれる。戦いが終われば是非ともバーリッシュ総督を引き継いでもらいたいものだ」


 そこに加わる、小さな正妻候補。


「エノキさん、パパの後を継ぐの!? じゃあね! ルゥ、総督のお嫁さんだねっ!!」


 ゴシャッと音がして、ジオ総督が顔面でマグカップを叩き割った。


「じ、ジオさぁぁぁぁぁん!! ほぎゃあぁぁぁぁ!! うちの大将が流血してますけどぉぉ!? エリーさん!! 早く治療してくださぁい!! ジオさんいないと! わたしが担ぎ出されちゃいますからぁ!!」

「……エルミナ連邦はもう終わりだ」


 武光は「結構です。妙に委縮するよりはずっと良いですね」と言ったのち、ルーナに仕事を託す。

 彼女は「分かったー! すぐに行ってくるねー!!」と言って、会議を抜ける。


 着々と準備を整えているエルミナ連邦だが、時間的猶予はない。

 戦端が開かれるまで、残り時間は約2日。

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