第145話 エルミナさんの「あのぉ。その蒼雲の聖騎士って人。悪者なんじゃ?」 ~核心に触れるキノコ(メインヒロイン)さん。物語は急加速する~

 ロギスリン出張から1週間が経ち、エルミナ連邦も落ち着きを取り戻しつつあった。

 まずは、新加入の戦力たちの動向である。


 エルミナ親衛騎士団の屯所ではスリラーの屯所が併設されており、両部隊の隊長が顔を合わせていた。


「ナハクソ……!! 実に久しい!! 元気だったか!!」

「クムシソ……!! 君が帝国領の僻地へ左遷され、さらにエルミナ連邦に謀反したと聞いた時は悲しかったが……!! こうして再び見えることができるとは……!!」


 クムシソ・ガッテンミュラーとナハクソ・ガッテンミュラー。

 従兄弟の2人が、実に5年ぶりの再会を果たしていた。


 ガッテンミュラー家は下級貴族であり、ほとんど平民と地位は変わらない。

 ゆえに、騎士団に入っても一兵卒からのスタートであり、同じ一族のほとんど年の変わらない2人が同時に将官へと上り詰めるのはかなりの異例、また偉業でもある。


 クムシソもナハクソも、努力を惜しまず、実直に訓練を重ね、戦場で少しずつ功績をあげる事で出世したため、部隊を率いるようになってからも部下の信頼は厚く、優秀な用兵家としての才覚を発揮していた。


「ナハクソ隊のみんな! ワインがあるんだ! 飲まないか!!」

「マジかよ。クムシソさんとこ、酒あるの? すげー」


「私たちはこれから同じ部隊だ! 遠慮は無用だぞ!!」

「ヤベー。すっげぇキラキラしてんぞ。クムシソ隊の人ら」



 なお、両部隊のテンションにはそこそこな乖離があった。



 これより、ガッテンミュラー両隊長の指揮の元、エルミナ親衛騎士団は帝国に所属する騎士団にもまったく引けを取らない、強力な部隊として成長していく。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらは聖騎士部隊。


 エルミナ連邦には3つの聖騎士部隊が存在しており、1つは元からバーリッシュに駐留していた、紅蓮の聖騎士部隊と白銀の聖騎士部隊。

 最も数が多く、地の利にも長けているため基本的に首都防衛部隊として活動する。


 続いて参加したのが、豪水の聖騎士部隊。

 今は亡きレイドル・ボルテックが率いて来た、侵攻部隊である。

 彼らは失った聖騎士の遺志を継いで、紅蓮の聖騎士ジオ・バッテルグリフに従属。

 現在は攻撃の実労部隊として、来る日に備え訓練を重ねている。


 そこに今回加わったのが、翡翠の聖騎士部隊。

 ロギスリン出張の際にとある破天荒により、特に被害を受けるでもなく壊滅的な精神的攻撃を喰らった聖騎士の建設的な判断で転属して来た。

 女性の下士官が多く、攻撃、防衛、救護と何をさせても卒なくこなす汎用性の高さがセールスポイント。


 この3部隊を指揮するのが、白銀の聖騎士ソフィア・ラフバンズ。

 最近ちょっと出番を失いがちな、エルミナ団お姉さんキャラの始祖。


 今ではお姉ちゃんと姉さんが2人でその地位を確固たるものにしているため、ソフィアさんは裏方に回り、部隊の訓練を担当している。

 だが、彼女は不平を漏らさない。


 そもそも、コミュ症の彼女は注目されずに自分の才覚を発揮できるこのポジションに最高のやりがいを感じている。

 たまにエルミナ団の任務で出番もゲットできるので、「これは! 最高じゃないか!! もう一生このポジションで良い!!」とご満悦。


 そこに加わるのが、翡翠の聖騎士マチコ・エルドッセブン。


 ご存じの通り、ソフィアさんとマチコさんは聖騎士の同期。

 面識もある。


「久しぶりだね。ソフィア」

「マチコか。話は聞いているぞ」


「ふふっ。笑いたければ笑うと良いさ。すっかり都落ちだからね」

「何を笑うと言うのだ。そんなこと言ったら、私は自分から望んで僻地勤務を希望し、希望した先でクソみたいなハゲの視線に耐えられず、3日で逃げたのだぞ。そのまま1年ほど、集落で引きこもりをして。エルミナ様に出会い引っ張り出されて、気付いたらここにいた。むしろ、笑うべきなのは私の経歴なのでは?」



 ただ真実を言っただけで最高のフォローになるのが、ソフィアさんの歴史。



「あ、うん。そう言われると、なんかアタシは救われた気がするよ」

「これから、マチコには聖騎士部隊の矢面に立ってもらうからな!!」


「えっ」

「私のコミュ症は知っているだろう!!」


「ああ、うん。えっ? 治ったんじゃないのかい?」

「マチコ。お前はまだそんな事を言っているのか。いいか? 2年とか3年程度で治るのは、コミュ症じゃない!! ただの引っ込み思案だ!! ガチのコミュ症は治らない!! 治ったふりしてるだけだ!! 私はな、お前が来たら絶対にもっと身を隠そうと決めていた!! 訓練の指揮は執る! だが、あとはトールメイ様を推すのに忙しいからな!! マチコ! 働けよ!! 期待している!!」


