キノコ男、フルスロットル! ~敏腕営業マンが異世界転生したら、ポンコツ乙女たちと平和な世界征服を目指すことになった~
第147話 ルゥ・バッテルグリフの小さな初恋 ~最近心がよく折れるジオ総督、今日も骨折する~
第147話 ルゥ・バッテルグリフの小さな初恋 ~最近心がよく折れるジオ総督、今日も骨折する~
色々あったが、ようやく復活したエルミナ連邦を支えるベテラン聖騎士。
現在は連邦の首都でもあるバーリッシュの総督を務めながら実務の大半を担う、今やエルミナ連邦に彼がいないと瓦解するレベルの重要人物。
ジオ・バッテルグリフ。
今回、彼の心がまた折れる。
どうしてこの世界の神は彼に多くの試練を与え続けるのか。
その理由は分からないものの、バランス感覚が欠如しているのは間違いない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「パパ! 今ってルゥがお話しても大丈夫?」
「おお。ルゥ。平気だよ。ちゃんと相手の都合が聞けるようになって、偉いな。パパは嬉しいよ」
「えへへーっ。あのね、パパ! パパさ、ずっと言ってたよね! ルゥの旦那様は、パパよりも強くないとダメだぞって!!」
ありがちな父娘の微笑ましい会話である。
「はははっ。そうだなぁ。パパより強ければ、ルゥの事を任せても良いだろう。だが、そんな男はなかなかいないぞ? それに、まだまだ先のはなs」
「あのね! あのね、パパっ!! ルゥ、好きな人ができちゃったかも!!」
ゴシャッと言う音が執務室から談話室まで届き、今日もお酒に浸って伸びていたエルミナさんがのそのそと確認にやって来た。
「どうしたんですかぁー? あらら、ルゥさん! 今日もお手伝い、偉いですねぇー」
「あー! エルミナ様! あのね、パパが急に机に向かって頭突きしたんだけど! これって何かの訓練かなぁ?」
エルミナさんは「ほほう。ジオさんもマジメな人ですからねぇ」と言って、デスクに突っ伏したままのジオ総督の様子を確認した。
「ジオさーん! なーにしてるんですかほぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! なんか見たことあります! この光景!! ジオさぁぁん!! どうしちゃったんですかぁ!? ちょ、武光さん!! 誰かぁー!! 来てくださぁい!!」
「エルミナ様。……私はもうダメです」
最近、ちょいちょいもうダメになるジオ・バッテルグリフさん。
今回はセーフだろうか。それとも、アウトだろうか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
エルミナさんの叫び声に応じて、総督府で仕事をしていた幹部たちが駆けつけた。
「どうしたのですか!? エルミナ!! 私でお役に立てますか!!」
「あんまりお役に立てそうにないです!! なんであなたが最初に来るんですか、プリモ!!」
最近、本当にあまりお役に立っていない、キノコとタケノコの女神コンビが揃う。
ただの女神ワンペアなので、役としても強くない。
「なるほど! ジオさんが急に倒れていたんですか!! よし! 分かりました!! てやぁー!!」
「……なにしてるんですか? プリモ」
「とりあえず、タケノコを生やしましたので! これで自在にコントロール可能です!!」
「ええ……。何の解決にもなってませんけどぉー? ちょっ! ヤメてください! ジオさんを動かさないでください!! ほぎゃあぁぁ!! 顔から血を噴いてるジオさんが、白目で動いてるの怖いです!! というか、ルゥちゃんの前でなんてことしてるんですか!!」
エルミナさんの方が正しい対応をするパターンだった。
「ルゥは平気だよ? パパね、よく血を出して帰ってることあったから!!」
「おお! ルゥさん、素晴らしい心構えですね! これは花丸を2つ差し上げましょう!!」
「やったぁ! ルゥ、褒められた!!」
「……ルゥさんが結構ヤバ目なメンタルを獲得してました。さすが、聖騎士の娘ですねぇ。ごくりっ」
そこに駆けつけたのが、我らのキノコ男。
彼は状況を見て、一拍の間もおかずに糾弾した。
「エルミナさん。見損ないました。このように年端もゆかぬ少女の前で、どうしたらお父上を血まみれにできるのですか」
「ガーン!! なんでわたしのせいにするんですかぁ!? 今回、わたしはただの第一発見者ですけどぉ!? ひどいですよぉ!!」
「エルミナさん。日本の創作では、第一発見者は常に疑われるものなのです。裏の裏を突いて普通に第一発見者が犯人であるパターンもあります。さあ、自白してください」
「日本って、実は嫌な国ですか? なんだか、花火さんの出現以降わたしの中で日本の危険度が上がってるんですけどぉ……」
日本の価値が不当に下げられたところで、ジオさんが息を吹き返した。
彼は「エルミナ様は犯人ではないのだ、エノキ殿」と弱々しく語る。
