第153話 強欲さん(小盛)と豚さん(特盛)の帝国領北上中!! ~ちょっと寄り道、グルメの時間~

 エルミナ連邦が色々と態勢を整えている間にも、彼女たちは超スピードで帝国領を北上中である。


「やー。すごいよねー。ベルの魔法ってさー。浮遊魔法だよねー。実に快適だよー。豚のくせにごめんねー。重いよねー」

「はぁ? 豚が豚とか自覚してんじゃないよ!! その謙虚な姿勢見せられたら! あたしは承認欲求出すまでもないじゃん!! 欲出す前に満たしてくんな!!」


 強欲の女神・ベルさん。

 特技は転用に長けた魔力操作。


 豊富な魔力を蓄積させる事が可能な強欲の力。

 蓄積した魔力を己の欲するままに運用できるのもまた、欲の力。


 何かを欲する事はすなわち、力の発展と向上につながるものであり、類まれなモチベーションと言い換えても良い。


「すごい速さだよねー。普段私たちってさー。あんまりお出かけしないでしょ?」

「そうだな。そもそもあたしら、ゼステルに行動制限されるからな」


「ねー。だからさー。こうやってベルとお空飛んでるとさー。なんだかそれだけで楽しいよねー。報われる思いだよー。豚のように卑しい私が報われちゃうなんて、この世は結構綺麗だよねー」

「何言ってんだよ、フゴリーヌ!! あんた、まだ食欲満たしてないのに!! 勝手に満たれてるんじゃねぇし!!」


「えー? でもさー。普段からベルと一緒にご飯食べてるでしょー? ご飯って、もちろん何を食べるかも大事だけど。誰と食べるかが一番大事だと思うんだよねー」

「こいつ!! どこまでもあたしの欲を満たしてくる!! ヤメろよ! 存在価値なくなるだろ!! 頭にきた!! 絶対になんか美味いもの食わせてやる!!」


 さらに北上すること80キロ。

 彼女たちは時速70キロほどで飛行しているため、飛行機などの技術が存在しないグラストルバニアでは恐らく最上位の移動速度を有しているだろう。


「おっ!! なんか屋台が出てる!! あそこ寄ろうぜ!!」

「でも、お金ないよー? 私。ベルだってないでしょー?」


「ふっふっふ! あるんだよなぁ! これが!! ゼステルがくれた!!」

「おおっ! すごい! ゼステル、太っ腹だねー」


「だよな! あいつ、結構いいやつだよな!! あたしら助けてくれてるし!」

「ねー。お土産買って帰らないとねー」


 この子たちは心が清らか過ぎるため、愉悦を尽くしているだけのゼステルも余裕で善人に含まれると言う当たり判定の広さ。

 だが、安心して頂きたい。


 ベルとフゴリーヌが褒めるだけで、何故か対象にヘイトが溜まると言う新しい秩序がこの世界に誕生している事実。


 最終盤において、とんでもない第三勢力が誕生していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 屋台からかなり離れた場所に着陸した2人。


「おい、フゴリーヌ! なんでこんなに遠くに降りるんだよ!! だるいじゃん! 歩くの!!」

「ダメだよー。私たちが急に空から降りてきたらだよー? みんながビックリするじゃない? ご飯の時間を邪魔するのは、豚的にアウトなんだよねー」


「お、おお! なるほどな!! それは確かにあるな! 人の食欲脅かしてまで自分の欲を満たそうってヤツはもぐりだ!! プロは自分の欲満たしながら、他人にも欲を満たせる空間を提供するもんだからな!!」

「おおー。ベルは優しいよねー。顔も可愛いし。女神じゃなくて天使でもやっていけるんじゃないかなー?」


「おまっ! ヤメろよ!! フゴリーヌの方が可愛いだろ!! おっぱいでけぇし!! 顔小さいし!! なんか肌とか白くてスベスベしてるし!!」

「えー? それって褒められてるのかなー? なんか、外見が邪魔して本質を見てもらえてない気がするんだよね。スタイルが良いとかただの個性でしょ? 豚が太ってるからって蔑むのと同じだよー。痩せてても太ってても、大事なのは中身だよー? 外見が優れてるって思うのもその人の価値観だもん。それを自分は優れてるから、見て、褒めてーって言うのとは違うと思うんだよねー」



