第143話 花火姉さんの「実はウチな、聖騎士しばき倒してん。えっ? それ聖騎士の親玉なん? ほんま?」 ~ガチクズさんがもたらす世界の真理と、それを抱えてしまったエルミナ連邦~

「やっはろー。可愛い女の子かと思った? 残念! もっと可愛い花火姉さんでした!!」



 絶望。再臨。



 佐羽山花火姉さん、普通にエルミナ連邦の御料車に密航をキメる。


 そもそも、この人はどうしてロギスリンにいたのだろうか。

 その点をこれから敏腕営業マンが問いただします。


 なお、ジオさんとエルミナさんは手綱の奪い合いをしており、1秒でも早く馬車の外に出たいご様子。


「花火さん。言って下さればちゃんとお招きしましたのに」

「え。そうなん? いやな、せやかて工藤」


「エノキです」

「知っとるわ。せやかて、工藤。お姉さんもな? ちょっと色々あってん。ほら、ラブ放り出して旅に出たりしたやん?」


「ああ。なるほど。エリーさんへの罪の意識があったせいで、素直にフロラリアへ戻る事ができなかったのですか?」

「え? んなことないで? 罪悪感あったらな、旅の途中で拾った青い草にわざわざアホみたいな名前つけたりせんやろ! なぁ! ラブぅ!!」



「たけみちゅ? エリーゼ。寝るね。夢の中はね、エリーゼに優しいの」

「あ。はい。おやすみなさいませ」


 エリーさんがログアウトしました。



「そもそもなのですが。花火さんはどうしてロギスリンにおられたのですか? ぶらり旅の道すがらですか?」

「いやー。あんな? やー。どうしよっかなぁ。これ言うたら、武光かてドン引きするかもしれへんしなー。言えへんよなー。んー」


「これは私が、そんなことありませんので、どうぞお話しください。と、申し上げるまで続けますね? 分かりました。今のセリフを公式のものとしますので、どうぞお話ください。無論、オフレコに致します」

「あ。ほんま? いやー! 武光はええ男やでー!! お姉さん、付き合うてやってもええで?」


「遠慮させてください。花火さんに釣り合う自信がありません」

「なんや、なんや! 急に上げてくるやんか!! もっとくれ、くれぇ!!」


 少し黙る武光。

 花火姉さんは相手が15秒以上喋らなくなると、自分から何かを発せずにはいられない特性を持っている。


 さすが敏腕営業マン。

 やられっぱなしに見えたロギスリン出張業務でも、頑張って情報をゲットしていた。


 そして我慢できなくなった花火姉さんがぶっちゃける。


「あんなー? 帝国の首都ってあるやん? ヴァレグレラ言うんやけど。知っとる?」

「はい。情報だけですが、存じております」


「トムぅー。自分なら詳しく知っとるよなぁ? 聖騎士やってんから!」

「は、はあ。もちろん知っておりますが。長らく住んでいましたので」


 トムは、もとい、ジオは手綱争奪戦を勝ち残り、御者の立ち位置をゲットしていた。

 が、エルミナさんを隣に座らせてあげる優しさを見せる。


「せやったらさ、3番通りのパン屋があるやん?」

「はい。ガーリックトーストが評判の。私もよく利用しておりました。妻や娘と一緒に、よく通ったものです。懐かしい……」


「そうなんや! あんな! あの店な! 潰れたで!!」

「えっ!?」


「でな? 本題なんやけどさ」

「すみません。花火さん。寄り道でジオ様の思い出を壊さないでください。我が国の実質的な指導者ですよ。これ以上の精神的ダメージは本当にまずいので」


「そうなん? オッケー。でな? 帝国の首都やから、聖騎士も山ほどおるやんか?」

「え、ええ。聖騎士の修練場がありますので。特に、若手とベテランの聖騎士は師と弟子の立場にある事も多いですから。帝国領の中で最も多く聖騎士がいるのは当然かと思うが。いや、思いますが?」


「蒼雲の聖騎士とか言うヤツ知っとる?」

「も、もちろんですとも! レンブラント・フォルザ殿でしょう!! 私も弟子ではなかったものの、若い頃に指導して頂いた! 聖騎士の中でも最も偉大な男と呼ばれる、伝説のような方ですよ!!」


