第9話 結成! 世界征服推進企業・エルミナ団!!
ステラが武光を追ってエノキ邸を訪ねて来たのは、15分ほど経ってからの事だった。
猪突猛進お嬢様の彼女が、どうしてたった数百メートルしか距離のないエノキ邸にすぐ赴かなかったのか。
実は、しっかりと全力疾走で向かっていたのである。
その上で、しっかりと15分の時を浪費していた。
「はぁ、はぁ……。ようやく見つけましたわ。さ、さすが、わたくしのお慕いする殿方……! お住まいも巧妙にお隠しになりやがってますのね!!」
ステラさんは重度の方向音痴であった。
そもそも、帝国領の外にあるヘルケ村を彼女は目指してなどいなかった。
むしろ、帝国領の中心で冒険者の仲間を募る計画を立てていた。
真逆の方向に突き進んだ結果、食料が底を尽き行き倒れることとなったのである。
ステラからもポンコツの香りが漂い始めた。
「あー! さっきの冒険者さん! もう元気になったんだね! よかったぁー!!」
「あなたは……。わたくしを助けて下さった紳士のお付きの方ですわね!」
「ほへ? んー。よく分かんないけど、とりあえず自己紹介! あたしはルーナ! よろしくね!」
「これはわたくしとしたことが、失礼しちまいましたわ。ステラ・トルガルトと申します」
「ステラちゃん! ねね、もしかしてあたしと年が近いかな? あたし、17歳!」
「あら。本当ですわね。わたくし、先日18歳になりましたのよ」
「そっかぁ! えへへー。この村、あたしと同じくらいの年の子がいないから、すっごく嬉しいな! ステラちゃん、ここに住むんでしょ?」
「ええ! 特別に、しばらく滞在してやりますですわ!」
ルーナが「わーい」と無邪気に喜んでいると、村の年寄りから文献を借りて来た武光が家に戻って来た。
まずステラを見て、武光は「またお会いしましたね」とほほ笑んだ。
「ふぁっ!! ずっきゅんキマしたわ!! なんてステキな笑顔!! あ、あの、わたくしこの村にしばらく滞在する事にしましたの!!」
「そうですか。辺鄙なところですが、村人の皆さんは良い人ばかりですよ」
ステラはモジモジと何か言いたそうにしているが、村人やルーナに見せていた強気の姿勢がすっかり鳴りを潜めていた。
「ふむふむ!」と何かを納得したルーナが、武光に注文する。
「武光、武光! ステラちゃんにちゃんとお名前教えてあげてないでしょ? もぉー。君はそーゆうところがあるからなぁー」
「ああ、これは失礼しました。てっきりすぐに発たれるのかと思い、私などが名乗るまでもないかと思いまして。榎木武光と申します。村ではエノキと呼ばれております。ステラさんのお好きな呼び方で結構ですよ」
ステラは割と豊かな胸を押さえて、うずくまる。
慌ててルーナが声をかけた。
「どうしたの!? ステラちゃん、具合悪いの!?」
「ずっきゅんキマしたわ……。わたくしの名前を呼んでくださった……! 武光様……!! これはもう、交際が始まりやがったと言ってもいいのでは!?」
「あはは! ステラちゃん、変わってる子だねっ!」
「賑やかになって良いですね。ルーナさんもお友達ができたようで、何よりです」
武光はそう言うと「少し調べ物がありますので、失礼します」と言って、家の中へ入って行った。
彼はヘルケ村の文献全てに目を通すべく、ここのところは家にこもっている。
営業に必要なのは情報。
これは、大航海時代の香辛料に匹敵するほど貴重なものであると彼は心得る。
なお、グラストルバニアの文字の読み書きは既にマスターしている武光。
それくらいすぐにこなさなければ、営業成績トップを維持する事はできないのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふふふっ。今日も村の皆様に崇め奉られてしまいました! なんでしょう、この高揚感……!! うへへへっ」
チヤホヤされる喜びに目覚めてしまった女神・エルミナも、今日のノルマのチヤホヤをゲットして笑顔で帰宅してきた。
