キノコ男、フルスロットル! ~敏腕営業マンが異世界転生したら、ポンコツ乙女たちと平和な世界征服を目指すことになった~
第152話 エルミナさん、敵前逃亡へ!! ~こんな戦いばかりの世界もぉ嫌です! わたしは自分の領域に戻らせてもらいますからぁ!!~
第152話 エルミナさん、敵前逃亡へ!! ~こんな戦いばかりの世界もぉ嫌です! わたしは自分の領域に戻らせてもらいますからぁ!!~
エルミナさんが敵前逃亡を果たした。
だが、それも無理からぬことである。
彼女は元から、そもそも下界に降りて来る気もなければ、世界のための命を賭けるつもりもなかったのだ。
ただ、「今回の転生者がミスったら自分が消えるのを阻止したい」という思いがあり、その思いのためだけにここまで戦って来た。
現状、世界の命運を決する最終局面への移行がほぼ決定的となり、何が起きたか。
敵勢力の武装蜂起、女神界から流出していた人材の反乱。
そんな事は彼女にとって大きな意味を持たない。
「マザーが女神を抹消している場合ではなくなった」という事実が大事。
それはやや曲解すると、こうなる。
エルミナさんを消している暇がなくなり、むしろ消せない理由が大きくなった。
つまり、キノコの女神様はセーフティを確保するに至ったのだ。
死に設定になりつつあるため、お忘れの方も多いだろう。
「女神と担当している転生者は一心同体」という縛りが女神界には存在する。
エルミナさんはポンコツだが、実はバカではない。
特に自分の生存本能が関わって来ると、驚異的な頭の切れと冴えを見せる。
彼女は気付いていた。
先ほど、マザーが下界にやって来て、榎木武光に協力を申し出ていたあの瞬間に彼女は確信を持った。
「あれ? 武光さんが欠かせない人材となった今ですよ? わたしを消したら武光さんも消えるわけですよね? ……わたし、絶対に消されなくないですか!?」と。
ならばエルミナさんは逃げる。
自由をゲットしたのである。
逃げない理由がなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
総督府の建物と敷地内の捜索を終えたキノコ探索チーム。
一度集合して、情報の共有を図っていた。
「いねぇんですわ! あの畜生キノコ!! どこ行きやがりましたの!?」
「ふーむ。ワシが思うに、エルミナの性格を考えるとじゃな。もう街から出ようとしておるのではないか? あのデカ乳、魔力をそこそこ持っとるのじゃ。バーリッシュから出てしまえば、身を隠すのも自在なのじゃ」
「むきぃー!! なんて恥知らずのキノコ!! これまで散々武光様に助けて頂いたご恩を忘れやがるなんて!! 許せねぇですわ!! 乳ビンタですわ!!」
「どうせいなくなるのなら、ワシはあの乳から細胞を摂取したいのじゃ。ふふふっ」
榎木武光は考えていた。
あの女神様は確かにどうしようもないが、どうしようもないなりに頑張る時には頑張ってきた事を加味すると、きっとまだ、どこかで迷っているに違いないと。
「いくつか思い当たる場所がございます。お二人は、このまま総督府周辺の捜索をお願いできますか。少しばかり市街地へ行って参りますので」
「ぐぬぬっ。武光様に探されるとか!! 超ご褒美じゃねぇですの!! 許せねぇ! 許せねぇですわよ!!」
「いや、ステラ? お主、武光に捜索された回数だけで考えると、エルミナを超えておるのじゃが?」
「またまたぁ! エリーさんったら! ちょっとキャラ取り戻したと思ったら、変な事をおっしゃらねぇでくださいまし!! 冗談が面白くねぇですわ!!」
「あっ。こやつ、まさか無自覚行方不明キャラを通すつもりなのじゃ? とんでもない胆力なのじゃ。行方不明キャラの根拠がそもそも不明なのに」
自分たちのキャラについて少し考え始めたエリーさんと、完走を目指すステラさん。
彼女たちに手を振って、エノキ社員はキノコを手から生やしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぐへへっ。大将! 今のお酒をもっと濃い目に!! おかわりくーださいっ!!」
エルミナさん。
旅支度を済ませて普通にバーで飲んでいた。
そこに音もなく出現する、キノコの使徒。
「では、私も同じものをお願いいたします」
「あらぁー。武光さんも今日はイケる口ですかぁー? 珍しいですねぇー。じゃあ、わたしが特別にお酌をして……。はっ!? たけ、たけみちゅしゃん!? なんでここが!?」
