第149話 帝国・瑠璃宮会議! 最強の弟子、霧雨の聖騎士アルバーノ・エルムドア、動く! ~最終決戦の幕開け~

 帝国の首都。ヴァレグレラの瑠璃宮に動きがあった。

 蒼雲の聖騎士レンブラント・フォルザと愉悦の女神ゼステルが決断を下そうとしている。


「ゼステル様。何用か」

「来ましたか、レンブラント! 調査報告が上がってきました! ご覧なさい!!」


 ゼステルが楽しそうに眺めていた資料を手渡されるレンブラント。

 彼らの関係は対等であり、持ちつ持たれつ、優劣はない。

 が、聖騎士の立場上、やはり女神には敬意をもって接するのがこの男の矜持。


「拝見しよう。……ほう。これは事実か?」

「事実だといいですね!」


「あなたは……。それは希望ではないか。愉悦を冠しているからと言って、全ての事に楽しみを求めるのは良くないな。で、伺おうか。本心はどの程度が真実だと?」

「この報告書を見て確信したのは二点です。まず、エルミナ連邦には少なくとも1人以上の転生者がいます。怪しいのはキノコ男とか言ういかにもな名前の彼か。……時点で、こちらの薬剤師。どちらもだったら楽しいですね!」


「何故だ? 名前か? しかし、グラストルバニアには異界の地由来の名前も多いぞ。帝国領にも多くある。例えば、コバヤシ領。ここは住民の9割がコバヤシと名乗っている。さらに、サチコと言う名前が2000人いる」

「なんですか、そこは! 楽しそうじゃないですか!!」


「……楽しいものか。コバヤシサチコだけで2000いるのだぞ? 住民台帳を作るだけでも担当者が嫌がって困っている。この名前は確か、異世界のニホンとか言う国が発祥だったろう?」

「そうなのですか!」


「あなたが以前言っていたのだが……。まあ、良い。これだけ触れても答えぬという事は、名前ではないな。では、ゼステル様。あなたの根拠を聞きたい」

「こちらのキノコ男。彼の使う能力については一通り情報が集まりました。仮に魔導士だとしても、いくらなんでも多岐にわたり過ぎているのですよ。能力が。肉体強化して火球投げたかと思えば高速移動して、ついでに雷を撃つ。レンブラント。あなたにできますか?」


 最強の聖騎士は顎に手を当て少し考えてから答える。


「できんとは言わないが。やらぬだろうな。非効率過ぎる。それほどの汎用性があれば、1種類、多くとも2種類程度に能力を絞るべきだ。そちらの方が強者となる確率は段違いとなる」

「そうでしょう? おかしいのですよ。仮に彼が野生の猛者だとすれば、こんな無茶苦茶な力の運用はしません。それに、連邦には紅蓮や白銀。今は翡翠もでしたか? 聖騎士が多くいます。戦うしか能のない彼らと面識を持っていて、なお矯正されない理由がありません」


「酷い言われようだが、まあ確かに。ジオは優れた男だ。他2名も若いが才能に溢れている。彼らが揃って輝く源石を研磨しないのはいささか不自然か」

「つまり、女神の異能の可能性が高いのです。こちらの佐羽山花火と言う子は、あなたの方が良く知っていますね」


 レンブラントの後頭部が疼く。

 普通は目とか腕とか、いい感じの部分が疼いてくれるはずなのに、破天荒さんが後頭部をガチ殴りしたせいで因縁の傷がよく見えない。


「この女か。この10年で俺が傷を負ったのはこれっきり。いくら注意力が散漫していたとはいえ、なんと情けない」

「この子は情報が全然拾えずに困っていたのですが、ようやくロギスリン領でそれなりのデータが採れましてね。医療系の異能を持っている可能性があると。ただ、空間転移などの事実も報告されていて、結構錯綜しています」


「なるほどな。帝国の諜報機関をもってしても錯綜させられる。それが転生者の根拠と?」

「そこまで言い切りはしませんが。可能性の話です。それに、楽しいではありませんか! 国家にはこのように極めてピーキーな存在がいると盛り上がるのです! 3割くらいは隆盛します。まあ、7割は滅びますけど!!」


 ゼステルさんも認める、花火姉さんの危険性。


「よく分かった。要するに、女神もいると考えておられるわけか」

「いるでしょうね」


「この、エルミナと言う指導者か?」

「それはないでしょう! 私、その子の名前、見たことも聞いたこともないですよ! 多分担ぎ上げられている町娘とかじゃありませんか? だって、何の能力も感じませんから!! 女神に憧れているちょっと痛い子ですね、恐らく!」


