深夜の推理時間

冬美からのメールによって夜行バスで東京に向かっていた。荷物は携帯と財布だけ持ち込み、服装は黒のライダースジャケットに黒のパンツ。この服装なら少なくとも田舎者には見えない・・・はず。

メールを貰って家に着くなり両親に東京に行ってくると言うと、当然反発されたが、冬美からこっちに遊びに来いというメールを貰った事を言うや否や、快く送り出してくれた。


「珍しく小遣いなんかも渡しちゃってさ・・・。」


恐らくこのお金は東京のお土産を買ってこいという事だろうが、私に渡したのが運の尽きだ。このお金は私の好きに使わせてもらう。


「それにしても・・・なるほどな。」


夜行バス・・・噂には聞いていたが、予想以上の地獄だ。別に他の客がうるさいとか運転手の運転が荒い訳では無い。

ただ、とにかく長い。バスに乗ってから20分程しか経っていないが、体感では1時間くらいだと感じた。何か暇を潰せる物を持ってくればと後悔している。


「・・・そうだ。」


暇つぶし・・・とは違うが、朝に富雄から見せてもらったあの動画について考えよう。眠気も無いし、東京に着くまで時間はたっぷりある。携帯に繋げたイヤホンを付け、座席にあった誰かの忘れたペンを借りて、財布の中にある数枚のレシートの裏をメモ代わりに考察を始めた。

動画を再生し、まずはカップルの動向について観察してみた。公園で遊んでいる撮影者の彼氏と動画に映る彼女。彼女は二、三度振り返りながら他愛もない会話をし、前へ前へと進んでいる。

ここまでは特に目に留まるようなものは無い。そして、動画は問題の場面へと迎えた。

突然動画に映る彼女の体が静止し、空から落下したかのように地面に激突。やはり何度見ても突拍子も無い不可思議な出来事だ。撮影者が変わり果てた彼女の方へと駆け寄り、そこで動画が終わった。


「・・・あれ?」


動画を少し巻き戻し、撮影者が彼女の方へと駆け寄る場面をもう一度再生する。


「なんで・・・首に痣が・・・?」


動画の始めには首に痣など無かった彼女の首には、ロープで絞められたような痣が出来ている。そう、まるで首吊り自殺をした後のような。

これに気づくまで、私はてっきり体を強く打った所為で亡くなったものだと思っていたのだが、実際は違う死因だったのか?

今度はもう少し巻き戻し、あのおかしな現象が起きる場面で再生した。再生時間をスローに設定し、連続で撮った写真のようにゆっくりと、そしてハッキリと場面は移り変わっていく。

すると、ここでも新たに発見した事を目にした。静止していた彼女の体は一瞬吹き飛ばされた体勢になったかと思いきや、今度は頭から垂直に地面に落ちていき、地面に頭が激突する瞬間、彼女の体が一瞬中に浮き、最後は地面に倒れていた。


「どうなってんだ・・・。」


私は今見た彼女の変わりゆく体勢を順にレシート裏に書いていった。


棒立ち→吹き飛ぶ→落下→宙に浮く→倒れる。


書いてみてますます頭が混乱した。


「えーと・・・駄目だ、全く分からない・・・。」


新しい手掛かりを発見出来ても、それは更にこの不可解な現象の謎を深めただけだ。ドラマに出てくる名探偵ならここで「分かったぞ!この事件の謎が!」と言えるだろう。

だが私は名探偵では無い。頭の上に電球を乗せて明かりを灯せば何か閃くだろうか?・・・いや、無理だな。


「ふぅ・・・何かヒントでもあればな。」


考えすぎてパンク寸前の頭を休ませるためにも外の景色を見ようと窓に顔を向けると、真夜中の街の中に窓から明かりが見える建物がポツポツとあり、まるで地上の星空のように見えた。

ボーッと外の景色を眺めていると、とある看板が目に留まった。それは照明に照らされている自殺防止の看板。その看板を見た瞬間、胸の奥から流れてくる刺激が全身に流れ、細めていた目がハッと開いた。


(自殺・・・まさか!)


自殺防止の看板・動画内の彼女の首に出来た痣。それらをふまえて動画内に映っていた彼女の変化をメモした文字の下に新たに文字を書いた。


棒立ち→飛び込み自殺吹 き 飛 ぶ投身自殺落下→首吊り自殺宙 に 浮 く→倒れる。


今の今まで、何の関連性も無い事だと思っていたこれらはどれも自殺、あるいは死に関する出来事が断片的に移り変わっていたんだ!


「死の断片・・・。」


頭の中に埋め尽くされていた謎が少しだけ消えたような気がした。だが、これに気付けたとしても、決してこの動画の不可思議な現象を完全に解いた訳ではない。

謎はまだ謎のままだ。


「ここからは本格的にオカルトだ。今度富雄の奴に聞いてみるか。」


動画を閉じ、携帯に表示されている時刻を見ると、既に朝の5時になろうとしていた。外の世界では朝日が昇ろうとしている。

5時間も真面目に推理をしていた自分に驚いた。そして5時間も無い頭をフル回転させた所為で、急激に眠気が襲ってきた。


「ふわぁ・・・あー、いい夢・・・いや、悪い夢が見れそうだ。」


窓のカーテンを閉め、眠気に身を任せて私は眠りに落ちていった。

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