「私が少しばかり気を抜いてしまってだな。すまない。騒がせてしまったな」
「あのね! ルゥがパパに好きな人ができたって話してたの! ルゥが悪かったのかなぁ?」
「あらあら! ルゥさん、初恋ですかぁ!? おませさんですねぇー!! お相手は誰ですかぁ!? ジオさんに強権発動させて、クビにしちゃいましょう!!」
「まったく。エルミナさん。あなたはすぐにそうやって茶化すのですから」
「ルゥね! エノキさんのお嫁さんになりたい!!」
「あっ。武光さん。無職になっても、わたしの使徒としてしっかり働いてくださいね? お給料払えませんけど。時々、おっぱい触らせてあげますから!!」
エノキさん。無職に急なリーチがかかる。
では、釈明パートへどうぞ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「な、何と申しましょうか。ルゥさん。非常に光栄であり、過分であると感じておりますが。やはり恋愛をするならば、同世代の方がよろしいのではないかと」
「ルゥ、エノキさんが好きなんだもん!! 優しくて大人で! みんなのために働いてるし!! すっごく魅力的なんだよ!!」
榎木武光の駆使する交渉術は少女には通用しない。
ルゥさんは12歳。むしろ幼女と童女の境目である。
「武光さん! 私は女神として、あなたたちを祝福しましょう!! おめでとうございます!!」
「ヤメて頂けますか、プリモ様。とんでもありません」
「ひぐっ……。エノキさん。やっぱりルゥなんて眼中にないんだ。そうだよね……」
「あー! 武光さんがルゥさん泣かせたぁー!! いけませんねぇー!! これはスキャンダルですよぉー!! 皆さんにお伝えせねばですっ!!」
武光は悟った。
「なるほど。この場に配られたカード。結構最悪ですね」と。
「ち、違いますよ! ルゥさん!! 決して、私はそのような事を思ってはおりません! ルゥさんは年齢にそぐわぬ聡明さを見せますし! その気配りは非凡です! 将来は素晴らしいお嫁さんになると、私は確信しております!!」
「そうなの!? じゃあ、ルゥをお嫁さんしてくれる!?」
「えっ」
「……ルゥ。弄ばれてるんだね。ひぐっ……」
「武光さん! 今のは良くありません!! 女神として、警告します! 赤点です!!」
「そうです、そうです!! 責任を取れー!! 言葉には責任をー!! 武光さーん!!」
エノキ社員。ちょっとだけ痩せ始める。
「……エノキ殿」
「ジオ様! お願いします! この場をどうにか纏められるのは、あなたのお言葉しか!!」
「……私は、覚悟を決めた。……ルゥとて、いずれはどこかの誰かに嫁ぐだろう。私は、ルゥよりもずっと早く天に召すのが宿命。……ならば。……ならば、貴殿に。ルゥを。ぐふぅっ!!」
「ほぎゃあぁぁぁぁぁ!! ジオさんが顔から逝きましたぁ!! なんでこの人、いつも逝く時は顔面からなんですかぁ!? ちょ、エリーさん!! エリーさぁん!!」
その後、やって来たエリーさんによってジオさんは治療された。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その日の終業後。
「えー。と言う訳で! みなさん! この度、武光さんが晴れて! ルゥさんと婚約しましたー!! はい、拍手ー!!」
「していません……。あっ」
「ひっく……ぐすん……」
「いえ、したかも……しれません……」
以下。メンバーの反応です。
どれが誰のリアクションなのか予想して楽しむ事ができます。
「あたし気にしないよー!! 第二夫人でいいやー!!」
「武光。ついにルゥまで攻略するのじゃな。恐ろしい男なのじゃ」
「たけ、たけたけたけたけ、たけみちゅしゃま!? わたくしは……!!」
「こいつ、本当にクズだな。私は前から知っておったが。見境がなさ過ぎる」
「良いではないですか! 帝国では幼女の頃に婚約が決まる事もありますよ!!」
「各方面に案内状を出すさー。首席補佐官の婚約なのさー」
この日以来、ジオ・バッテルグリフと榎木武光と言う、エルミナ連邦の双璧が同時に生気を失う緊急事態が続いた。
2週間ほど経った頃に花火姉さんが「ええもんができたで!!」と訪ねて来る。
事情を聞いた姉さんは「ルゥちゃん? 知っとる? 日本では、18歳にならな結婚できへんのやで?」と恋する少女に言って聞かせた。
「えっ!? そうなの!? そうなんだ。じゃあ、ルゥ待つね!! あと6年!! すぐだもん!!」
「おー。偉いなぁ! ルゥちゃん! せやで! 6年なんてあっちゅう間や!! えっ。武光、どないしてん? むっちゃ泣くやん? え。引くわー」
この日、エノキ社員は花火姉さんの存在に感謝したと言う。
敏腕営業マンの評価を変えるとは、さすがは破天荒。
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