「そいつや、そいつ!! いやー! そのおっさんをさー。バールでうっかりしばき倒してもうてさ! ははー! せやからウチ、今な! 帝国領で指名手配されてんねん!!」


 しばしの沈黙が続いて、ドサッと音がした。



「ほぎゃあぁぁぁぁ!! ジオさぁぁぁぁん!! ちょ、武光さん! 武光さん!! ジオさんが馬車から落ちましたけどぉ!? 顔から逝きました! 顔からぁ!!」

「もうダメだ……。終わりだ、エルミナ連邦は……」



 紅蓮の聖騎士ジオ・バッテルグリフ。

 彼は未だ戦場で倒れ伏した事はない。


 が、余りのショックに馬車から落車する。


 すぐに別の馬車から翡翠の聖騎士マチコ・エルドッセブンが駆けつけた。

 敵襲だと思ったらしい。


 ある意味では、敵襲であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ジオの治療のため、一向は休憩を取ることになった。

 エリーさんがシャットダウン中のため、治療するのは落車の原因、花火姉さん。


「トムぅー。あかんで? こないなとこから顔面ダイブとか。それやりたいんやったらな? ちゃんとクッション敷いてな? なんやプルプルの緩衝材とか設置してな? その上でやらな。おらぁぁ! なんか光る右手ぇ!!」


 『癒しの御手ヒーリングハンド』である。

 顔面から流血していたジオの傷が瞬く間に治療されていく。


「し、しかし、本当なのかい? あのフォルザ殿を鈍器で殴った……? 信じられないね。蒼雲の聖騎士と言えば、もう30年は刀傷を負っていない事で有名なのに」

「マチコはアホやなー。ウチ、バール言うたやん? これ、刀に見えるん?」


「エノキ殿。この人、聖騎士よりも強いのでは? 貴殿らの世界は地獄の釜の底にでもあるのかい?」

「いえ。マチコ様。日本は平和な国です」


「せやで! ウチがおったくらいやからな!!」

「貴殿の国では、平和という言葉の持つ意味が違うんだね?」


 話が進まなくなる、いわゆる花火パターンにハマっている事に気付いた武光。

 彼は負けない。


「花火さん。あなたの勘違いではなく、本当にその蒼雲の聖騎士様を……ぶん殴られたのですか?」

「せやで? あんなー? なんやあのおっさん、動きが不審やってん。仲間の死体を両手に持ってな? ロリ宮に、ああちゃうわ。瑠璃るり宮に入っていくんやで? こんなん、もう絶対人体錬成やん? ハガレン読んでた? 武光ぅー」


 正確な情報で捕捉すると、花火姉さんはその時、愉悦の女神・ゼステルの栄養補給のシーンを目撃していたのだ。

 女神は基本的に女神界から魔力が供給されるため、老いや体調不良とは無縁。


 しかし、ゼステルはマザーによって存在を抹消された存在。

 実際は生きながらえているが、女神界からの栄養供給ラインは断たれている。


 そのため、定期的に人間からエナジードレインを行い、エネルギーを搾取してゼステルは命を維持している。

 レンブラントは極力生きている人間に手出しをさせないため、事故や戦闘で命を落とした死体をまだ新鮮なうちに瑠璃宮へと運び込むのが日課。


 そこを目撃したのが、我らの破天荒。花火姉さん。


「おっさんも油断したんやろなー。一発、頭にガッツンくれたったんやけどな。そのあとは流石やったで? 二刀流って言うん? なっがい刀とほっそい刀出してな? ズキューンやって来おってん! で、ウチはしゃあないから逃げますー。そしたらね、翌日にはガッツリ顔と名前バレてんねん! たはー! 不思議ー!!」


 なお、この行動は転生者として見た場合、帝国の陰謀の根源を処理しようとしているとも見えるため、実は正道のど真ん中を行っている事実。

 花火姉さんの歩いた道が正道となるのが、もしかするとグラストルバニアの真理なのだろうか。


 武光は死せる有識者に確認する。


「ジオ様。お気を確かに。ちなみに、蒼雲の聖騎士様の特徴は合っていますか?」

「う、ううっ。合っている……。あの方は、長剣と細剣の二刀を扱う。二刀流の聖騎士と言うだけでも珍しいのに、ここまでピンポイントで得物について正解を出すという事は……」


「なー? せやからウチ、行くとこないねん! それにな? トムぅ。自分ら、ウチの助力を受けてロギスリンを傘下に加えたやんな? ……そんなん、すぐバレるで? で、どう見ても、ウチはエルミナ団の一員にしか見えへんで? だって、そうなるようにお姉さん頑張ってんもん! たはー!!」



「ぐふぅっ」

「トム様!! 失礼。訂正します。ジオ様!! しっかりなさってください!! ジオ様!!」



 結局、ジオ・バッテルグリフは心身ともに疲労の極みに達し、以降はエリーの隣で横になっていた。

 大問題を抱えた状態で、エルミナ特使団。


 バーリッシュに帰還する。


 破天荒姉さんがこの世界の真実に肉薄している事実。そこに気付けるか否か。

 この選択いかんでエルミナ連邦の運命が変わる。

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