風魔法の特訓中のルーナが彼女を出迎える。
「おかえりー! エルミナ様、紹介するね! こちらはステラちゃん!!」
「まあ、冒険者の方ですか? 胸を押さえていますけど、お怪我でも?」
「あ、いいえ。お気遣いは結構ですわ。ちょっとハートがずっきゅんイかれちまっただけですので」
「そうですか? なんだか分かりませんけど、大変ですね。わたしはエルミナと言います」
ステラは胸を押さえながら、エルミナにも自分の名を告げた。
ルーナがぴょんぴょん跳ねながら、エルミナの紹介を引き受ける。
「エルミナ様はね! 女神様なんだよ! すごいよねっ!」
「は? ええと、女神? それは、グラストルバニアに伝わる、伝承の500人と関係ありますの?」
「わぁ。よくご存じですね! わたし、何を隠そうその500人のうちの1人です! どやぁ!」
「ああ、そういうプレイがお好きでありやがりますのね? 分かりましたわ、お付き合いいたします」
「ガーン! 信じてもらえてないのですか!?」
「ステラちゃん! エルミナ様はホントの女神様なんだよ! 落ちこぼれなだけ!!」
「る、ルーナさん……? フォローは嬉しいですけど、それ、追撃です……」
賑やかな声をBGMに文献を読みふけっていた武光だったが、思い出したことがあり再び外へ出て来た。
「エルミナさん。お帰りでしたか」
「はい。今日も信徒たちのチヤホヤを摂取してきました!」
「村人の皆さんは信徒ではないと思いますが。それよりも、この世界では複数の人間が集団で行動するのが通例のようですね」
「あ、はい。そうですね。一般的にパーティーを組んで行動するようです」
武光は「なるほど。そういう事でしたら」と言って、ルーナとエルミナに決定事項を伝える。
「我々は、今日からエルミナ企画改め、エルミナ団と名乗りましょう。どうやら、団体の名称がないと不便なようですし。弊社はエルミナ団に改名いたします」
「わ、わたしの名前が前面に押し出されている……!? もうそれ、私の団じゃないですかぁ!! なんでしょう、この高揚感は!!」
エルミナ様は下界に来てから、高揚してばかりいる。
話に聞き耳を立てていたステラが「はい!」と背筋を伸ばして手を挙げた。
「はい。どうされましたか、ステラさん」
「ふぁぁっ、また名前を……! ああ、違いますわ! しっかりしやがれですわ、ステラ!! あの、そのパーティーにわたくしも加わって差し上げてもよろしくってよ?」
「いえ。危険ですので、お気持ちだけで結構ですよ」
「ひぃぃっ! お待ちになって! わたくし、剣と魔法もそこそこ使えますわ!」
「なるほど」
あまり興味を示さない武光を見て、ステラは焦る。
必死の自己アピールが続いた。
「えっと、あとは馬にも乗れますわ! リンゴを握りつぶせますし!! それから、それから!! ……あとは算術くらいしかできませんわ」
「算術ですか。もしや、グラストルバニアの通貨についても造詣が深いのですか?」
「え、ええ。財務に関しては一通り実家で学びましたので」
「ステラさん!」
武光は彼女の手をガッチリと掴んで握手をした。
「採用です! これから、共に世界平定を目指しましょう!!」
「ふぁぁっ!! なんだか分かりませんが、かしこまりましたわ!! よっしゃあですわ!!」
企業にとって、計算能力に優れた者は必須。
異世界の数字に長けたステラは求めていた人材の1人であった。
こうして、グラストルバニアをひとつの纏めるためのパーティー。
世界征服推進企業・エルミナ団が結成されたのであった。
~~~~~~~~~
告知ですぐに嘘をつく作者です。
スタートダッシュにやや失敗しているため、今日も3話更新!
次話は12時!
作品フォローと☆を頂ければ幸いです!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます