第148話 花火姉さんの「できたで新一! これがキノコブースターや!!」 ~被験者。キノコ使いの3人~

 佐羽山花火さん。35歳。職業薬剤師。

 兼、破天荒。真名はガチクズ。


 彼女は現在、魔境・インダマスカにて研究を重ねている。

 エルミナ連邦の僻地に出向させられた割には結構その生活を楽しんでおり、今回は1つの発明品を携えてバーリッシュへとやって来ていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 花火姉さんは榎木武光、ルーナ・ミュッケル、リンの3人を呼び出していた。


「あんな? ええもん作ったんやで!! ほら、そろそろ最終決戦ムーブかます予定なんやろ? な? なんか、そういう雰囲気感じてん!! せやろ? ん?」

「花火さん。私に圧力をかけても、何も申し上げることはありませんが」


「強情なヤツやなー。まあ、ええわ。でな? お姉さん、ええもん作ってん! あ。これさっきも言うたか! ならもう何も言わん!! おら! これ使えや!!」


 花火姉さんが取り出したのは、茶色い丸薬であった。

 本来は薬剤師の彼女であるからして、薬を取り出す事に関しては特に問題はない。


「すみません。私、色々と仕事が立て込んでおりまして。失礼いたします」

「待たんかい。なんで逃げるんや。せめて薬の効能聞いて、あと実験台……ちゃうわ! モルモットになってから逝かんかい!!」


「私、本当に仕事があるのです。花火さん。逝っては仕事が滞りますので。ご容赦ください」

「ほーん? せやったらね、お姉さんにも考えあるで? エルミナちゃんとか、トムとか? なんや偉い子らにこれ、飲ませて回るで?」



「いただきます。私が飲めばよろしいですね」

「武光のそういう物分かりのええとこ! 好きやで! ウチ!! 結婚する?」



 エノキ社員。

 「向こう1週間の仕事は済ませておりますので、後はお願いします」とリン後輩社員に伝えると、決意をした男の顔になる。


「これな! 『キノコブースター』って言うんや!! 自分ら、キノコをシェアするやん?」

「そんな女子会のお菓子みたいなノリではやっておりませんが」


「そうなん? ならええわ。でな? 驚くでー! これを飲んだらな! キノコの異能が発現時間、威力ともに大幅アップや!! 武光からこないだキノコの山、いや、山ほど強奪したやんか? それを魔族どもに飲ませまくって治験したから! 平気やで! 平気な兵器やで!! たはー!! 上手いこと言うてもうた!! たはー!!!」



 茶色の丸薬から漂う、そこはかとない死亡フラグの香り。



 ちなみに、この展開だと最初に飲んだ者がセーフティーである可能性が高い。

 これは3人ほど被験者がいる状態を考えた際のベターなパターン。


 最初の者が「意外と平気やん!!」と言って、2番手が飲むと「あ。死ぬわ」となるのがお約束であり、様式美とも言える。


「じゃあね、武光が最初に飲んでいいよー!!」

「あいさー。武光の力だからさー。武光の能力アップが先決さー」


「よろしいのですか? ……では、お気遣いに感謝します。花火さん。頂いてもよろしいですか?」

「よろしかないで? 説明しとらんやん? 自分、我が身可愛さに大事なパートすっ飛ばしてくるやん? キングクリムゾン使うん? 知っとる? ウチは見た目がキモいからあんまり好きやないで。猫草が好き。可愛いやん?」


 花火姉さんは説明した。


 『キノコブースター』はキノコの異能発動中に服用する事で効果が得られる。

 肉体強化系ならばその持続時間と強化性能が向上し、遠距離攻撃系ならば射程や威力が伸びるとの事。


「では。ひとまず皆様の分のキノコも出しておきましょう。ルーナさんには黄茸。リンさんには紫茸を。どうぞ、お受け取り下さい」

「わーい! 最近はね、マヨネーズ付けて食べてるんだー!!」

「ボクは生でもイケるのさー。結構美味しいのさー」


 キノコトリオ。

 揃って実食。すぐに異能を発現。


 ちなみに、武光は赤茸をチョイスしております。


「この状態でこちらの丸薬を飲めばよろしいのですか?」

「せやで! いったれ、いったれ!! 男は飲みっぷりも大事やでー!! ほれ、一気、一気!!」


「花火さんは転生される前の時代がバブルだったりするのでしょうか? いえ、ここでコンプライアンスについて言及するのは無粋。……服用したしました。では、さっそぐふっ」



