第11話 キノコ男の伝説、始まる
武光がギダルガルの注意を引き付けている間に、エルミナ団のメンバーも仕事をこなしていた。
まず、ルーナはヘルケ村の地理に明るい。
それを活かして、住人の避難誘導を行う。
「おじいちゃん、こっちこっち! あっ、でも慌てて転ばないでね! おじさん! ダメだよぉ! 武光が気になるのは分かるけど、まずは逃げなくちゃ! ほーら!!」
ミシャナ族の戦士であるルーナの発言力は、村の中でもかなり高い。
そのため、彼女が「逃げよー!!」と指示を出すと、住人たちは取る物も取り敢えず一目散に駆け出していく。
ヘルケ村の奥には洞窟があり、そこならば戦いの被害を受ける事もないだろう。
ステラは魔法の心得がある。
そのため、有事の際には武光の援護を行う。
また、できる限り建物に被害が及ばぬように防御魔法で家屋を守る。
「武光様のご命令ですわ! わたくしの前で一軒だって家は破壊させませんわよ!! 『フォースシールド』!! 広域展開!!」
彼女の存在は武光にとって実は大きく、後顧の憂いなく戦えると言うだけでも立ち回り方の幅は広がりを見せる。
最後はエルミナ。
彼女は女神。内包している魔力は人間よりもはるかに多い。
使える魔法も多いはずである。
「ふぎゃぁぁぁぁっ!! こっちには普通に隕石の破片が飛んできますけどぉ!? す、ステラさぁん! 防御魔法、もっと範囲を広げてくださいよぉ!!」
だが、彼女は女神界ではだいたい引きこもっていた過去を持つ。
現状使える魔法は治癒属性のものだけで、高い魔力を持っているだけのリアクション要員としてとりあえず武光の後ろに隠れていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ゲゲゲゲ! 少しは骨のありそうな魔法の使い手がいるじゃねぇか! さっきのはなんだ? 見たことのねぇ術式だったがよぉ! オレは知らねぇ魔法を解読するのが趣味なんだ! 殺すの待ってやるから、教えろよ! なぁ、おい!!」
ギダルガルはそう言いながら、再び隕石を構築する。
話が全然違うじゃないか。
これが魔族のやり方か。
「単純な事だよなぁ! こうやってよ! おめぇを攻撃すりゃ、またさっきの魔法を使わざるを得ねぇもんなぁ!! おらぁ!! 『メテオ・レイ』!!」
「お客様。見た目に反して意外と頭の回転がよろしいようで。おっしゃる通り、私が手をこまねいていては家が破壊されてしまいます。『
再び空中で衝突する隕石と火球。
破壊力は拮抗しているらしく、やはり相打つ形で爆散する。
「なるほどなぁ! 分かって来たぜぇ! その火球、魔力の核の周りを派手に燃やしてやがるな? 周囲の炎でまずけん制。続けて魔力核でトドメって寸法か!!」
「そのような仕組みでしたか。大変参考になります」
事実、武光は未だに『キノコ』の力を理解せずに使用している。
理詰めで物事を推し量る彼にとって、これは異例の事である。
だが、その行動にも武光なりの理は存在していた。
「感覚に身を任せた方が上手くいく」と言う、直感である。
それを理と呼んでいいのかは有識者の判断にゆだねるが、彼はそのロジックに自信を持っていた。
「もうネタが割れちまったなぁ! そんじゃ、おめぇはもういいや! 死んじまえ!! 『ギガント・メテオ』!!」
「なんと。先ほどよりもはるかに巨大な隕石ですか。これは御見それいたしました。困りましたね。私の攻撃手段は1つしかないのですが……」
考えている間にも、隕石は武光に向かって迫る。
巨大なため、進行速度が極めて遅いのが救いではある。
が、このままでは普通に圧死して何も救われない。
「エルミナさん! 質問がございます!!」
「今ですか!? 質問に答えたら、わたし助かります!?」
「場合によりけりとしか言えませんが、可能性は上がるかと存じます」
「じゃ、じゃあ聞きます!! なんですか!? わたしのスリーサイズですか!?」
