第150話 強欲の女神・ベルと豚の女神・フゴリーヌ、割と綺麗なはぐれ女神コンビ登場 ~グラストルバニア、三つ巴の混戦へ~

 帝国軍が動き始めた裏で、同時に挙兵する勢力があった。

 首都ヴァレグレラから西へ40キロほど行った場所に、廃寺がある。


 『テラワロス』と名付けられて300年経つ歴史を持つが、帝国には仏教の概念自体がないため、恐らくかつて転生して来た者が起こしたのだと推測される。

 そこは人が寄り付かなくなり既に250余年が過ぎており、すっかりと荒れ果てている。


 が、かつての創造主の力なのかそこはエネルギーの吹き溜まりと変化し、魔力をはじめとした多くの要素が滞留していた。

 愉悦の女神様がこんな面白スポットを無視するはずもない。


 ゼステルはそこに生体エネルギーを蓄え続け、2人ほど女神を住まわせていた。

 女神界のおっかさん、マザーがかつて良くない思い付きで産み出した「悪しき感情を冠する女神シリーズ」は、何故かどれも強い力と間違った思想を持ち、のちに創造した本人であるマザーによって抹消されている。


 そこからギリギリ逃れたのが、愉悦の女神。


 その仲間が存在したのである。

 もちろん、マザーの抹消は強力でよほどの力を隠し持っているか、あり得ない悪運でも発揮しなければ命を拾う事すら叶わない。


 だが、「悪しき感情を冠した女神」は実に30人近く存在し、その誰もが強力だったためゼステルも含め3人程度生きながらえていてもそこまで不思議ではない。

 そもそもマザーは後年エルミナさんを産み出している。


 マザーが絶対に間違いを犯さない訳ではない証明みたいな存在が、今やこの世界の命運を左右する事実。

 この上なく「マザーの手抜かり」に正当性をもたらすキノコさん。


 さすがはメインヒロイン。


 一方、悪役を務めるゼステルさん。

 拾った女神たちを挙兵させる時がやって来ていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 テラワロスの境内にやって来た愉悦さん。

 彼女は魔力を発現させ、廃寺の領域を覆うと力を加える。


 滞留していたエネルギーに火が付いたようで、急速に燃え上がっていった。


「出たな。ゼステル。あたしらに何の用だ」

「そう目くじらを立てなくても良いじゃないですか。ベル」


「うるさい!! あんたの言うことを聞くとろくなことがないだ!!」

「そうでしたか?」


「そうだ!! 忘れたとは言わせない!! 去年!! ゲロウナギと瓜を一緒に食べろと言って! その後にところてんと生卵を食べさせて!! あたし、お腹壊しただろうが!! 3日も何も食べられなかった!! ふざけるな!!」

