第142話 遠回りしながらも! 国土、国力、急拡大!! ~ロギスリン領、エルミナ連邦に参加するってよ!!~

 2時間程が経過して、カレン・ウィッシュマイムの意識が回復した。


「武光。多分だけど大丈夫だと思うな。けどね、まだ安静にしといた方が良いと思うの。点滴も夜までは続けた方が良いかな」

「おい! ラブぅ!!」


「なーに? お師匠?」

「……なかなかやるようになったやんけ!! ウチの指導の賜物やんな!!」


 カレン領主が辺りを見渡す。

 そこにはエルミナ団の人員しかおらず、カントリー・ハウスを包囲していた帝国兵は撤収済み。


 現在は、ステラが見張っている。

 ステラのゴーサインでスリラーが動くため、実質50人の精鋭部隊が見張っている事になる。


 なんだか、一気に勢力を拡大させたエルミナ団であった。


「……どうやら。私はあなた方に救って頂いたようですね。あのように失礼な態度をとってしまったというのに。私は、何と言う愚かな事を」

「せやで! カレンちゃん! 人間っちゅうのはな、よー目を見てな? じっくりと観察せな! なかなかその人となりってものは見えてけぇへんのやで?」



 エルミナ団は全員で「……言いたい事も言えないこんな世の中じゃ」と思った。



「お師匠。よく言うよね。自分でバール投げたのにさ」

「ラブぅ!!」


「なーに?」

「頑張った子にはご褒美や!! これなんやと思う?」


「しょ、しょれは……!! 青い草!! バインバインバイン草だ!! えっ! くれるの!?」

「せやで!! ラブにやる!! やからな? あっちで早速煎じて飲んでみ? ビックリするくらいバインバインやで?」


「わ、わぁー!! お師匠のそーゆうとこね、エリーゼ好きだな!! わぁぁ! バインバインだぁー!! あははははー!!」


 エリーさん。

 幸せそうにスキップしながら、御料車へと戻る。


「よっしゃ。行ったか!!」

「あの。花火さん。一応お聞きしますが」


「あ。あの草? あかん。草って言うてしもうた。うん。まあ、草なんやけどな!! ははっ!!」

「総督府に帰ったら、豆乳スイーツをルーナさんに作って頂きましょう」


 カレン領主はまだ意識がハッキリとしておらず、状況が把握できていない。

 彼女は花火姉さんに尋ねた。


「あなたは確か……。私の両親をかつて治療してくださったことのある。佐羽山様でしたか?」

「せやで! みんな大好き、花火姉さんや!! カレンちゃんの腹もな? そらもう、重傷やってんけど! ウチの異能でスパーンよ!! やー! ええ仕事したわ!!」


「なんと……。私の命を救ってくださったのですか……」

「もちろんや! ウチは薬剤師!! 人の命救うのが仕事やで!!」


「崇高なお心……。何とお礼を申したら良いか……」

「あー。かまへん、かまへん。ウチに礼するよりもな? エルミナちゃんたちに手ぇ貸してやってぇな? ほら、ぶっちゃけさ、分かったやろ? ロギスリン領だけやと、帝国のクソザコ聖騎士が1人来ただけでもこの様やん? ここは意地張らんと! エルミナちゃんとこと仲良うしとった方がええで! これ、お姉さんの忠告や!!」



「あのぉ? 武光さぁん?」

「エルミナさん。ここは口を開くべきではありません。もはや、過程はどうでも良いのです。結果が全て。私どもは、その結果を持ち帰れたら、それで良いのです」



 いつもは「成功に至るプロセスも重要です」と言っているエノキ社員。

 信念を捨てる。


 なお、それはジオ総督が大事そうに拾っておいたので、バーリッシュに戻り次第エノキ社員に手渡されるであろう。


「分かりました……。命の恩人にそうまで言われてしまうと、私としても言葉がありません。何より、ロギスリン領の恩人はあなた方。エルミナ団ですので」

「おー。話分かるやんけ、カレンちゃん。せや、もう1個ええ?」


「はい。なんでしょうか」

「あんな? とびっきり上等の女もんの下着欲しいねんけど! カレンちゃんの付けとるヤツ、どこで買ったん? 教えてー。手触り最高やったで!!」


「ふふっ。かしこまりました。明日にでも、案内させます」

「良かったな! トムぅ!! 娘さんのパンティーとブラジャー買えるで!! 頑張ったかいあったな! トムぅ!! めでたいなぁ! なぁ、トムぅ!!」


 ジオ・バッテルグリフは、無言で天を仰いだ。

 男が空を見る時は、涙がこぼれないようにする時。


 これ、豆やで。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 2日後。

 調印式が行われ、ロギスリン領のエルミナ連邦参加が正式に決定した。


 これにより、エルミナ連邦の国土は拡大。

 帝国領の中でも7番目の規模になる。


「それでは、カレン様。私どもは本国に戻ります。後日、エルミナ親衛騎士団よりロギスリンに派兵を致しますので、防衛に関してはご心配なされぬよう。事実上、ロギスリンがエルミナ連邦の中で最も帝国と近く、多くの面積を接することになりましたので、私どもとしても防備は完璧なものにする所存です」

