第14話 出張の準備だ、エルミナ団!

 今日のエルミナ団は二手に分かれている。


 ルーナ、ステラ、エルミナの3人は近くの森で村に害を及ぼすモンスターを討伐するため、警戒任務に出かけている。

 一方、榎木武光はガンガンドゥンと話し合いの席を設けていた。


「エノキ。すまねぇが、やっぱりヘルケ村ではあんたの言う、胃薬だっけか? そんな薬は作れそうにねぇな。傷薬くらいなら調合できる者もいるんだが、あんたの必要としてる薬は胃に作用するんだろ?」

「ええ。私も薬学は修めていないので詳しい知識はないのですが。キノコを複数食した際の胃の不調をどうにかしなければ、今後の弊社の活動に支障が出るかと思われます」


 ガンガンドゥンは「そりゃあいけねぇ! なおのこと申し訳ねぇなぁ」と肩を落とす。


「いえいえ。そもそもグラストルバニアの薬学がどの程度のものなのかも知らない私が差し出口を申しただけですので、どうかお気になさらず」

「薬学か。ここから山を2つ超えた辺りに、帝国領の貿易都市があるんだがな。そこなら、腕の良い薬師がいるかもしれねぇ。帝国ではなんだか分からねぇ、難しい研究も色々とやってるらしいからな」


 武光は「なるほど。それは良い事を伺いました」と笑顔を見せる。


 グラストルバニアの3つの勢力。

 魔族、帝国、亜人。

 既に魔族とは望まぬ形で接触しているが、残る2つの勢力についての情報が武光にはまったくない。


 ルーナはヘルケ村から出たことがないので仕方がないにしても、エルミナは女神なのにてんで役に立たない。

 ステラはそれなりに知識を持っているが、いかんせんまだ18歳の少女。

 その知識は深いとも膨大だとも言い難い。


 営業マンにとって情報は剣よりも強い武器である。

 今後の業務遂行のためには、いずれ多くの情報を得るべきだと武光も考えていた。


「その貿易都市の名前は分かりますか? 大まかで結構ですので、位置関係もお教え願いたいのですが」

「フロラリアって街だ。うちの村にあるのは古い地図しかねぇが、ステラの嬢ちゃんに聞けば詳しい事が分かるんじゃねぇか?」


「なるほど。ですが、ステラさんは未だに村の中ですら迷子になられる器用な方ですので。一応その古い地図も拝見させてください。模写して手元に置いておきたいです」

「ああ! 分かった! おおい、誰か倉庫から地図持って来てくれぇ!! エノキがご所望だ!!」


 敏腕営業マン榎木武光。

 次なる業務の方針を定める。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、乙女チームはと言えば。


「ルーナさん! エルミナ様!! 出ましたわよ!!」

「ほへー! おっきい鳥さん!! でも、飛ばないね!」


「大きすぎませんか? わたしたちの家くらいのサイズなんですけど……」

「ですわね! わたくしたちが退治しておかなければ、村に危険がヤベーですわ!!」


 ステラが剣を抜く。

 ルーナは武光から預かっていた黄茸を迷わず口に放り込む。

 エルミナは「頑張ってくださいねー」と安全地帯に避難した。


「まずはその翼から捌いてさしあげますわ!! たぁぁぁっ!! ひゃっ!?」

「わわっ! 羽が飛んできたっ!! ほへ? でも、空中で止まっちゃったよ?」


 エルミナは治癒魔法の応用で、防御魔法も使えるようになっていた。

 ただし中位術式であり、そこまで強力なものは展開できない。


「わたしが2人を守ります! ……安全なところから!! ですので、2人は攻撃に専念してください!! 絶対にこっちにその大きな鳥を近づけないでくださいね!! ホント、モンスターとか無理なので!!」


