第151話 女神界からの勅命、下る! いざ、グラストルバニア平定へ!! ~始まる死亡フラグの押し付け合い~

 帝国で勢力が次々と蜂起する一方で、エルミナ連邦にも動きはあった。


 バーリッシュ総督府の談話室で食事をしていたエルミナ団。

 珍しく、フルメンバーが揃っている。


「ややっ!」

「エルミナ。貴様も感じたか?」


「はい! もちろんですよ、お姉ちゃん!!」

「そうか。ふふっ。貴様も知らぬ間に成長していたのだな。私は姉として嬉しいぞ」


 キノコと雷鳴の姉妹が何やら気配を察知していた。

 タケノコさんは気付いていないため、不思議そうに首を傾げた。


「んふふー。プリモはダメですねぇ! 観察力が育ってないんですよぉー!! わたしくらいになると! もうね、見ただけで気付きますから!!」

「なんですと!! エルミナ! あなたはそんな高みに到達していたのですか!! うむむ! これは悔しいですが、百点満点を差し上げなくてはならないのでは!!」


 エルミナさんはビシッと指をさして言った。



「見てくださいっ!! お姉ちゃん、新しい下着を付けてますっ!! なぜならばぁ!! キャミソールの下からチラ見えしているからです!! 相変わらずのフリルだらけ!! お姉ちゃん、この間29歳になったのに!! 下着の趣味は未だに乙女なんでごふぅっ」

「なぁぁにを言っとるのだ、貴様ぁ!! 私の下着に気付いただけで、あれほど強者っぽいマウント取っていたのか!? 私が言っているのは、女神界からマザーがこちらに転移して来る気配についてだ!! ……下着はみ出してるなら、早く教えろ。エノキにガン見されていたじゃないか。またあの男の脳内フォルダを潤した。……ふぐぅ」



 言うまでもない事だが、ステラとソフィアは食事の手を止めお姉ちゃんの恥ずかしがる姿を凝視したのち、無言でハイタッチした。


「トールメイ様。マザー様が来られるのですか?」

「人のはみ出した下着を指摘もせずに凝視するようなクズと交わす言葉はない」


 何故か日々を重ねるごとにお姉ちゃんから嫌われていくエノキ社員。

 彼女が辱められた歴史を紐解くと8割以上がエノキ社員発なので、意外と真っ当なルートで嫌っている事が分かる。

 そのため、お姉ちゃんを強く責める事も出来ない。


「では、トールメイ様」

「なんだ」



「いえ。ご指摘をお望みでしたので。短パンがいささかずり下がっておられます。下着が割と見えております。直された方が良いと技巧する次第で。お察しするに、エルミナさんのお古を使われているため、短パンの耐久値に限界が来たのではないかと愚考します」

「きさっ! きっさまぁぁぁぁ!! そーゆうとこだぞ、エノキぃ!! こっそり教えろ!! どうして食事をしているグループの中で大々的に発表する!? そこをお察しせんか!! ここにはルゥだっているのだぞ!! くそっ!! このエロキノコが! 雷で滅したい!!」



 熱いハイタッチが行われましたが、省略します。

 代わりに最年少の乙女が発言する。


「トールメイ様! ルゥね、全然気にしないよ!! そういうの、ルゥ知ってる! ラッキースケベって言うんだよね!! ソフィアさんの持ってた本に描いてあったの!!」

「……私、もう女神界に帰るからな。あとソフィア。とんでもない裏切りだ。貴様の事は信じていたのに。ルゥになんて書物を読ませておるのだ」


 ソフィアさんは敬礼して「申し訳ありません!! ですが、ルゥも恋する年頃ですので!! 準備は必要かと愚考した次第です!!」と述べる。

 お姉ちゃんは「本当に貴様らは愚考して愚行を繰り返す。人間、滅びれば良いのに」と呟くに留めた。


 そこに満を持して転移して来た女神界のおっかさん。

 マザーさんである。


「エルミナ団の皆様。お元気でしょうか。この度は1つのお知らせを持って参りました。……トールメイ? 具合が悪そうですが?」

「黙れ!! あ。失礼しました。何でもありません……」


 マザーは驚愕した。

 「うちの優秀な子が、なんだか反抗期に入っていますよね!?」と。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 マザーは知らせを携えて来た。