「ジオ様。お心遣いに感謝いたします。やはりあなたは、お噂通り高潔な方でした。エルミナ様。どうぞ、これからよしなに。ロギスリンはあなたの覇道にお力添えをさせて頂きます」


「は、はひっ!! ありがとうございましゅ!! わたし、とても嬉しく、恐縮でしゅ!!」


 ちなみにエルミナさんは、国家元首モードを強制起動しております。

 起動した直後から既に電源が落ちそうなので、最低限の発言しかしておりません。


 こうして、かなり遠回りはしたものの結果オーライ。

 ロギスリン領とは業務提携どころか、エルミナ連邦傘下に加わる事となった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 御料車では。

 その周囲に凄まじい数の馬車が駐車していた。


「えっ!? マスターはマスターじゃねぇんですの!?」


 そしてステラさん。

 ようやく隠密騎士団スリラーの存在を理解する。


「はっ! 小官、ナハクソ・ガッテンミュラーと申します!! ステラ様を謀るような真似を致しましたこと、部隊を代表して謝罪いたします!!」


「ホント。反省してくださいよ隊長」

「マジですよ。オレら、知らないうちに転属っすよ」


「黙れ!! 私の機転がなければ、お前たち全員死んでいたぞ!! バール怖いだろ!?」


「それは確かに」

「あざっす。隊長」


 ステラさん、さらに考えた結果、ナハクソ隊長の血縁関係にも感づく。


「あっ! クソムシさんはハナクソさんのご親戚ですの!?」

「ハナク……? はっ! クムシソは私の従兄弟です!!」


「まあ! それは良かったですわね!! 生き別れたご家族が感動の再会とか!! いいじゃねぇですの!!」

「はっ! お気遣いに感謝いたします!!」


 本当にお気遣いのできるご令嬢は、残念な言い間違いをされそうな名前に対して、残念な言い間違いなどしない。

 さてはもぐりか、ステラさん。


「ね。ほんと? マチコさ。エリーゼのこと騙してるよね? ね?」

「あ、いえ。アタシが知ってるその青い草の名前は『ブタニナル草』と言うものなんだけど。いや、気のせいだと思うから。うん」


「ちなみにですが! 『ブタニナル草』は家畜を太らせるための飼料として使われますよ! 人間が服用した時の効果は分かりませんが! 多分、太りますね!!」

「ピンコぉ!! あんた! どうしてこんな小さい子に!! 残酷な現実だって、知らなきゃ幸せなこともあるんだよ!!」



「……太らせる? あれ? バインバインは? あ。そっかぁ。胸とかお尻が太るんだ。うふふ。そっか、そっかぁ。じゃあ、結果的にはバインバインだもんね。ふふふっ」



 エリーさんが正気に戻るまであと数話。

 のじゃロリ元気なエリーさんファンの方はしばらくお待ちください。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 カントリー・ハウスに赴いていた外交班が戻って来て、いざエルミナ連邦へと帰還の時。


「おや。花火さんがおられませんね」



「エノキ殿! 好機ではないか!! 早く! 速やかに馬車を出そう!!」

「そうです! そうですよぉ!! ほ、ほら! お別れって辛いですから!! ねっ! はい! わたし、手綱持ちます!! ささ、皆さん、早く乗り込んでください!! とんずらしますよぉー!!」



 この外交業務でかなり思考がシンクロした、エルミナ連邦の主席と次席。

 武光は営業マンとして、「しかし。結果的にお世話になりましたので。ご挨拶くらいは」と主張するが、エルミナ&ジオコンビのかつてない結託の前に最後は折れる。


「あいさー。武光ー。早く乗るのさー。乗れば全てが解決さー」

「そうですか。かしこまりました。では、出発いたしましょう」


 こうして、たった4日しか滞在していないにも関わらず、10日くらいは居たような気がするロギスリンと一時お別れのエルミナ団であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 20キロほど馬車が走ったところで、リンの背後の袋がもぞもぞと動いた。

 続いて、リンが謝罪する。


「ごめんなのさー。ボクに選択権はなかったのさー」


 続けて、破天荒が服を着た女性が現れた。

 どうやら、袋を被りその前にリンを配置する事で完璧なカムフラージュをしていた模様。


 何が出て来たのかは、次話に譲ろう。

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