よく榎木武光の体を観察して見ると、全身から緑色の光が放たれていた。
エルミナさん、察する。
仮にも自分発の異能である。何となく、感じるものがあったらしい。
「えええっ!? 武光さん!? あなた、もしかして『転移の緑茸』食べましたぁ!?」
「ご明察です。食べてみたところ、エルミナさんの元へ瞬間移動ができました」
「ええ……。そんな事だからすぐお腹壊すんですよ?」
「このままあなたに逃げられるよりは、腹痛の方がマシだと愚考した次第です」
マスターが「あいよ」と言って酒を2人前並べる。
「ありがとうございます」と頭を下げて、武光は椅子に腰かけた。
「わ、わたしは帰りませかんらねっ!! もぉ! あんな死と隣り合わせの日常なんてまっぴらです!! 自由を手に入れたんです!! 武光さんの言うことだって、聞きませんからぁ!!」
「エルミナさん」
エノキ社員。
エルミナさんの顎をクイッとやって、顔を近づける。
「ぴゃ!?」
「言っておきたい事がございます」
そのまま武光は、エルミナさんとの距離を縮めていった。
そして告げる。
「あなたが逃げた瞬間に、私は自害します。すると、あなたは消滅しますが?」
「ええええっ!? 今の流れでそんなストレートな脅し文句言いますぅ!? どう考えてもラブコメの波動だったじゃないですかぁ!? ちゅーする場面じゃないんですかぁ!?」
エルミナさんの退路を一瞬で断ち切ったエノキ社員である。
彼は満足そうにお酒を一口。
「まあ、仮に逃げられてもですね? 私が戦争で命を落とせばあなたは消える訳です。考えてご覧なさい。いきなり、何の前触れもなく自身の存在が消滅するのです。怖いですよ? 覚悟もなく、準備もなく、消えるのです。もしかすると、お酒を飲んでいる瞬間かもしれません。お手洗いに行かれているかもしれません。それが生涯最期の瞬間でよろしいのですか?」
「ぴぃいっ!? なんでガチの怖いこと言うんですかぁ!? 本当に怖いですっ!! シャレにならないヤツじゃないですかぁ!! うぇぇぇー。もう逃げられませんよぉ……。くすんっ。酷いじゃないですかぁ……」
メンタルも叩き折る事に成功。
数多の試練を潜り抜け、いつの間にか最強の敏腕営業マンが顕現していた。
「お分かりいただけたようで何よりです。あなたはエルミナ連邦の国家元首。敵前逃亡などされては士気に関わります。自覚をお持ちください」
「うぐぅ……。普通、こーゆうシチュなら、なんかありますよね? 昔の思い出とか振り返って、臆病風に吹かれたパートナーを鼓舞したりぃ」
「エルミナさん。あなた、別に臆病風に吹かれていませんよね? ただ怠惰な感情に身を任せただけですよね?」
「ゔっ。否定はできませんけどぉ……」
エノキ社員は「やれやれ」と首を横に振った。
続けて、交渉の仕上げに慈悲を見せる。
「約束しましょう。この戦いを終えて、グラストルバニアを平定したのち。私がエルミナさん。あなたのお世話を致します」
「えっ!?」
「もちろん、最優先事項として対応いたします。衣食住、全てをお任せください。女神の寿命については存じ上げませんが、私の寿命が尽きるまでは、精一杯奉仕させて頂きましょう」
「ほ、本当ですかぁ!?」
「嘘はつきませんよ」
「……悪くないですねぇ。じゅるり。武光さん、超優物件なのは間違いないですしぃー。あっ!! 皆さんからもマウント取れますっ!! ぐふふっ。ステラさん辺りは完全にわたしのマントの元で制圧できますよぉ!! ぐへへっ。武光さん! そのお話!! 乗りましょう!!」
もはやエルミナさんに退却の意思はなかった。
この戦いさえ乗り越えれば、生涯の安定が保証されたのだ。
是非もない。
すごくただれた感じでメインヒロインを奮い立たせたエノキ社員であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
総督府にキノコさんを連行したエノキ社員。
正門の前では、ステラ&エリーのキノコ捜索隊が待ち構えていた。
エルミナさんは手を振って彼女たちに応じる。
「お出迎えですかぁ? もぉー! 2人も誰を崇めるべきかよく分かって来たようですねぇ! ふひひっ。おっぱい触らせてあげましょうぁ? ほらほらぁ!! ねぇねぇー! 見てください、ほらぁーねどぉふぅっ」
こうして、戦支度は整った。
戦闘開始の時はすぐそこまで迫っている。
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