 それは、帝国で2つの勢力が同時に蜂起したという凶報。


「事実なのですか!? マザー様!! そうなれば、事は切迫しております!! 至急、国内の全土に知らせましょう!!」

「残念ながら、事実です。ジオさん。どうぞ、知らせを飛ばしてください。今回私は中立の立場を返上しております。エルミナ連邦に肩入れするという、均衡の放棄。ですが、致し方ありません。事は既に、人間同士の争いに留まらないのです」


 マザーさん、ついに帝国の中枢に巣食っていた愉悦の女神・ゼステルの存在を察する。

 もっと早くお察しなさいよと言う声には聞こえないふりをして、今回、女神界の代表として下界に降臨する。


「よもや、グラストルバニアの争いが女神による扇動だったとは。いえ、もちろんそれ以前の争乱は違ったでしょう。しかし、結果として現在、この世界を滅ぼそうとしているのは女神の勢力。もはや是非もありません」

「ええー!? マザー!! ちゃんと管理してないからですよぉ!! もぉ! 何してたんですかぁ!? 30年以上も放置してたんでしょー!? ちょっとあり得ないって言うかー!! それ、皆さん納得しませんよー?」



「お黙り!! せやから私が来たんでしょうが!! もうね、聞こえてくるんですよね、神々の声が!! エルミナ! あんた知らないかもですけどね!! 私とあなたと、後は帝国にいるバカ娘のヘイトがものっすごい高まってるんですよ!! どうするんですか!! こんなに場が煮詰まっているのに!! 最悪、私かあなたか、トールメイ辺りが死にますよ!?」

「えっ!? それはやですよぉ!! なんでわたしが!! わたし、何もしてないのにぃ!! ただわがままボディで皆からチヤホヤされる、愛され系美少女ってだけですよ!? それは罪ですかぁ!?」



 さすがは女神界を統べるマザー。

 全ての事象に精通しておられる。


「な、なぜ私まで……?」

「トールメイ。すみません。私の不手際です。けれど、何となく流れ的にも立ち位置的にも、一番死にそうなのはあなたです。気を付けてください」


 理不尽を重ねていくスタイル。

 権威回復は絶望的か。マザー。


 ここでようやく口を開くのが我らの敏腕営業マン。


「マザー様。まとめますと、現時点で既に帝国から多くの兵がこちらに向かっており、なおかつ女神が関わっておられると。そこで、マザー様は立場を省みず、我々エルミナ連邦にご助力くださる。そういう次第でよろしいでしょうか」

「榎木武光さん。あなたは相変わらず、素晴らしく優秀な方ですね。ほとんどそういう次第でよろしいです。この戦いが終わったら、私の後継者になりませんか?」



「おヤメください。具体的な未来のお話をされますと、私も死亡のリスクが急激に上昇します。事実、豪水の聖騎士様が亡くなられています。つまり、この世界では人が死にます」

「え、ええ。あの、ちょっと私にも何を言っておられるのか分からない点があるのですが? 何でしょうか。この世界ではとは? 別の世界があるような言い方ですが?」



 2人とも、それ以上はいけない。


「つまりなのさー。今、急いでしなくちゃいけない事は態勢を整えることさー? 迎撃と遊撃の2種類は最低でも準備したいさー」

「よし。私は聖騎士部隊に行ってくる。マチコに死んでも良いように準備をさせてくるからな!!」


 エルミナ連邦の実働部隊が活動開始。

 急ピッチで迫りくる大軍に対しての備えを拡充させていく。


「では、今後の対策について話し合いましょう。おや? ルーナさん」

「なにー?」


「エルミナさんをご存じありませんか? 先ほどまで、そこでお酒に浸っておられましたが」

「あれ、武光気付いてなかったの? エルミナ様ならね! こんなところにいられませんよ! 命がいくつあったって足りません!! わたしは降りますからね!! とか言って、裏口の方に走って行ったよー?」


 エノキ社員は数秒だけ目を閉じて、すぐに行動する。


「ステラさん。エリーさん。エルミナさんの捜索に手を貸して頂けますか? リンさんとプリモ様は共に会議の準備をお願いいたします。マザー様のサポートを」


「がってんですわ!! あの畜生キノコ!!」

「ワシ、久しぶりに鉄球をあのデカ乳にぶち当てるのじゃ」

「あいさー。いってらっしゃいさー」

「私はお茶を淹れて来ます!! タケノコのお刺身もお茶請けにご用意しましょう!!」


 エルミナ連邦、帝国にやや遅れを取りながらも始動する。

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