第140話 翡翠の聖騎士マチコ・エルドッセブンVSガチクズ姉さんとキノコ男

 翡翠の聖騎士マチコ・エルドッセブン。

 彼女は「仕方がない!! 紅蓮の聖騎士ジオ殿と一戦交えるよ!!」と覚悟を決めていた。


 細剣に風魔法を付与した魔法剣を発動させ、臨戦態勢へ。


 そんな中、本陣の側面から「来たでー!!」と顔を出したのは、花火姉さん。

 敵陣を単騎特攻してくるクレイジー過ぎる行動に驚くも、マチコは冷静な対応を取る。


「な、なんだい……!? 全兵!! 最大限の警戒をしな!! 絶対にあの女!! まともじゃないよ!! 軽視すると酷い目に遭う予感がする!!」

「私の占星術でも、ヤベーと言う結果が出ております!!」


「だろうね!? 占星術使えないアタシでもヤベーって分かるから!! もうさ、ピンコ! あんたその占星術ヤメなよ!! 当たる時は不吉なパターンばっかりだし!! 当たってるから回避不能だし!! 何の利益も出てないんだけど!?」

「覚悟ができるじゃないですか! 人間、死に際を悟ると言うのは大きなことですよ? 自分が死ぬと思って最期の時を迎えられる者など、ほんの一握りです!!」


「言ってることは正しい! けどね、ピンコ!! アタシがそれを求めてないって言う大前提があるのさ!! 死期知りたくないヤツにさ、死期近いぞ!! って教えていくのはもう親切でも何でもないからな!? 精神的拷問だぞ!!」

「はいはい! 皆さん、側面に兵を集中させて!! 重装兵をメインに!! 幸いな事に、敵の攻撃方法は近距離と見ました!! 近づかせないように、銃で弾幕を!!」


 マチコは「こいつ。急に副官として仕事始めたよ。再就職を見越してやがる……!!」と、ピンコが少し嫌いになった。


 一方。

 警戒された花火姉さんとエノキ社員のコンビは。


「武光! たけみつー!! はよキノコちょうだーい! なあ、まだなん? そんなんすぐ出せるやろ? キノコやで? キノコなんて、ハテナボックスぶっ叩いたら秒で出て来るやん?」

「……では。こちらを」


 武光、キノコを花火姉さんに手渡す。

 ここは黄茸、青茸辺りが無難か。間違っても赤茸や紫茸のように遠距離攻撃能力を持つキノコを与えてはいけない。



 魔神が誕生する。



 だが、ここはエノキ社員。

 さすがのリスクマネジメント能力を見せる。


 彼が花火姉さんに手渡したのは、緑茸。

 つまり、『転移の緑茸テレポータブル』である。


 これは食べて効果を発揮するものではなく、突き刺して使用するキノコ。

 食べた事がないため、その場合に何が起きるのかは不明。

 だが、エノキ社員は願っていた。


 「花火さんをどこか遠くに転移させられないでしょうか」と。


 異能の力はイメージが強く反映される。

 つまり、イメージどころか切実な願いであるこの強い力はほぼ確実に反映されるだろう。


「おー! 緑のキノコやん! 一機増えるん?」

「お召し上がりになれば分かるかと存じます」


 エノキ社員。策謀を巡らせる。


 彼は清廉潔白、公明正大を旨とし、相手が敵であろうと真っ直ぐな対応を心がけてきた。

 そのモットーが破られる時。来る。


 凶悪な脅威として存在している、制御不能な味方。

 これはもう、敵よりもずっと扱いに困る存在なのは明らか。


「なかなか美味そうやん! ポン酢欲しかったわー。ほな、いただきまーす」

「申し訳ございません……」


 花火姉さん、キノコを口に。



「うわっ! くっさ!! 食えるか、こないなもん!! くさ!! おらぁ! 飛んでけぇ!!」

「あっ」



 しなかった。

 彼女の嗅覚が危険を察知したのか、それとも彼女の嗅覚は味覚と同じく常人と一線を画すものだったのか。


 それは分からないが、花火姉さんは緑茸を敵陣目掛けてぶん投げた。

 すると、転移空間が開き、おおよそ100人ほどの兵士が吸い込まれていく。


「……なんだい、あれ。ロギスリン領は謎の魔導兵器を開発してるのかい? うちの兵士がごっそり消えてなくなったけど? ピンコ? 状況報告ぅ!!」

「ヤベーですね」


 マチコ部隊。兵士の数が一気に減る。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらはエルミナ連邦の首都。バーリッシュの総督府。


「ふふふっ。今日も平和なものだな。出張組には悪いが、やはり平穏な日々と言うものは良い。女神界から急に連れてこられてこっち、心が休まらなかったからな。ミルクティーが美味い。よし、今日はケーキも食べてしまおう。ふふふふっ」


