第205話 決戦前の結婚。
――カイルside――
夕方、リディアを連れてやってきたダンノージュ侯爵家。
祖父の執務室に入ると、机の上は整理されており、一枚の魔法の紙だけが置かれている。
神殿契約の中でも特に強い契約を交わす為の物――婚姻届けだ。
一度契約を交わすと、解除にはとても時間の掛かるものでもあり、また管理するのは教会となる。
「それでは二人とも、本当に良いのだな?」
「ええ」
「はい」
「では、互いの名を刻むがいい」
祖父の言葉に、婚姻届けに名を刻むと、二人の名を刻んだ後――紙は青く光ってから名を消せぬように魔法がかけられた。
後は国王陛下によって、受理されれば夫婦となる。
その足で、足早にナカース王国の城へと到着した俺達は、謁見の間にて国王陛下と対面すると、祖父の持ってきた婚姻届けを見て、陛下は直ぐに受理してくれた。
「ダンノージュ侯爵家のカイルの妻とみなし、リディア・ダンノージュと今後は名乗るように」
「はい」
「二人が死を別つまで、永遠の愛が約束されたことを受理しよう」
「「有難うございます」」
「はっはっは!! 徹底したやり方だな、アラーシュ。これぞダンノージュ侯爵家の呪いか?」
「そうとも言えますし、そうでないとも言える。二人の覚悟は確かなモノだった」
「そうかそうか。しかし実に惜しい物だ。息子の花嫁に欲しい程の逸材をダンノージュ侯爵家に取られてしまった。いや、流石はダンノージュ侯爵家と言うべきか?」
「そうとも言えいますな。ダンノージュ侯爵家に生まれた者は、妻や夫にすると決めた者は絶対に逃がしませんからな」
「アラーシュの時もそうであったな。メルディは王都にお住まいのようだが?」
「あの、祖母はまだご存命なんでしょうか?」
「アラーシュ、流石に孫にくらいは合わせてやってはどうだ?」
「王都に皆が来る時が楽しみだとメルディが言っていたのでな」
「では、王都に入った暁には、現女主人であるメルディ様にお会いできるのですね。どのような御方なのでしょうか?」
そうリディアが問いかけると、アラーシュは暫く考え込んだ後、小さく「薬師だ」と呟いた。
どうやら祖母は薬師らしい。
すると、陛下は笑いながら手を叩き、俺達に話してくれた。
何でも祖母は、とっても研究熱心な薬師らしく、薬師の作る薬の最前線を行っている一人らしい。とても多忙な方らしいが、王都の屋敷に引き籠っているのだとか。
そして祖父は毎日王都の屋敷に通いながらダンノージュ侯爵領で仕事をしているらしい。
「毒は薬にもなると言って、妊娠中に毒薬を触ろうとしたりと色々大変だったそうだよ」
「ああ、懐かしい記憶だな……あの時ほど寿命の縮んだことは無かった」
「何となくお爺様の気持ちわかります。リディアも妊娠していても新しい商品開発になると没頭しそうで……」
「まぁ、その時は余り無理をするつもりはありませんわ!」
「是非そうして欲しい所だな」
「信用してませんのね!」
「信用したいが今までの結果があるからな」
「それは……そうですわね。つい商売になると考えると思わず」
「ダンノージュ侯爵家は優れた女性を妻に迎える。これはダンノージュ侯爵家の通過儀礼なんだろうな」
そう言って、最後はお祝いの言葉を再度伝えられ――リディアは俺の元に嫁いだ。
リディア・マルシャンであった自分を捨て、リディア・ダンノージュになったのだ。
リディアは「これで満足して戦えますわ!」と喜んでいたし、祖父もまた「これで我が家は安泰となったな」と嬉しそうにしている。
「全てが終わったらダンノージュ侯爵家で家族だけのパーティをしようと思っている。それとリディア、君の言っていた孤児たちだが、好きなだけ養子としなさい」
「有難うございますわ。才能あふれた子供達が多いのです」
「うむ、期待しているぞ」
「はい」
その言葉を最後に俺とリディアは箱庭に戻ると、既に子供やお年寄り達はいなくなり、報告を纏めている所だった。
