マイ・ワールド

マイ・ワールド

「好きです。」

「…ごめんなさい。」

“だあああっ、またやってしまったあ!”

 女の子に告白し、即フラれて頭を抱えている僕は、この世界に来て、何度も同じ過ちを繰り返している。

 ああ、ちょっと説明しようか。

 僕は実は転生者だ。そう。マンガや小説でよくあるやつ。前いた世界で高校生だった僕は、ある日突然交通事故に遭って、死んじゃって、気が付いたら、こっちの世界にいた。

 突然知らない、中世ヨーロッパ風の世界に投げ出されて、僕が慌てふためいていると、また違う世界に飛ばされた。忙しい話だよ、全く…

 飛ばされたその世界は、だだっ広い、ただただ白い世界で、目の前にお姫様が眠るような、天蓋てんがい付きの大きなベッドがある以外は、何もない世界だった。

 そしてそのベッドから、見るからに高貴そうな美女が現れた。その美女は自分の事を女神と言い、僕を先刻さっきいた世界に転生させたとも言った。よくあるシーンだよね。僕もさすがにここまでテンプレを展開してくれると、頭が麻痺して、このシチュエーションをすんなり受け入れてしまってたよ。

 そしてそんな僕に、女神はこれもよくある、チートスキルってやつをくれたんだ。

 それは、好きになった女の子は、必ず自分を好きになってくれるってモノだった。

 いやいやいや、最初にフラれてたよねって?

 そう。実はこのチートスキル、欠点があって、告白したら、関係がリセットされてしまうんだ。つまりはまあ、…フラれるってこと。

 じゃあ、告白せずに付き合っちゃえばって話なんだけど、最初は伝えずにはいられなくなって、つい…

 次は何か、良いムードになって、雰囲気に呑まれたって言うか、気が付いたら…

 流れ的に告白する空気になってとか、両親に会わされて、問い詰められて、もう言わざるを得ないって状況になってとか、問い詰められてと言えば、女の子自身に問い詰められてってのもあったっけ…

 とにかく、僕は同じ過ちを、凝りもせずに、この世界に来てから、ずっと繰り返してるってワケ。


「好きです。」

「…ごめんなさい。」

“はい。リセット♡”

 男の子から告白されて、即フッて心の中で喜んでいる私は、この世界に来て、いや、彼がこの世界に来てから、このやり取りをとても楽しんでいる。

 ちょっと説明しましょうか。

 私は実は転生者なの。そう。マンガや小説でよくあるやつよ。前いた世界で若くして病死した私は、気が付くと、真っ白で、だだっ広い空間にいた。そこには女神がいて、私を違う世界に転生させてあげるって言ったの。しかも、チートスキルまでくれたの。

 そのチートスキルっていうのは、転生のミニチュア版みたいなモノで、ある空間…って言うか、世界があって、その世界には女神が一人と、たくさんの人が普通に生活しているんだけど、中身は空っぽ。決められたルールで、ただ生活しているの。ゲームで言うところの、NPC(ノン・プレイヤー・キャラ)ってやつ。もちろん、ゲームみたいに決められた台詞を毎回繰り返すだけのキャラじゃなくて、もっと柔軟性があって、人間っぽくって、異世界の住人って感じ。そして私はその、どのNPCの中にでも入り込めて、そのキャラを体験出来るの。

 一人で遊ぶのも寂しいだろうからって、その世界に他人を取り込めちゃう機能も付けてくれて。

 女神は若くして死んだ私に、いろんな人生を楽しんだらって理由でこのチートスキルをくれたんだけど、ある日私気付いたの。このスキルで、彼に復讐できるんじゃないかって。

 彼っていうのは、前の世界で、私が好きだった人の事なんだけど、中学の時に好きになって、気持ちを伝えられないまま、違う高校に通うことになって、そんな時に私は医者から病を告げられて、もう長く生きられないって言われて、絶望の中、どうしても彼に気持ちを伝えたくて、入院生活の中、一大決心をして、彼に告白したっていうのに…

 彼ったら、あっさり私をフッたのよ。

 いやいやいや、フるのは相手の自由でしょって?


