第146話 エリーゼ・ラブリアンさん18歳の再起動計画! ~急加速したはずの物語なのに、やっぱりおっぱいで停滞するのがこの世界~

 グラストルバニアの運命が分岐するまで、あとわずか。

 エルミナ連邦の国力は着実に拡大していた。


 同盟関係を結ぶ事が出来れば御の字と考えていたロギスリン領は、結果的にエルミナ連邦に参加したため、想定よりも大きなプラスに。

 国土が拡大され、当然ながら人口もアップ。

 生産力や税収による国費の安定化など、目には見えず説明に時間を費やすと下手なレポートみたいになるため敢えて過剰な言及は避けるが、大いなる成果を得ていた。


 また、前回でも触れたが、聖騎士の加入、新部隊の編入により軍備も増強。

 問題は色々あるものの、実力的には望むべくもない人物。

 波佐山花火薬剤師も加わり、武力、医療の両面で活躍が期待される。



 花火姉さんに役職を付記すると「火薬」とか言う不吉な単語が浮き上がったが、ここは涙をこらえてスルー。



 クライマックスへ向けて、準備は整っていた。

 そんなある日の総督府。


「エノキさーん。お茶淹れました!!」

「ありがとうございます。ルゥさん。わざわざそのようにお気を遣って頂かなくても、そこの談話室に伸びている女神がおられますのに」


「いいの! ルゥ、もっとみんなの役に立ちたい! です!!」

「……ルゥさん。女神の役職にご興味はありませんか? そちらが無理でしたら、国家元首にご興味は?」


「えっ? んー。ルゥには難しくて分からないです!!」

「そうですか……。なんと残念な事でしょう。しかし、先を見据えて帝王学を学んでいただくのは悪くない方策かもしれません……」



 お茶汲みもできない乳キノコさんを見限ろうとしているエノキ社員。



「ところでエノキさん!」

「はい。なんでしょうか。……おや。ルゥさん。午前の診察は受けられましたか? もうお昼近いですが」


「あ、うん。そのことなんだけど。エリーお姉ちゃんがね。目が白い丸になってね、医務室の椅子で動かないの」

「そうでしたか。分かりました。様子を見に伺いましょう。エルミナさん!」


 のっそりと談話室から顔を出すのは、連邦の主席。

 タンクトップがいよいよ汚れて来た、エルミナさんである。


「はぁーい? なんですかぁー? わたし、お昼はお肉がいいですけどぉー?」

「お黙りなさい。私は少し席を外しますので、溜まっている書類に署名と押印をお願いします」


「ええー?」

「もちろん、内容は確認しないで結構ですよ。私とジオ様とトールメイ様が目を通しておりますので。ただ署名と印鑑を押すだけのマシーンになってください」


「ガーン!! なんかわたしの扱いが酷くなってませんかぁ!?」

「いえ。正当な対応だと私は確信しております。では、問題解決に向かいますので。エルミナさん」


「あ、はい! なんですかぁー? やっぱり、問題が起きたらこのわがままボディに頼りたくなってるんですよねぇー? ふへへっ。良いですともぉー!!」

「違います。エルミナさん。お願いがあります」


 武光はハッキリとした口調で言った。



「これから、エリーさんのところへ行きます。確実におっぱい論争が始まりますので。あなたは絶対に近づかないでください。もう、無駄に乳ビンタしたくないのです。いいですね? これをフリだと考えて来られるなら仕方がないですが、確実に私はビンタしますよ?」

「え゛っ。なんですか、その嫌な予告……!! 近づきませんっ!! こっちでルーナさんの作ったアイス食べておきます!!」



 エノキ社員は「結構ですね」とにっこり笑ってから、現場へ急いだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 総督府の医務室は、ルゥを受け入れる事が決まったのちに改修され、今ではちょっとした診療所規模の施設に進化していた。