「あ、いえ。それは結構です。そんな事よりも、キノコについてです。お聞きしたいのは、キノコを同時に2個食べるとどのようになるのかについてなのですが」
「女神のスリーサイズをそんな事呼ばわり!! って、キノコ2つも出せるんですかぁ!? わたしキノコの力について理解してないから、分かんないです!!」
武光はいつもの爽やかスマイルを浮かべて、優しくエルミナに語り掛けた。
「お気になさらず。正直、まともな答えが頂けるとは思っておりませんでしたので」
「じゃあなんで聞いたのぉぉ!? 時間の無駄じゃないですかぁ!! あなた、やっぱり普通の転生者じゃないですよぉ!! もぉぉ、変な人を選んじゃったぁぁぁ!!」
「転生している時点で普通ではないと思いますが」と呟いた武光は、手のひらに力を込める。
ポンッとお馴染みの音と共に、赤いキノコが生えて来た。
だが、彼は力を緩めない。
「まだまだ! やれるはずですよ! 諦めないで!!」とエールを送る。
ポンッ。ポンッと、生えたキノコは3つになった。
これは武光にとっても想定外。
だが、隕石はもう目前まで迫っている。
ならば、考えている暇はない。
「いただきましょう。……むっ。これは! 水が欲しいですね!! 呑み込めません!!」
「えええええっ!? 頑張って! 武光さん!! 呑み込んで! できる、あなたならできるからぁ!!」
女神の声援の力だろうか。
どうにかキノコを3つ咀嚼して呑み込んだ榎木武光。
彼の体が凄まじい炎に包まれた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ギダルガルは、眼前の人間が魔族でも上位クラスの魔力を突然放ち始めたため、さすがに驚き、戸惑い、目を見開く。
「お、おい……。おいおいおい。なんの冗談だぁ? さっきまでとは比べ物にならねぇじゃねぇかよ!! おめぇ、何をしやがった!?」
武光は両手を組んでハンマー投げのように勢いをつけて回転を始める。
その所作の中でも、先方の質問にはきっちり答えるのが営業マン。
「キノコを食べました。いつもの3倍ほど」
「何言ってんだ、こいつ」
事実なのだが、ギダルガルの心には届かなかった。
代わりに、武光のエアハンマー投げがさく裂する。
「そぉぉぉぉぉい!! 『
「がぁっ!? オレの隕石が砕けっ!? ぐげぇあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
地上から天に昇る流れ星は、隕石を砕く。
勢いは死ぬことなく、むしろ加速しながらギダルガルの右肩に直撃した。
「ゲ……ゲゲゲゲ……。オレの腕を……!! おめぇの顔、確かに覚えたぜ! 長ったらしい名前は忘れたが……! キノコ男!! おめぇはオレがいつか絶対に殺す!! いいか、絶対にだ!!」
そう言うと、ギダルガルはヨロヨロと飛び去って行く。
エルミナ団には飛行能力を持つ者がエルミナしかいないため、追撃は不可能。
何より、武光の体に異変が起きていた。
これを悟られなかっただけでも良しとすべきだろう。
「う、うぐっ。これは……副作用ですか……」
「ちょ、武光様!? どうしやがりましたの!? 先ほどの大魔法の反動ですわね!? 分かりましたわ、わたくしが口づけを……!! 間違いましたわ! 人工呼吸を!!」
「キノコを食べ過ぎて……。少々胃の不快感が……。気分が悪くなりました……」
「……は? ちょっと何言ってんのか分かんねぇですわ」
こうして魔族迎撃戦はエルミナ団の勝利に終わる。
キノコ男伝説の始まりでもあった。
だが、『キノコ』の力に重大な欠点が見つかった事は無視できない。
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明日は2話更新!
多分2話更新です!! 多分!!
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