 割り切れるワケないでしょ。


 彼を私の世界に取り込んで、彼が好きになったNPCの中に私が入って、彼をフッてやるの。一回で終わらせる気はないわ。好きになるキャラ、好きになるキャラ、皆に入って、何度も何度もフッてやるわ。

 まあ、とは言え、さすがに彼がこっちの世界にいないんじゃあ、どうにもなんないし、諦めてたんだけど、ある日、頭の中に女神の声が聞こえて、彼も死んじゃったから、私と同じ世界に送ってあげるって。

 私思わず、“グッジョブ!”って心の中で叫んで、空に向かって親指突き上げたわよ。女神ったら、わかりにくいだろうからって、前いた世界と同じ見た目で、彼を私の近くに送ってくれて。私すぐに彼を見つけて、私の世界に取り込んだわ。

 そこからは考え抜いた復讐のシナリオの実行よ。まずは私が女神に入り込んで現れて、彼に転生したと告げて、チートスキルをあげたわ。

 そのスキルは、好きになった女の子は、必ず自分を好きになってくれるってモノで、とりあえず彼が恋愛しやすいように環境を整えたわ。彼が恋愛しないと、告白も、フるもないから。

 そしてそのスキルに条件を付けたの。告白したら、関係がリセットされるって。これでフッても疑問に思わないはず。

 ああ、念のために言っとくと、私にチートスキルを与える能力なんてないわよ。先刻言ったように、私が彼の好きになったNPCに入り込んで、告白するよう仕向けて、告白されたらフるだけの話よ。

 とりあえず、復讐は上手くいってる。もう何度も彼をフッてやったわ。

 ざまあみろって感じなんだけど、さすがに飽きてきた。

 って言うか…さすがに、罪悪感を感じて来たって言うか…まあ、同じ見た目だし、中身も彼なワケだし、死を目前にして、一大決心をして告白した私をフッて、むかつきはしたけど、だからって、彼の事嫌いになったワケじゃないし、告白され続ければ、まあ、それなりに、私の心も揺れるワケで、…

 しかも、私の世界には、女の子のNPCはたくさんいて、フラれたら他のNPCに行けばいいのに、彼は同じNPCにずっと告白し続けるっていう、何か、一途な面まで見ちゃって、そういうのって、何か、キュンとしちゃうじゃない?

 逆にこのNPCに嫉妬心すら湧いてきちゃうって言うか…

 とりあえず、『フラれる回数が上限に達しました。告白したらフラれるっていう欠点はなくなります』とでも言っちゃえば、そのまま付き合えるワケで…

 とは言え、ここまで続けちゃったら、やめる、って言うか、次に進むタイミングが、わからないっていうか、どうすれば良いんだろって話で……


「…あの、何度も、ごめんね。」

「…?」

「実は、僕、前に好きな子がいたんだけど、ある日突然、その子から告白されて、ものすごく舞い上がったことがあって…」

「……」

“…ええっと、何言ってんの?…って言うか、そんな子いたの⁉それで私フラれたの⁉”

「でもその時、友達に見られてたこともあって、何か、恥ずかしくて、つい、本心隠して、その子の事フッちゃって…」

「……」

“…ん?”

「そうしたら、その子、会ってない内に、重い病気になってたらしくて、このままじゃいけないと思って、気持ちを伝えに行ったんだけど、もう、彼女は、その時死んじゃってて……」

“…え?…それって……”

「だから、これからは、誰かを好きになったら、その人に気持ち、ちゃんと伝えようって、もう後悔しないように、その人のこと、諦めずに愛し続けようって…」

「……」

「…最初は、君が何となく彼女に似てるなって、でも、話してみると、ますますそっくりだなって…」

“…そりゃあ、一応、好きになったの確認して、私が入り込んでるワケだから…”

「…何言ってんだろ。君にこんなこと言ったら、失礼だよね。ごめんね。」

「……」

“…そ、そうよ。結局、他の人に、何度も告白なんかしちゃって……”

「…でも、どうしても、彼女の事忘れられなくて…君に、彼女の事、重ねちゃって…」

「……」

“……”

「本当にごめん。先刻ので、最後にするから…」

「……」

「やっぱり…今でも…」

「……」


「彼女のことが好きだから。」

「……」


“…私、もう、次に進んじゃっても、良いよね……♡”

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マイ・ワールド @LaH_SJL

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