 そして、ゼステルさんを見事に騙しているエルミナさん。

 特にカムフラージュするでもなく、「弱すぎる」という理由で除外されていた。


 ロギスリン領の1件だけでも、彼女は自分が女神だと名乗っているのに。

 痛い子扱いされておられる。


「では。攻めるか」

「そうですね。彼らの力は観察し終えましたから。あとは、直接対決ですよ」


「我々が敗れることがあれば、本物と?」

「私たちは敗れませんけどね」


「やれやれ。そろそろ役者に揃ってもらいたい。私もいい加減年だからな」

「嫌ですねぇ。出会った頃はあんなにハツラツとしていたのに。すっかり年寄りのようなことを言い出して。良いです。レンブラントは後方でゆっくりしていなさい。もう呼んであるのですよ。アル!」


 ずっと気配を消していた男が、玉座の前に跪く。


「アルバーノ・エルムドア。控えております」

「ゼステル様。これはうちの弟子なのだが?」


「知っていますよ?」

「だろうな。せめて、俺に一言くらいはあっても良かろう」


 霧雨の聖騎士アルバーノ・エルムドア。

 36歳。聖騎士として肉体も精神も成熟しきる時分の帝国が誇る次代の最強格。

 既に単純な戦闘力だけならば、師匠のレンブラントを凌ぐとも評価されている。


「自分が参ってもよろしいのですか? 師匠」

「よろしいかとは?」


「自分が参じれば、戦争は終わりますが? 師匠の最後になるかもしれない晴れ舞台を奪っても良いものかと」

「あはははっ! アルはやはり楽しいですね! その慇懃無礼さ! 実に愉快です!!」


「何も愉快ではない。アルバーノ。お前な。師匠に対する尊敬が足りんと思わぬか? 俺は帝国最強の戴冠を頂く聖騎士だぞ? まるでお前の方が強いかのように言うな?」

「師匠。自分はもう、師匠と手合わせを5年ほどしておりませんが。まだ若い自分と、老いさらばえるだけの師匠。もはや、比べるべくも」


「あははははっ!」

「……もう良い。好きなだけ兵士を連れて、エルミナ連邦を落として来い」


「承知しました。師匠には手土産に滋養強壮に良いものを獲って来よう。確か帝国領の北には、クソウナギとか言うものがあったはず」

「いらん! そんな訳の分からんものを持って帰るな!」


 こうして、アルバーノは部隊を編成。

 1500人規模の大兵団である。


 その日のうちにヴァレグレラを出立した。

 瑠璃宮には、まだ黒幕の2人が控えている。


 結構層の厚い壁を破壊しなれば、確信にはたどり着けない。

 エルミナ連邦の最終戦が幕を開けようとしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ぶへぇあー!! うまぁーい!! なんですかぁ、このお酒!! 花火しゃん!!」

「エルミナちゃんの飲みっぷりは気持ちええなぁ! お姉さんもとっておきの新製品持ってきたかいがあるで!!」


 こちらはバーリッシュ総督府。

 何も知らないキノコの女神様が、今日も元気にだらけていた。


「……花火さん。今、新製品とおっしゃいましたか?」

「え。武光。そこに気付くとか、あんた天才か?」


「いえ。……それで、エルミナさんに何を飲ませたんですか?」

「これ? これな。シオレガエルの睾丸を集めて精製したお酒みたいな薬なんやけどな? 対象の脂肪分を崩壊させる効能があるねん」


「……え゛っ?」


「脂肪分を崩壊……。物騒なお言葉ですが。私の想像は合っているのでしょうか」

「多分やけど、合うとるで! シンプルに言うとな? デカい乳とか尻を極限まで萎れさせる薬やな!!」



「ぴぃぃぃぃぃ!? な、な、なぁ!! なんてもの飲ませるんですかぁ!? わた、わたしのアイデンティティがぁ!! たけみちゅさん、助けて!! わたし、わがままボディがなくなったら、何を自分の証明にすればいいんですかぁ!?」


 キノコさん。デトックスの危機。



「……エルミナさん。あなた、確か毒素を無効化できるみたいな魔法が使えませんでしたか?」

「はっ!! その手がありましたぁ!! あっぶない!! てぇやー!! 自分の体の毒素を抜くとか、こんな使い方する事になるなんて……」


「ちっ。なんや、つまらん! あ、せやけど! エルミナちゃんって毒の塊みたいなもんやからさ? もしかして、その魔法で全身が溶け落ちて消えるんちゃう!?」

「ひぃっ!! なんでそんな恐ろしいことが言えるんですかぁ!? あっ! エリーさん! ちょうど良かった! あの、わたしのおっぱい消えてないですか!? ちょっとぉ! よく見てください! 揺れてます? ねぇ、揺れてます? エリーさん! エリーさん!! エリーさどぅふっ」


 こんな平和なエルミナ連邦だが、最後の戦争の幕は上がっているのである。

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