 『レーヴェシールド』と名付けた防御魔法は、大気の魔力を集めて凝固させることで空気の盾を構築する。

 使用者のエルミナから離れた場所にも遠隔発動させることができるため、安全地帯に引きこもる女神様にも安心して使える支援スキル。


「助かりますわ!! では、『ツイン・アイシクルランス』!!」

「ほわっ! ステラちゃん、すごっ! 鳥さんの足を刺しちゃった!! でもさ、翼を捌くんじゃなかったの?」


「こ、細かい事は構わねぇんですのよ! 戦いは臨機応変に行うものなのですわ!! それよりも、ルーナさん! 出番ですわよ!! 敵の動きが止まりやがりましたもの!!」

「そっか! まっかせてー!! てぇぇぇやぁ!! 『撃墜拳デストロイ』!!」


 飛び上がったルーナは、拳に力を込めて巨大怪鳥の頭上から一撃を叩き込む。

 「ゲギャァァァァァァ」と断末魔を上げて、名も知らぬ怪鳥は息絶えた。


「へっへー! 見た!? ステラちゃん!!」

「え、ええ……。何と言うか、むちゃくちゃやりやがりますわね……。それから、なんですの? その物騒な名前は」


「武光と一緒に考えたんだよ! あたしの必殺技!!」

「まあ! 武光様がお考えになられたんですの!? ……良い名前ですわね!!」


 モンスターの死亡確認から3分ほどして、エルミナが安全地帯から這い出してきた。

 そして、女神らしく2人の少女を称えた。


「ルーナさん。ステラさん。あなた方はまだ幼いのに立派です。わたしは女神として、誇りに思います」

「ありがとうございますわ。……結局、一瞬たりとも隣で戦ってはくれやがりませんでしたのね。エルミナ様は」



「だって! 怖いじゃないですかぁ!! わたし、女神界にいた頃は同僚の女神すら怖がってたんですよ!? あんなグロい鳥、近づくだけでも無理!!」

「清々しいほどに開き直っていやがりますわ。そこまで言い切られると、どうぞその道をお進みになられると良いですわとしか言えねぇですわよ」



 そんな話をしていると、ルーナが怪鳥の足を力任せに引きちぎって笑顔で持ってくる。

 エルミナの顔色が真っ青になった。


「この鳥さん、美味しそうだからお土産にしよー!」

「ひ、ひぃやぁぁぁぁぁ!! グロい! グロいですよぉ!! ちょ、無理です、わたし、そーゆうの無理です!! お先に帰らせてもらいますからぁぁぁ!!」


「あー! 待ってよー、エルミナ様ー!! あたしもキノコの効果が切れちゃうから、早く帰らないとだもん!」

「……あ。そうなったらあの鳥の肉片を運ぶのって、もしかしてわたくしになるんですの? 冗談じゃねぇですわ!!」


 無事にモンスターを狩った乙女たちが何故か全力疾走で村に戻って来たのは、勝利の余韻も冷めやらぬ5分後の事であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 榎木武光抜きのエルミナ団がモンスターを討伐したという一報は瞬く間に村の中を駆け巡り、その晩は宴が開かれた。

 ミシャナ族は祭り好きであり、どんな些細な事でも盛大に祝うのが習わし。


 武光も彼女たちの活躍を大いに賞賛した。


「皆さん、どんどん力を付けておられますね。頼もしいことです」


「わたくしは10年に1人の天才冒険者ですもの! このくらい当然ですわ!!」

「あたしがね、ドカーンってやったんだよ! 武光のおかげ!!」

「わたしはほんの少しだけ活躍したような、していないような……。とりあえず、今日も無事で幸せです。すみません、お酒のおかわりもらえますか?」


 彼女たちの武勇伝を笑顔で聞いていた武光は、怪鳥の焼き鳥を食べながら今後の方針についてメンバーに相談した。

 「キノコ男のさらなるレベルアップ」に反対する者などいるはずもなく、旅の準備を整えて2日後に村を出発することが決まる。


 エルミナ団、初めての出張であった。




~~~~~~~~~

 そろそろストックがヤバいですが!!

 気合の2話更新!

 18時に次話投稿予定でございます!!

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