 優雅に執務室でアフタヌーンティーを楽しんでおられる、雷鳴の女神・トールメイ様。

 出番が来れば辱められ、辱められると出番が終わる。


 そんな哀しみの連鎖から脱出した彼女はつかの間の平穏を楽しんでいた。

 が、平穏は唐突に終わる。


「トールメイ様!! 大変だよー!!」

「いかがした、ルーナ。なんだ? さては、ソフィア辺りが男を蹴り飛ばしたか? ふふっ。他愛のないヤツめ。良かろう。私が行って騒動を収めて来るとしよう」



「違う、違うよー!! なんかねー!! 総督府の前に帝国兵さんが100人くらいドカッと出て来た!! 多分だけどね、武光のキノコの力だと思うな!!」

「くそぅ!! あの男!! どうして私にこれほど面倒事を押し付けるのだ!? なんだ!? 私がキャミソールに短パンで紅茶飲んでいたからいけないのか!? おい、ソフィアを呼べ!! 私はこの恰好では絶対に外には出ぬぞ!! ……ルーナ。よせ。どうして私の手を引っ張る? あっ! お前!! キノコ食べてるな!? なんて力だ!! よ、よし! 分かった!! 話し合おう!! だからルーナ! 引っ張る……やめっ!! ヤメてぇ!! 嫌だぁ! エルミナの部屋着を勝手に借りて、だらけていた私が悪かった!! ヤメ、許してくれ!! 正装、正装させてぇ!! あああああ!! いーやぁー!!」



 その後、涙目のトールメイさんにより転移して来たマチコ部隊は鎮圧されました。


 割とすぐに駆けつけたソフィアさんは特に何もせず、「これはご褒美……!! 留守番のご褒美か……!! すまんな、ステラ!! 私が今回はソロ活だ!! 推せる!!」と、よだれを拭っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 再びロギスリンのカントリー・ハウス。


「貴様ら!! 私の部下をどこにやったんだい!?」

「申し訳ありません。私にも分かりかねます」


 バーリッシュでお姉ちゃん女神にボコボコにされました。


「いやー! すまん、すまん!! なんやくっさいキノコ押し付けられてん!! そらな? 投げるやん? 投げたらさ、バーンなって。気付いたら敵さん消えてました!! これ、ウチが悪いん?」

「あ、いえ。責任は私にあります」


「なんや! 武光!! あんた、急に男見せてくるやん!! 女の不始末をそっと引き受けるとか!! なかなかできんで!? イケメンムーブかましてくるやん!! なに? お姉さん落とす気か? こいつー! 見かけによらず肉食系やでー!!」



「滅相もございません。そのように恐れ多い事、1ミクロン単位ですら考えません」

「えー。なに? むっちゃ否定して来るやん? なんやウチ、傷つくわー」



 マチコ・エルドッセブンさん。

 「これ、チャンスじゃないかい?」と気付くやいなや、魔法剣を発動させる。


「喰らえ!! 『大旋風エアロスミス』!!」


 風魔法は威力こそ高くはないものの、形質変化に優れているという利点があり、鋭利さに特化したカマイタチ状のものから、範囲攻撃に特化した突風型の発現まで、多くのバリエーションによる展開が可能。


「ヤメんかい、おどれ!! まずはな、はじめましてのご挨拶やろが!! 自分、学校で何を習っとんねん!! 小卒やってそのくらい分かるで!!」


 花火姉さん、迫りくる巨大なつむじ風にバールを投げつける。

 すると、つむじ風は霧散した。


「なっ……!? 魔法剣の核を、バールで破壊しただと!?」

「えっ? そうなん? ほんま? よっしゃあ!! 計画通りや!!」


 もはや理屈では止められない、破天荒。

 そして破天荒は結構な頻度でガチクズに変化する。


「ま、待てぇ!! こちらを見ろ!! ロギスリン領主! カレン・ウィッシュマイムはここにいる!! 彼女の身柄を安全に解放して欲しくば!!」

「騙されるかい!! そんなん絶対に自分のとこの兵士にコスプレさせとるだけやろ!! お姉さん騙すならな! せめて声までそっくりにして! 喋らさんかい!! おらぁ!!」


 花火姉さん、2本目のバールを全力で投げつける。

 それは迷いのない軌道で、カレン領主なのか、カレン領主の偽物なのか判断の付かない女性にヒット。


「あぁぁ!! うぐっ……」

「花火さん」


「うん。なに?」

「今のお声。間違いなくカレン様かと思いますが」


「え。ほんま?」

「はい」


「そうなん? マジで?」

「はい」


「あー。そうなん? オッケー。ちょい待っててな?」

「はい」


 花火姉さんは「ふぅ」と息を吐いて、マチコを指さした。

 続けて、悲鳴をあげる。



「嘘やぁぁぁ!! こいつぅ! こんな非道をようするわ!! 考えられへんのやけど!! ええー!? 普通、人質に危害加えるー!? ちょ、理解できへんわ!! この鬼畜ぅ!!」

「嘘だろう、あの女……。全部アタシのせいにするつもりか!? いや、さすがに無理だろう!? ものすごい勢いでアタシを責めて来るのだが……!?」



 顔色が悪いカレン領主。

 当然である。


 普通の女性が腹部にバールをガチ投げされて、それがクリーンヒットしたら顔色くらい悪くなる。


「いやぁぁぁ!! 信じられへん!! みなさーん!? 見ましたぁ!? あの子、人質を躊躇なく殺しはりますで!? えー!? 若い子って怖いわー!! 嘘やんかー!!」


 ちなみに、こんな時は最初に騒いだ方がマウントを取れる確率が上がる。

 これ、豆やで。

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