 セオリー破りの第一被験者ダウンパターンが発現された。



「あー。やっぱこうなってんかー」

「うっ、うぅ……」


「武光さー。胃腸が弱すぎんねんなー。前に採らせてもらった消化器官のデータな。確認したけど、クソザコやで? 病気とかやのうて、ガチの胃弱やもん。こんなんでキノコ生食とかしたら、そらお腹痛うなるて。ラブの胃薬もなかなかやけどな。パワーアップイベント受けられへんとか、事やで? 武光ぅー? ヘイ、ユー。ユー?」


 返事がなかった。



「花火さん! 武光、口から泡噴いて動かなくなったよ!!」

「あ。ほんま? そらあかんわ。じゃあ、ルーにゃん。これ飲ましたって。胃薬な。多分効へんけど」



 こうして、パワーアップイベントの欠席を決めたエノキ社員。

 残りは乙女たちが引き受けます。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ルーナさんとリンさんも怪しげな丸薬を服用。

 ただ、エノキ社員とは決定的な違いのあるこの2人。


 キノコの使徒として活躍する武光は、思えばキノコを2つ同時食いした段階で胃の不調を訴え、3つ食べた時には高確率で戦闘不能に陥っていた。

 エリーさんを加え『第一最強胃腸薬エリクサー』をゲットしてからも、極力同時食いは2個までと注意していたほどである。


 対して、ルーナさんは黄茸しか食べていないものの、1度として胃の不調を訴えたことはない。

 彼女はお料理力も高く、食に対するアプローチはストマックとクッキングの内外から同時に攻める強者。


 リンさんに至っては、現状最も胃の負担が大きい紫茸を「美味しいのさー」と言って喜び食べる。

 鬼面族はフィジカルに問題があるものの、内臓器官はもしかすると強い種族なのかもしれない。


「お! やっぱ2人はイケたな!! これもだいたい計算通りやで! ほんならさ、力を試してみよか! データ採らせてや! 改良するから!!」

「じゃ、あたしいきまーす!! とぉー!! わっ!? あははっ! すっごい!! 超高くまで跳べてるよー!! 見てー!! リンちゃん!! あははー!!」


 ルーナさん、総督府の屋上を飛び越えて、物見やぐらのてっぺんまで跳躍する規格外の身体をゲットする。

 戦闘スキルの獲得にはついに至らなかった可能性が高いものの、体の動かし方についてはステラやソフィアなど戦闘巧者も褒めるポテンシャルを持つ彼女。


 驚異的なフィジカルをゲットした事で、戦闘力が大幅上昇する。


「おおー。すごいさー。ボクはどう頑張っても動けるようにはならないのさー。という事でさー。ちょっと雷撃ってみるさー。えいっ、なのさー!!」


 バゴォンと尋常ではない音を残して、凄まじい稲光と共に目で追えない速度の閃光が走る。

 続けて、前方に停車している整備中だった御料車が跡形もなく消し飛ぶ。

 馬がいなくて良かった。


「やってしまったさー。これは被害額が甚大さー。ジオにごめんなさいするさー」


 なお、雷と言えばこの人でお馴染み、雷鳴の女神トールメイさんが「なんだ、今の驚異的な雷の力は!!」と言って、慌てて総督府から飛び出してきたが、花火姉さんの姿を確認した途端に「やっぱり大したことはなかった」と言って、引っ込んでいった。

 みんなの癒し担当お姉ちゃんがリスク回避を覚え始めている事実は、彼女を推す会のメンバーに衝撃と哀しみを与えるのだが、その話は余談である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ええやんけ! 2人とも!! これはウチの想定以上や!! で? 気持ち悪うなってへん?」


「ぜーんぜん平気!!」

「ボクもさー。何なら喉渇いたからお酒欲しいさー」


 花火姉さんは満足そうに頷いて「おっしゃ! すぐにインダマスカ戻って、人体実験や!! もっとええ感じに仕上げるでー!!」と、馬車に飛び乗り去って行った。


「武光ー? 大丈夫ー? あたしのおっぱい揉むー?」

「ボクのも提供するさー?」


 だが、返事はない。

 少女コンビにこのような申し出をされると、ノータイムでツッコミを入れるエノキ社員が、ピクリとも動かない。


 重症であった。


 とはいえ、強力な切り札をゲットしたエルミナ団キノコ班。

 来る戦いの時に備えて、一応の準備は整った。


 と言う訳で、そろそろ戦乱の嵐が吹き荒れる時分となってきた。

 全面戦争の開始。クライマックスの幕開けである。

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