「ええ……。アタシ、着任初日にとんでもない十字架背負ってないかい?」

「マチコ様! 占星術よる未来を知りたいですか!?」


「ピンコか。いい。知りたくない」

「あなた! 死にます!!」


「黙れよぉ!! 知りたくないって言っただろう!?」

「だいたい、明日から70年後までのどこかで! 病気か怪我か寿命のいずれかで!! あなたは死にます!!」



「あ、そうなんだ。うん。多分ね、割と多くの人にそれ、当てはまるな」

「ですので! その時まで頑張って生きましょう!! 私、傍で応援してます!!」



 マチコ・エルドッセブン。26歳。

 頼れる仲間、未だに現れず。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらは総督府。

 ガチクズ姉さんがいなくなって1週間。


「ふぃー!! ふぁぁぁぁぁ!! なんて解放感!! お昼から談話室でソファに埋まって、タンクトップと短パンでお酒飲んで過ごす日々!! これですよぉ!! これぇ!! もぉー! どんなにこの生活が愛おしいか、わたし理解しちゃいました!! はぁぁぁー!! 最高ですっ!! 武光さん! おっぱい揉みますか!?」



 エルミナさんが復活していた。



 過度なストレス下で凄まじく頑張ったこのキノコさん。

 反動でよりダメになるかとも思われたが、そんな事もなく、以前のほどよくダメな畜生キノコへと復権を遂げる。


「エルミナさん。今は昼食会議中ですよ。お酒飲むのをヤメるか、黙るか。どちらか選んでください」

「ええー!? 選んでいいんですかぁー!? もぉー! そんなの決まってるじゃないですかぁー!!」


「つまり、トールメイ様も帝国に不穏の動き在りとお考えですか」

「まあ、そうなるであろうな。エノキとジオの言う事は正しい。花火が会ったという聖騎士。その者が何かしらの洗脳や、脅迫を受けている可能性は高いだろう」



「ガーン!! わたしの選択を誰も聞いてくれてません!!」

「エルミナ様。うるせぇですわ。そのガーンの度に乳が揺れて、見た目もうるせぇんですわよ」



 現在の議題は「帝国の腐敗を扇動している者の正体」についてである。


 ジオの経験と、エノキ社員の推察により、聖騎士は全員が自由意思を奪われているのではないかという仮定の元に会議は進んでいた。

 だが、諸君はご存じの通り、これは間違い。


「あのぉー」

「エルミナさん。緑茸あげますから、静かにできませんか?」


「ひどいっ!! ていうか、それわたしが与えた異能!! 違いますよぉ! ちょっと思ったことがあるんですぅー!!」

「なんでしょうか。手短にお願いします」


「もぉー!! あのですねぇ。その花火さんに殴られた人。蒼雲の聖騎士さんでしたっけ? その人が黒幕なのでは?」



 エルミナさん。急に核心に迫る。



 そうなのである。

 エルミナ連邦の知恵者たちは、どうしても前後関係や帝国の歴史に目を向けて、先入観を持ったうえでの推論を戦わせていた。


 対して、エルミナさんは先入観どころか、それまでの話も半分くらいしか聞いていない。

 だが、それが功を奏して、今回は真実に肉薄する。


「し、しかしだな。エルミナ様。レンブラント・フォルザ殿は、最強と謳われる聖騎士で。その気高い思想は多くの者が知るところで」

「そこですよぉ! どうして一番強いその人が、洗脳されるんですかぁ? そりゃ、その可能性もありますけどぉ。それよりも、その人が悪い人でスタート地点だと考えた方が早くないですかぁ?」


 綺麗じゃなくなったのに、何故か発言に筋が通るキノコさん。


「あいさー。ボクはエルミナ様の言う事にも一理ある気がするのさー。フラットな思考をするとさー。結構な勢いで、信憑性が生まれてるのさー」

「リンさんのおっしゃる通りですね。私たちは、いささか瞳が曇っていたのかもしれません」



「ガーン!! わたしが言ったのに!! なんかリンさんの手柄みたいになってますけどぉ!? もぉー! 知りません!! わたし、お酒飲んでますからねぇ!! ふんっ、ふーん!!」

「あ。マジで会議から離脱しやがりましたわ。この畜生キノコ。主席なのに」



 以降、エルミナ連邦は少しだけ方針を変更することになる。


 「帝国の中枢部に巣食う悪は、もしかすると元から帝国に存在しているものの可能性がある」という、前提が加えられた。

 急速にスピードを上げるグラストルバニアの特異点たち。


 巨大な歴史の分岐ポイントは、すぐそこまで迫っていた。

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