 落ち着いてください。キノコ教の皆様。

 これ以上は進めません。お戻りください。豚はダメです。ご容赦ください。

 ポッと出の豚に、エルミナさんのわがままボディが負けるなんてあり得ません。


 お戻りください。隙を見て突破を試みないでください。

 ご覧ください。立派なおっぱいが二房。エルミナ連邦にはございます。

 ですが冷静かつ理性的な視点でご覧頂くのは困ります。目が覚めてしまいます。



 屋台にやって来たベルさんとフゴさん。


「へい。いらっしゃい」

「ここは何を食わせてくれるんだ?」


「うちはね。今、帝国領の北で勢力拡大中のエルミナ連邦の名物料理を扱ってんだよ!! と、あんまり大きな声じゃ言えないんだけどね!! へへっ。内緒の提供さ!!」


 帝国領でもエルミナ連邦の存在はちょっとしたムーブメントになっている。

 なにせ、何百年と続いてきた帝国一強の時代に風穴を開ける新風。

 心惹かれる民衆は多い。


「わー。偶然だー。店主のおじさんのおすすめはなんだろー?」

「お嬢さん! よくぞ聞いてくれた!! うちはね、これよ!! クソウナギのかば焼き!! ズルッズルの食感と、ドロドロした濃い味付けが売り!! なんか体にもいいらしいよ! おっぱい大きくなったり、肌がつやつやしたりするんだと!!」


「へー。じゃあね、二人前くださーい」

「あいよ! すぐに焼くから、待っててな!!」


「おい! フゴリーヌ! 勝手に決めるなよ!! 嫌だよ、あたし! もっと美味そうなヤツがいい!! 絶対お腹壊すじゃんか!!」

「平気だよー。ベル。前にお腹壊した時はさ、ゼステルが持って来た瓜も一緒に食べたからだってばー。それに、ベルが食べたのはゲロウナギだよ? こっちはクソウナギさん」


「どっちも名前からして最悪だろうが!!」

「ベルはそんなこと言いながらもさ。ちゃんと食べるんだよねー。優しいもんねー。素直にならないところは、きっと世の中の素直になれない子たちのためなんだよねー? ベルが素直になっちゃったら、あまのじゃくさんたちが困るからわざとだもんねー」


「お、おお。そうだったのか。あたし、意外とやるな! なんか欲が満たされたわ!! 親父! もう一人前追加で!!」

「あいよ! お姉さん、スリムなのに意外と食べるんだねぇ!!」


「はぁ!? 誰が貧乳だって!?」

「ベルってばー。すぐに絡むんだからー。すみません、おじさん。ベル、すぐに声かけたくなっちゃうんですよー。欲張りさんなのでー。でも、悪気はないんですよ? 静かにしているより、お喋りしてた方が元気出るでしょー?」


「ああ! 分かるよ、それ!! なんだい、お姉さん本当に優しいね!! 分かった! 2人に一人前ずつオマケだ! 食ってくれ!! おまち!! クソウナギのかば焼き!!」

「お、おお! なんだよ、親父!! あんた、女神の欲求満たして来るとか!! やるな!! ……匂いは美味そうだな。よし……!! おらぁ!! んぐっ」


 ベルさんとフゴさん、エルミナ領の味を実食。

 モグモグとしばらく噛んでから、呑み込む。


「あれ。なにこれ。普通に美味い」

「ねー。美味しいねー。おじさんが頑張って焼いてくれて、ベルが一緒に食べてくれたおかげー。ありがとー。2人ともー」



「あ、ああ! お嬢さん、なんだか女神様みたいだな!! 不景気で売り上げもさっぱりだったけど! そんな顔して食べられちゃ、おじさん元気出ちまうよ!!」

「おお。すげぇな、フゴリーヌ。なんか普通に女神活動してんじゃん。あたしら、マザーにぶっ殺されかけたのに」



 美味しそうにかば焼きを食べて、二皿目を頬張ってリスのようになったのち、ごくんと呑み込んでフゴさんは言う。


「んー。けどさー。女神って別に存在の定義がある訳じゃないよねー? 同じ時間を生きてるってだけでさ、隣り合った人を笑顔にできる事は誰にでも出来る事じゃないかなー? やろうと思わないだけだよー。私にできるくらいなんだもん」


 女神であった。

 2人のはぐれ女神は依然として北上中。


 最初の目的地に到着したのは、それから2時間後の事であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 キノコ教からのお知らせ。


 キノコ教では、現在多くのキャンペーンを行っております。

 新規入信者にはもれなく、キノコの女神様のわがままボディが印刷されたブロマイドが進呈されます。

 契約継続の際には別のバージョンが進呈されます。


 どうか、正しい心で正しい選択をされる事を我らのキノコ様は望んでおられます。

 何卒、何卒。

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