すると、俺とリディアに気が付いたライトは手を振りながら「お帰りなさいませ!」と叫ぶと同時に――。
「ご結婚おめでとうございます! これからは、本当にリディア姉さんは実の義姉になったのですね!」
「ありがとうライト、ええ、わたくしは今日でリディア・ダンノージュになったわ」
「おめでとうリディアちゃん!」
「何だと? カイル結婚してきたのか!?」
「ああ、明日に向けてガッツリと相手を叩き込む為にも、リディアと結婚しておきたくてな」
「それはいい、相手が誰かは分かっているが、ショックは大きい事だろう」
「だろうなぁ。取りかえしたい姉が既に既婚者であった……なんて、取りかえしようがねぇもんな」
「大きな一撃は与えられそうですわね!」
「でも、もっとロマンチックに結婚しても良かっただろうに……良かったのかい?」
「ええ、わたくし元々ロマンチックに恋愛や結婚と言うのには向かないのだと思いましたの。これ位の感じが丁度いいのですわ。と言う事でカイル、こちらを薬指に付けてくださいませ」
「ん?」
何だろうと思って左手を手に取るリディアの片方の手には、宝石が入って入るような箱があった。
リディアに誘われるがまま左手を差し出し、リディアが箱を開けると――そこには二つの指輪が並んでいたのだ。
「この日の為に作った、結婚指輪ですわ」
「「「「結婚指輪」」」」
「ええ、お互いの左の薬指に永遠の愛を誓いあうと言う意味合いの指輪ですわ。外さないでくださいましね?」
「永遠の愛を誓いあうか……是非俺の指に付けてくれ」
「勿論ですわ。一週間ほど宝石は池鏡に入れていたので加護もきっとシッカリ入ってますわよ!」
そう言うと、俺の左の薬指に、小さな宝石が入った指輪が付けられた。
宝石は透明度が高く美しい輝きを放つダイヤモンドだろうか?
そして俺もリディアの左薬指に指輪を付けると、俺とリディアの周りに光が舞い注ぎ、まるで箱庭の神様――リディが祝福してくれているかのようだった。
「綺麗な指輪だね」
「神秘的です……」
「何の加護かは分かりませんけれど、きっと箱庭の神様が祝福してくださっているのですわ。出来れば我が子にも、この箱庭が引き継がれる事を祈ってますわ」
「そうだな、この神様の住む箱庭を引き継いでほしいな」
俺も父から一子相伝の技を貰ったように、リディアと俺の子にもリディアの箱庭を受け継いでくれる子が生まれたら、それが一番だ。
そう思った瞬間、互いのダイヤが眩く光り、直ぐに光は消えたが――まるでリディから『了解!』みたいな、そんな圧を感じた。
「報告会は全て終わったよ。さ、二人は早く寝た寝た。初夜だろうけれど我慢して明日に備えておくれよ?」
「分かってますわ。初夜はお預けですわ」
「う……まぁ、明日次第だな」
「そうですわね!」
「明日は決戦ですから!」
「ガツンとやってきてくれよ、カイルとリディアちゃん!」
「ええ、ガツンとね!」
「ガツンとグサッとやられる彼が楽しみだよ」
こうしてリディアと俺はその後二人で部屋に戻り、早々に眠りにつくことになったのだが――初夜はお預けと言うのは結構辛い。
辛いが我慢だ。
明日の為に、俺達は力をためておく必要があるのだから!
とは言っても――……妻になったリディアとキスしか出来なかったのは、少し寂しく感じた結婚初日の事だった。
そして翌朝――。
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トドメを刺す為には婚約者だけでは駄目だなと思い
結婚をすると言う潔さ。
潰すのなら徹底的にと言う二人の気持ちも分かります('ω')ノ
次回からリディアちゃんたちの猛攻撃ターンに入っていくので
是非お楽しみに!
何時も☆や♡など有難うございます。
とても励みになっております(`・ω・´)ゞ
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