 怪我や病気も大半ならばここで完結できるほどであり、多くの仕事を抱えるエルミ連邦の幹部たちにとっては嬉しい心配り。


「エリーお姉ちゃん! しっかりして!!」

「あ。ルゥだ。定期健康診断でおっぱいが1センチ強者になってた。ルゥだ」


「エリーさん。まだ本調子に戻りませんか?」

「本調子? ねぇ。たけみちゅ? 本調子ってなに? それ、エリーゼのおっぱいと何か関係ある? ねぇ。たけみちゅ?」



 エリーさん。未だ、のじゃロリに戻れず。



 むしろ、精神崩壊状態でもちゃんと最低限の仕事をしているエリーは賞賛に値するとエノキ社員は評価している。

 気付けば、精神状態がオールグリーンでも仕事を完璧にこなさない人員もエルミナ連邦には増えており、それを考えるとエリーさんはさらに優良物件へ。


 だが、それだけにバインバイン草のショックから立ち直らないエリーを見ているのは辛く、何より立ち直ってもらわなければ今後の業務に差し支えると考えるエノキ社員。


「エリーさん。何か欲しいものがあればおっしゃってください。最優先でご用意しますので」

「欲しいもの? エリーゼの欲しいもの、何でもくれるの?」


 エノキ社員。フラグを察知する。

 が、回避できない類であったため、彼は諦める。



「エリーゼね。おっぱいが欲しいな」

「はい。私もご提案しながら、そう来られるだろうなと思っておりました。無理です」



 エリーさん、「うぐっ……うぅ……」と咽び泣く。


 そこにやって来たのはルーナさん。

 彼女は昨日からインダマスカに連絡係として赴いていた。


 インダマスカには現在、花火姉さんが住んでおり、文字通りの魔境となっている。

 もはや、嫌な予感しかしない。


「あっ! 武光、ここにいたんだー!! あのね、花火さんから預かりものがあるんだー!!」

「お待ちください。ルーナさん。あちらで確認しますので!」


「ほへー? もう出しちった! エリーちゃんにあげて欲しいって!」

「ああ……。その黄色い草はもしかすると……」


「バインバイン草プラスだってー!!」

「……しょれが!? ……でも、エリーゼね。もう騙されないから」


 武光はルーナから手紙を受け取る。

 そこには花火の文字で色々と書いてあった。


「……なるほど。エリーさん」

「やだな。もうこのパターンで何回騙されたか分からないもん。聞きたくないな」


「いえ。今回はデータが添付されておりまして。私には分かりかねるのですが、こちらに。インダマスカの魔族様たちを利用、失礼。協力して頂いて、バインバイン草プラスの薬効データが採れたと書いてありますが。3週間で、平均するとバストサイズが1センチ成長したと」


 エリーさん。

 獣のような所作でそのデータを奪い取る。


「……ホントだ。ちゃんとした治験データだ、これ。……。えっ。しゅ、しゅごい! 例外なく、おっぱい大きくなってる!! 最低でも1ミリも大きくなってりゅ!! お師匠! エリーゼ、信じてたよ!! よぉし! もう落ち込んでなんていられない!! ルゥ! 診察をするのじゃ!! さあ! 聴診器をおっぱいに当てさせるのじゃ!! ぬっはっは!!」



 エリーゼ・ラブリアンさん。18歳。自身のおっぱいに何度失望しても、未だ見捨てず。

 再び立ち上がった。



「おおー! エリーちゃんがキャラ取り戻したー!!」

「エリーお姉ちゃん! 元気になってよかったぁ!!」


「ぬははっ! 心配させてすまぬのじゃ!! ワシは未来の希望を得たのじゃ!! 人は希望があれば、何度だって前を向けるのじゃあ!!」



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それからすぐ。

 ソフィアさんが消毒薬を取りにやって来た。


 聖騎士部隊で怪我人が出たらしい。

 彼女もエリーさんを心配していたため、ラブちゃん再起動の報を聞いて喜んだ。


 が、彼女も26歳。割と細かい事に気が付く。


「おい。エノキ? その乳成長データだが。1ミリって、誤差じゃないか? 乳首刺激したらそのくらい余裕で変わるぞ?」

「ヤメてください。ソフィアさん。女性がそのような発言をするのもヤメて頂きたいですが。なにより、今は乳首よりもエリーさんを刺激しないでください。さすがに、これ以上我が国の医療分野を引き受ける担い手が留守をするのは問題しかありません」


 花火姉さんに騙され続けたその小さな胸は、もはやどんなにか細い希望でも甘受する。

 ならば、再び現実が襲い掛かって来るまでの間。

 夢に憧れるくらいは許されるのではないか。


 そう思うエノキ社員であった。

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