「忘れました!!」


「こ、こいつぅー!! ぶち殺してやる!! 『終焉の黒光フィーネ・イルネーロ』!!」

「あら! さすがですね!! 強欲の女神!! 力は取り戻したようで安心しました!!」


 この喧嘩っ早い女神様は、強欲を冠する。

 名前はベル。欲深く力を蓄積させていたおかげでマザーの抹消から逃れたパターン。


「あー。ゼステルだ。なに? ご飯持って来てくれたの? ベルが食べないものが良いなー。ところてんと生卵がいいなー」

「てめぇ! 豚ぁ!! 今の話聞いてたんだろ!! なんであたしが酷い目に遭った食い物チョイスすんだよ! 豚ぁ!!」


 ベルに豚扱いされている彼女は、痩せておりモデルのような体形をしていた。

 しかもおっぱい強者であり、そのわがままボディはエルミナさんに匹敵する。


 豚だなんてとんでもない。


「フゴリーヌ! とびきりのご馳走を用意しておりますよ!! 戦いの後で!!」

「えー。戦わせられるの? でもご馳走かー。ご馳走には興味あるんだよなー。じゃあ、戦おうかなー」


「豚ぁ!! てめぇはいつも考えねぇで本能のまま動きやがって! あたしが毎回尻拭いしてんだぞ!! 気付け!」

「気付いてるよー。ありがと、ベルー」


「お、おお。気付いてんなら良いんだよ。今、あたしの欲は満たされたから。なんだよ、早く言えよ。てめぇ。この野郎。てめぇ」

「ベルは優しいもんねー。わざと好き嫌いして、わたしにご飯分けてくれるしー」


 強欲と結構仲の良い女子。

 冠する感情は「豚」である。


 豚の女神。フゴリーヌ。


 あまりにも酷いものを冠したせいでマザーが消すのも躊躇したのではないかと思われる彼女だが、実力は折り紙付き。

 だが「暴食」を冠していた女神もいたため、そもそも活躍の機会がなかった。


 隣にいる、強欲のベルとも「食欲」絡みで被っており、「悪しき感情シリーズ」の中でも極めて不遇な女神。

 それなのに、豚に汚染される事なく美しい外見に成長し、食欲に際限はないものの「しばらく待ってくださいね」と言われると2年くらいは我慢できる堪え性も持つ。


 マザーが犯した可哀そうな出来事ランキングの上位レギュラーである。


「フゴリーヌは相変わらず、凄まじい美貌ですね! 同性として羨ましい限り!」

「そうかなー? わたしは別にーって感じだけどー。見た目で物の価値を決めるのってナンセンスじゃない? だったら、世の中は綺麗なものばかりになるはずなのにさー。違うでしょー? 自分のスタイルが良いからって、相手からマウント取るのは三流以下だよねー」



 エルミナさん(ド三流)の対戦カードが決まった瞬間であった。



「言われますよ! 貧乳のベルさん!!」

「豚ぁ!! てめぇ! 言っていい事と悪いことの区別もつかねぇのか!! 雑食過ぎだろ!! 豚!! 人の気持ちも慮れよ!!」


「えー。言ってないのにー。ベルは綺麗だよー。無駄な肉が付いてないからさー。わたしみたいに油断しても豚にならないし。洗練された機能性が光るよねー」

「お、おお。なんだよ、分かってんじゃん。それなら良いんだよ。承認欲求が満たされたよ。フゴリーヌはあたしの欲を満たすの上手いな」


 ちなみにこの2人は、現役時代もゼステルほどはっちゃけていなかったため結構綺麗なままである。

 また、命を消されそうになったところをゼステルによって保護された事実には恩義も感じており、結構綺麗な心の2人はゼステルの言うことをだいたい二つ返事で聞く。


「では! とりあえず、道中の亜人の里で兵力を用意していますから! この地図に従って北上してください!! 倒すべき敵の名は、エルミナ連邦!! これ、資料です!!」


 ゼステルから受け取った資料もマジメに読む2人。


「ふーん。自分を女神だと思い込んでる娘が主席に担ぎ上げられてんのか。気の毒だな。ちょっと殺して救ってやりたい欲が湧いてきた!」

「スタイル良いんだねー。じゃあ、わたしと同じで周りの子に気を遣ってるのかなー? 1回一緒にご飯食べたいねー。お話合いそうだなー」


 キノコから豚への乗り換えはご遠慮ください。

 キノコから豚への乗り換えはご遠慮ください。


 当車両は既に途中下車を認めておりません。


 ぽっと出の豚ボディと清らかメンタルに、よもやキノコのわがままボディから浮気をするキノコ教の使徒はいないと思いますが、くれぐれもお気をつけて下さい。



 それをやると、エルミナさんが泣きます。



「とりあえず、行くか。この寺にいても暇だし」

「だねー。亜人だっけー? 美味しいご飯あるかなー?」


「豚! てめぇ! 今から命の取り合いに行くんだぞ!!」

「だけどさー。命を取る前にお腹すくよー? わたしたちだって、いつ消えるか分からないんだからさー。食欲を常に満たすのって大事じゃないかなー? ベルの強欲的にもー」


「お、おお。確かにな。なんだよ、フゴリーヌ。あんた、結構考えてるじゃん。あたしの欲求がまた満たされたわ」

「じゃあ行こうかー。ゼステルー。私たち、行ってくるねー」


「はい! 楽しい報告を待っていますよ!!」


 こうして、女神の第三勢力も誕生。

 帝国軍とは別のルートでエルミナ連邦を襲う。


 愉悦の女神ゼステルのボードゲームは着々と組み上がっていく。

 目に見えない力が「エルミナ、マザー、ゼステルのヘイトが凄まじい勢いで溜まってね?」と唸り声をあげている気がするものの、もう止まれない。


 途中下車はできませんので、お乗り換えは諦めてください。

 駆け込み乗車、飛び降り下車。危険ですのでお控えください。

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