不穏なメール
高校生活から早三か月。特に志望高校など無かったので、なるべく大人しい生徒が多い高校へと入学した。共学で偏差値も低かったので、簡単に入学でき、同級生の奴らは少し癖があるだけでいい奴らだ。中学の時の毎日のように喧嘩していた日々が嘘かの様に穏やかな日々を送っている。
「姐さん!これ見てよ!」
教室に入るや否や、バタバタと私の方へ駆け寄ってきたこの男は富雄。いかにもオタクな外見のこの男との友人関係は、たまたま寄ったゲーセンでヤンキー共に絡まれていた所を助けてやってからだ。
その日から私の事を姐さんと呼び、子犬のようにどこへでもついてくる。まぁ、悪い奴では無いんだが、こいつはオカルト好きで色々な所から変な噂を仕入れると、逐一私の所へ報告してくる。
「今度は何だよ?またオカルト関係か?」
「そうですそうです!これを見てくださいよ!」
差し出してきた富雄の携帯を受け取り画面を見ると、どうやら動画のようだ。再生ボタンを押し、動画が始まると、カップルが公園で遊んでいる所が淡々と流れていく。
「ただのカップル動画じゃないか?」
「とにかく見ていてくださいよ!」
面倒臭いと思いつつ動画を見続けていくと、突然画面に映っていた彼女がピタリと止まり、次の瞬間高い所から落ちてきたかのように地面に激突していた。
何が起きたのか理解出来なかったが、撮っていた彼氏さんの悲鳴だけは鮮明に聞こえていた。
「これ・・・どうなってんだ?」
「ね?ね!不可思議でしょ!普通に歩いていたはずなのに、突然立ち止まったかと思いきや、突然空から落ちてきたかのように地面に落下していたなんて!」
「いや・・・これは違うだろ・・・そう、編集?か何かで加工してるんだろ?」
「それが違うんだ。僕が調べたところ、この彼女さんは亡くなっていた。つまりこれは本当の出来事なんだ!」
ウキウキと話す富雄。そんなこいつを一発殴ってやりたかった。人の死をネタに話すなんて頭がどうにかしてる。
けど、今見た現象に理解が追い付かない。これが事実だとして、一体どうやって?これじゃあ、そう・・・まるで超能力だ。
頭を抱えながら今見た動画の内容に混乱していると、学校のチャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってきた。
「はーい、席について!」
「あ、もうそんな時間か。」
「ん・・・あ、ああ。ほら、携帯返すよ。」
「・・・あの、見せた僕が言うのも何ですけど、大丈夫ですか?」
「・・・ああ、大丈夫だ。さっさと席に座れ、怒られんぞ?」
それから下校時間まで、朝に見た動画の事で頭が一杯だった。何とか忘れようとしたが、どうにも気になってしまい、ずっと頭の中であの動画内に映っていた女性の一部始終がリピートしている。
あれは何だったのか?どうして突然あんな事が?というか、どうしてあの女性がああなってしまったのか?考えても仕方が無いが、積み重なる疑問の前では答えが欲しいと思ってしまう。
靴を履き替え、学校から外に出ると、正門前にいる黒髪の大和撫子という文字が擬人化した女性が私に手を振っているのを目にする。
「夏輝ちゃーん!一緒に帰りましょう!」
「秋穂先輩・・・いや、結構です。」
秋穂先輩・・・この人も悪い人では無いんだが、関わると面倒な人だ。先輩の横を通り過ぎ、急ぎ足で道を歩いて行くが、すぐに先輩は私の真横まで迫ってくる。
「一緒に帰ってくれるんだね!じゃあついでにこれも見てくれない?今日のはよく描けたんだ!」
そう言って、隠し持っていた部活勧誘の紙を見せびらかしてきた。横目で確認すると、二人の人間と思しき人物が肩を組んで「愛を育もう!」という台詞。そして集中線で強調された空手部と書かれてある文字がデカデカと書いてある。
絵から先輩の方へ視線を移すと、キラキラとした目で私の反応を待ちわびているようだった。
「・・・先輩、空手部って今何人いるんでしたっけ?」
「えーと、50人以上はいるかな?」
「劇団やれる人員ですね。そんなに部員がいるなら十分では?」
「駄目駄目!女子は私しかいないんだからもう一人欲しいの!それに今の部員の人達じゃ練習相手にならなくて・・・この前なんか、私一人と部員全員で組手をやったんだけど、5分もしない内に終わっちゃったよ・・・。」
「化け物か・・・。」
「だから夏輝ちゃんに是非入ってほしいの!勧誘会の時に私を倒したあなたに!」
あー、思い出す・・・部活活動を見に来た新入生を容赦無く殴り倒し、私が見に来た時には屍の山が出来ていた。山の上で堂々と座っている先輩の鋭い目が私の目と合うや否や、飛び蹴りを見舞ってきた。
そこからの記憶はあまり憶えていないが、気付くとボロボロになった先輩が床に倒れており、私の拳には自分のか先輩のか判別出来ない血がこびり付いていたのを憶えている。
そこから何故か先輩に気に入られ、毎日のようにこうして勧誘を迫られては断る日々を送っている。さて、今日はどう逃げようか・・・。
すると、ポケットに入れていた携帯から着信音が鳴り、開くと画面には一件のメールが届いていた。
冬美からだ。
『会いたい。』
ただ一言、そう書かれてあった。更に続けてもう一件届く。
『すぐに会いに来て。』
今度は画像も送られてきており、画像ファイルを読み込むと、そこには冬美と思わしき手首と、その横にカミソリが写っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます