第204話 勝ち戦に本気を出したリディアと、明日の決戦に向けて。

――カイルside――



一言で言えば――リディア達は燃え尽きていた。

完璧なまでの商品を、フォルとリディアの二人が徹底的に作り上げ、それらをアイテムボックスに仕舞うまで、砂地の殆どがアイテムで埋まっていたと言って過言ではない。

子供達やお年寄りを含む全員が、俺が命を狙われたことも知っていてか、明日の日の曜日前日までその様子を見守っていたと言っても良いだろう。


リディア達からの、そして箱庭の皆からの応援により、二人は成し遂げたのだ。



「折り畳みマットレスが見事に200個。まずまずですわね」

「それにダウンジャケットにヒートネック、ほっかりシリーズにほっかり肌着もありますし」

「低反発高反発の枕も各種取り揃えられましたわ」

「それだけじゃないです。テントも大型から小型まで幅広く、外で使う為の温熱ヒーターも改良を重ねて三つの強さで使えますし」

「コタツも作れましたわね……」

「移動式コンロも更に増やしましたから、食事面でも大丈夫ですね。これだけ作るとMPの増え方が異常すぎて笑いさえ出てきます」

「ふふふ、ロストテクノロジー持ち故の筋肉痛はきついですけれど、それを越えれば天国でしてよ」

「はい、快適な行軍をお約束できると思います」

「あの……私も頑張りますから!! 温泉良いお湯が出るように頑張りますから!」

「ええファビー、あなたにも期待をしているわ」

「はい!」



リディアとフォル、隈が出来てるぞ隈が。

寝る時間も割きながら必死に作ったアイテムの数は相当数で、俺を含めた数人掛かりで一つ一つを間違えない様にアイテムボックスに仕舞いこんでいる。

二人は遠い目をしながら笑っているし、今日は早めに休ませた方が良いだろう。



「リディア、フォル、無理して作ってくれたことには感謝するが身体をこれ以上壊しちゃいけない。今日は今から温泉に入って直ぐに寝ろ」

「そうね……そうしましょうか」

「ええ……ボクもついつい本気になって作ってしまいました」

「何せ、敵を潰す為ですものねぇ?」

「そうですよねぇ?」

「「フフフフフフフ」」



笑い合う姿すら既にヤバいと判断した俺は、ロキシーにリディアを頼み、俺はフォルを連れて温泉に行き寝落ちしない様に見張りながら入らせ、着替えを済ませたら直ぐに休ませた。

リディアは着替えが終わった途端に眠ったらしく、俺が抱き上げて部屋に戻るとベッドでグッスリ眠って貰う為にカーテンを閉じて部屋を暗くして外に出た。


皆が手伝ってくれたおかげで、アイテムボックス20個分の品が入っているようだ。

ロキシーも呆れながら、それらにリボンをつけて剣のマークを描いた。



「これだけのアイテムを作るのに二人がどれだけ無理をしたかは、想像に難くないけれど。全く無茶をしたねぇ。あんなに疲れ切ったリディアちゃんを見たのは初めてだよ」

「温泉には毎回入っていましたけど、それでも疲れが完全には取れなかったみたいです……」

「余程悔しかったんだろうね……。元実家が絡んでいるとなれば尚更ね」

「……リディア姉ぇ」

「ファビー、そんな顔をするな。リディアは本気で勝ち取りに行くぞ」

「はい……はい!!」



リディアは負け戦だけはしない。

レンタルショップに関しては未知数だと言っていたが、先にダンノージュ侯爵領でスタートさせたレンタルショップでは、連日長蛇の列が出来る程にアイテムボックスやキーパージャグは飛ぶようにレンタルされている。

また、時間厳守と言う事もあり、時計もレンタル率が高く、冒険者で腕時計をしている奴やアイテムボックスに時計がついている=レンタルしていると言うステイタスにも成り始めた。

更に三日借りたいと言う要望にも応え、着実に冒険者に根付き始めて来ているのだ。

更に要望書と言うポストも用意し、そこで欲しいアイテムを記載して要望を出すと言う事もしている為、それ次第でアイテムは更に増えるだろう。

だが、今日の夕方には祖父にリディアを伴って会いに行かねばならず、それまでに疲れが取れてくれると良いが……と、願わずにはいられない。


そう、ついに俺達は――国王陛下にお出しする婚姻届けを出しに行くのだ。


アチラが動く前にこちらが既に動いておこうと言う算段だが、婚姻さえしてしまえば最早マルシャン公爵家が手を出そうにも、国王陛下に認められた婚姻ともなれば手を出すことは最早不可能だ。


もっと時間を掛けて婚姻を結ぶ予定だったが、アチラが早めるような行動を取った以上、さっさと身を固めるに限るのは言うまでもない。



「カイル兄ちゃん、これで俺達……いいや、ダンノージュ侯爵家は勝てるよな?」

「ロック、一つ良い事を教えてやろう」

「ん?」

「リディアは絶対に負け戦は絶対にしない。勝てる戦しか仕掛けないタイプだ」

「それなら安心だな。でも相手はリディア姉ちゃんの元実家だろう? 簡単に終わる気がしないんだ」

「だからこそ叩きのめす。その為にリディアもフォルもファビーも頑張るんだ。無論俺もだ」

「カイル兄ちゃん……」

「ご不安でしたら、私がロックの不安を取り除くために少し運動でもしますか?」

「ヒイラギ爺ちゃん、宜しくお願いします!」

「私は暗器が得意ですので、それにも慣れればカイル様とリディア様を守るのにも、敵を倒すのにも役に立ちますよ」

「はい!!」



こうして、ヒイラギに連れられロックは去って行ったが、ファビーは未だに小さな声で「大丈夫、落ち着いて、私ならやれるわ」と呟いている。

こんな時こそリディアがいてくれればいいんだが、生憎熟睡中だ。

どうやって声を掛けようかと悩んでいると――ロキシーがファビーに話しかけた。



「自分に暗示をかけるのは結構。だが背中が曲がっているよ、もっと胸を張りな」

「はいいい!!」

「ファビーの温泉はアンタ一人で作り上げたもんじゃないだろ? 後ろにいるのは誰だい?」

「――リディア姉です!」

「そう、それに手助けをしてくれたのは?」

「フォルです!」

「その二人がアンタの傍に立っているんだ。アンタの箱庭に賭けているんだ。ファビーこそ自信をもって紹介しな。自慢の箱庭で誰も持っていない優れたものだってね!」

「はい!!! 私の箱庭はリディア姉のお陰で出来上がった理想郷です!」

「それでいい、その気持ちを忘れるんじゃないよ!」

「はい! ロキシーお姉様!」



いつの間にかロキシーはお姉様ポジションに立ったらしい。

まぁ、男女ともに憧れる存在ではあるし、紅蓮の華の最も有名だったSランク冒険者がロキシーだったのも今なら頷ける。

ライト……お前の目は確かだったよ。



「さて、リディア達が起きてくるまでに時間はある。子供達は広くなった砂場で沢山遊びつつ、他の面子はやるべきことに行ってくれ。俺とリディアは夕方出かけるから夕飯を残しておいてくれると助かる。ロキシーにはレインたちが来たら業務連絡を纏めておいてくれるか?」

「あいよ、ついでに売り上げが伸びてきてる【夢の園・サルビア】の売り上げも見させて貰っておくよ」



【夢の園・サルビア】は甘いお菓子を売っているパティシエの皆が頑張っている店だ。

冒険者の特に女性の間では人気が高く、冒険に行く前に買って、冒険から帰ってきたらもう一度買ってと楽しんでいるようだ。


また、牛丼屋に関してはジューダスの所で二人、研修生に教えるべく人を貸して貰えることになっている。

丼ぶりや必要な物も揃っている為、後は食器を持って行ってリディアに食器乾燥機を作って貰ったり、店内に必要な物を用意すれば、研修生とジューダスから借りれる二人とで牛丼等の研修が始まる予定だ。


それと、既に王太子には連絡をし、銀貨20枚で木を売りに出す事や、長時間火が燃える炭をリディアが用意している事も告げると、ホッとした様子で感謝の言葉を伝えてくれた。

だが、それもこれも――決戦が終わってからとなっている為、明日は気合が入る。



「よし! 俺は今のうちに温泉でリラックスして夕方に挑む。皆も各々頑張ってくれ」

「「「「分かりました!!」」」」

「明日の決戦が過ぎれば、皆に報告したい事がある! その時まで俺達を応援してくれ!」

「応援してるよ~? バシッとドカッと叩きのめしておいで!」

「暗殺者を雇ってまでご苦労なこったなぁ」

「それが切っ掛けでボコボコにやられるってわからないもんかねぇ」

「分からないからやってるんだろ」

「カイル兄ちゃん達なら大丈夫だよね!」

「応援してるからがんばってきてね!」

「どんな報告があるのか楽しみなのー!」



そんな声援を受けながら温泉にゆっくりと入って緊張を解し、夕方になりかけた頃リディアを起してダンノージュ侯爵家へと向かった。

そこでサインをしてからナカース王に会いに行くわけだが、さてさて、どうなるやら……胃が痛むのは、許して欲しい所だな。




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本日二回目の更新です。

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