何も分からない自分
それから中学に上がった時、少し・・・いや大分グレてしまった時期。あの頃は何となく周りの全部にイライラしていて、周りがグループを作っている中、私は一人で過ごしていた。
髪は金髪に染めて、文句を言ってくる奴は男だろうが年上だろうが問答無用で殴り飛ばしていた。
そんな風に過ごしていれば、気に喰わないと思う奴も出てくるわけで、よく屋上に呼ばれて複数人に襲われるようになった。腕っぷしには自信があったけど、毎日のように来る襲撃で怪我は増え、遂には動けずにそのまま夕方まで屋上で倒れたまま。
すると、おでこにヒンヤリとした感覚を感じ、閉じていた目をゆっくりと開くと、冬美が缶ジュースを私のおでこに当てながら見下ろしていた。
「・・・冷たくて痛ぇ。」
「いつまでこんな馬鹿やってんのよ。その内死ぬよ?」
「これでも私は真面目に生きてるよ。馬鹿やってんのは私に喧嘩を売ってくる馬鹿共の方さ。」
「どっちも馬鹿よ。」
「んで?そんな馬鹿に何の御用だ。優等生さんよ。」
「・・・私、卒業したら東京の高校に行くわ。」
「・・・そっか。」
「それだけ?」
「なんだよ。行かないで!とでも言って欲しいのか?」
「・・・もういいわ。さようなら、お馬鹿さん。」
その後、冬美が旅立つ日、私も見送りに駅に来たが、冬美の周囲には沢山の同級生が集まっており、とても私のような者が割り込んでいい雰囲気では無さそうだった。
諦めて帰ろうとした時、外から見ていた私と恵美の目が合い、冬美が周囲の同級生から離れ、私の方へと走ってきた。
「来て!」
「え?うぉ!?」
強引に手を引っ張られ、駅とは反対方向へと連れてかれていく。後ろから東京行きの電車が到着した音が聴こえてきても、私の手を引っ張る冬美は後ろを振り返る事は無かった。
「おい!電車来てんぞ!いいのかよ!?」
「いいから黙ってついてきて!」
言われるがままつれて行かれると、海につれてこられた。すると、冬美は靴と靴下を脱ぎ捨て、スカートを膝まで持ち上げながら海の中へと足を踏み入れていく。
「おい!どういうつもりだよ!東京に行くんじゃないのかよ!」
そう怒鳴ると、冬美が振り返りながら怒鳴り返してきた。
「そんなに私と離れたいの!?」
その言葉の意味が分からず困惑していると、冬美の目から涙が流れてくる。流れてくる涙を拭いながらも、その場に崩れるように膝をつき、静かに声を漏らしながら泣いていた。
そんな冬美の姿を見て、どうしたらいいのか分からなかった。どうして彼女は泣いているのか?どうして私を連れて来たのか?
そんな事で頭が一杯だったが、そんな事を考えていてもしょうがなく、私は泣いている冬美の元へと近づいていき、抱きしめた。
最初は肩や背中を叩かれていたが、抱きしめ続けていると、冬美の手が私の背中を下から上に撫でていき、ガッチリとしがみついてくる。
「なんでお前が泣いているのか私には分からない。けど、私はお前と離れ離れになるのは・・・寂しいよ。けど、お前が決めた事だろ?だったらさ―――」
「私が決めた事じゃない・・・。」
「え?」
「ママが再婚するの・・・それで東京に行くの・・・。」
「おばさん、再婚するんだ・・・よ、良かったじゃないか!新しいお父さんが出来て!」
その言葉が冬美の逆鱗に触れ、強く胸を押され、そのまま地面に押し倒されてしまう。
バシャンという水しぶきの音が鳴り響き、そのすぐ後に冬美が私の頬を殴りつけてきた。
「良い訳ないじゃない!!!私は東京になんて行きたくないのよ!!!」
そう言いながら、何度も何度も私を殴ってくる。非力な恵美のパンチは全然痛くなかった。だけど、私の心はとても痛かった。
「私は!・・・私は・・・夏輝と離れたくないの!」
握り締めていた拳を下ろし、私の胸に顔をうずめてくる。彼女の胸の内を聞き、ようやく彼女があの時、屋上で私に尋ねて来た意味を理解した。
しかし遅すぎた。その所為で、今の今まで冬美の事を追い込んでしまったんだ。
「ごめん、冬美。今の今まで気づかなくて・・・。」
「ほんと馬鹿・・・馬鹿なのよ、あなたは・・・。」
馬鹿でどうしようもない私には、静かに泣いている冬美を黙って抱きしめる事しか出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます