第203話 カイルの襲撃後の動きと、リディア達の勢い。

――カイルside――


日の曜日までの間、祖父が用意した男女の護衛を連れての行動となったが、二人ともダンノージュ侯爵家の持つ影らしく、暗器の扱いに長け、武術もSランク冒険者には叶わないにしてもかなりの手練れらしい。


男性の少々年配の護衛の名前はヒイラギ。

東の大陸の出身らしいと言う話だけは聞いた。

寡黙ながらも穏やかなオジサマと言う感じだ。


もう一人の女性はリディアと年のあまり変わらないヒイラギの娘で、アカツキと言うらしい。

天真爛漫な雰囲気を感じる彼女だが、影の中でもトップクラスの実力を持つらしい。

二人とも真っ黒な髪に漆黒の瞳をしていて親子であることが分かりやすいが、アカツキからの情報だと、ヒイラギは大恋愛の末の結婚だったのだとか。

故に、今回俺が狙われた事に関して思う事もあるらしく、真っ先に名乗り出てくれたらしい。



「すまないなヒイラギとアカツキ、予定は一応終わったんだがダンノージュ侯爵家としての用事が王太子領で残っているんだ。ついてきてくれるか?」

「「畏まりました」」

「王太子から急な呼び出しがあってな、案を出せと言われても困るが……一応話を聞こうとは思ってる」

「人こそ財産である……と言うお話を耳に致しました。リディア様は素晴らしい奥方様になられる事でしょう」

「はい! 私もそう思います!」

「ああ、そのリディアに恥じぬ行動をしないといけないな」



そう言うと三人箱庭経由で王太子領の城前まで出ると、そのまま城へと向かった。

俺は顔パスだったが二人が騎士に止められた為、俺の護衛であることを告げると直ぐに通して貰えた。

謁見の間に入るや否や、ナジュ王太子とカリヌさんが駆け寄ってきた。



「大丈夫かカイル! 命を狙われたと聞いたぞ!! 怪我は!?」

「幸いリディアの作った【身代わりの華】が発動して怪我一つありません。ご心配をお掛けしましたね」

「何を言う。あの知の乙女……リディアの婚約者の命が狙われたのだ。貴族の間ではかなり話題になっているぞ」

「いつの間に……」

「無事で良かった……。そっちの二人は護衛か? 俺はナジュ王太子だ、カイルは俺の友でもある。必ずや守ってくれ」

「「畏まりました」」

「それで、お話とは?」

「ああ、実は――」



そう言うと、リディアから以前貰った案や言葉をかみ砕き、王に借金を申し出て今は区画整理を進めているらしい。

そして、まずは【専業特化地区】を作り、次に二手に分かれて貴族用の職業訓練学校と、平民用の職業訓練学校を作る事にしたのだとか。

また、冒険者や冒険者ギルドにはその為に必要な素材に関する契約を交わし、学校から卒業する、もしくは商業ギルドに登録している店は、全て領の財産とする契約も交わしたのだとか。

技術の流出を抑える為だろうと言うのは理解できたが、問題は建材が足りないらしい。



「そこで、リディア嬢の箱庭には山があると聞いて、良ければ安めに仕入れることが出来ればと思っている。一日30本の木を買い取るとして、幾らくらい掛かるかも聞いて欲しいのと、専業特化地区もかなりの広さがあるから、木材は長期的に買い取るつもりだ。その分安くしてもらえると助かるが」

「一般的な木材ならばいくら位でしょうか?」

「一般的な木材だと、木材となる木一本で銀貨30枚ってところか」

「分かりました、リディアに伝えておきましょう。返事を貰い次第また伺っても?」

「助かる。兎に角木材不足が大きな要因だ」

「分かりました」

「後はこれから寒い時期になるから民が寒さに凍えない為に、薪の代わりになるようなものを売っているかどうかを教えて欲しい。民には金銭的余裕もない為、竈の火になりそうなものや、炭のようなものがあると助かる」

「分かりました、炭ですね」

「そちらも出来るだけ金は出したいが……すまんな、王太子なのに借金生活なもので」

「まぁ、この領を貰う時点で、赤字覚悟で挑まないといけないでしょうから、俺もそれなりに勉強させて頂きますよ。炭は大量にあるはずですから、何とかなるでしょう」

「悪いなカイル、助かる」

「困ったときはお互い様ですし、やっとナジュ王太子殿下がやる気を出しているのに水を差したくはありませんからね」



そう言って苦笑いすると、ナジュ王太子殿下は照れ臭そうに笑い、カリヌさんも少し嬉しそうに微笑んでいる。



「この借りは必ず返すからな! 期待しててくれ!」

「ええ、この貸しは大きいですからシッカリ返してくださいね」

「おう! それと今度の日の曜日は俺も王太子として参加することになってるんだ。楽しみにしてるぜ」

「ええ、その事は余り公に言ってほしくないですが、その時は是非楽しんで頂きますよ」



こうして、ナジュ王太子との急な会談も終わる頃には外は夕焼けに染まっており、その足で急ぎ箱庭に戻ると、まずはパティシエの皆が店に出せるだけの料理を作れるようになったという事で、彼らには明日から店に出て貰う事になった。

こんな平和な会話がなされているその後ろでは――。



「一カ月の行軍で交互に睡眠をとるなら、是非温泉の畳の上に折り畳み式のマットレスを敷いて、寝れるようにすると随分違うと思うんです!」

「折り畳みマットレスをわたくしが100セット、フォルが100セット作れまして?」

「是が非でも作ります」

「奇遇ね、わたくしもよ。ついでにホッカリシリーズもまとめて200セット用意して貰いましょう」

「私がそこは後で兄に伝えてきます。ホッカリシリーズ200セットですね」

「この際枕は高反発と低反発両方を作って、好きな方で寝て貰いましょうか」

「そうね、羽毛枕だけが最高級品じゃない事をガッツリ伝えましょう」

「リディア姉! 私思うんですが、中々起きない人用の目覚ましって作れますか?」

「作れましてよ。タダ同然の値段でお貸しできるようにしましょうね! わたくし達が目指すのは快適な行軍生活! 雪の降りしきる外でも暖かに過ごせるダウンジャケットはとっても大事ですわ!! ホッカリシリーズのネックウォーマーも必要ですわね!」

「リディア姉、温泉を確認してきましたところ、飲料水としても飲めるようです!」

「水の確保は出来ましたわね!」

「水と言うよりお湯ですけど」



と、リディアと弟子二人、それにライトも加わって盛り上がっていた。

余程俺が狙われたことが頭に来ているらしく、あらゆる見た事も無いようなアイテムもズラリと並んでいて、少し遠い目になったのは仕方ない。

――本気で潰すと言った言葉に間違いは無かった、ただそれだけだ。



「リディア、一旦休憩したらどうだ?」

「あら、お帰りなさいカイル。それにヒイラギさんとアカツキさんも」

「「ただいま戻りました」」

「白熱してたな。報告だが、王太子から木を長期的に売って欲しいと言う依頼と、貧困層への炭を売って欲しいと言う依頼だ。木材は一つ銀貨30かららしいが安くして欲しいと言う要望と、長時間燃えるような炭って作れるのか?」

「木は銀貨20枚でどうかしら? 明日お話するのでしたらしてきてくださる? 炭に関しては長時間燃える炭でしたら、大元になる炭があれば作れますわ。行軍に向けてそれも作ろうと思ってましたし、貧困層ならば安くお出ししますわ」

「そ、そうか。後は明日からパティシエ達は店に出させるのもいいな?」

「ええ、シッカリと研修して頂けましたので、料理は箱庭で作りつつも、お菓子を売る事になりそうですわね」

「そうだな、パティシエ達には一日ずつ交代しながらお菓子を作って貰うでもいいか?」

「ええ、構いませんわ」

「それで話を進めよう。取り敢えずご飯にしようぜ。そろそろレインたちも来るからさ」

「分かりましたわ。ではフォル、明日からの予定は決まりましたわね?」

「お任せください」



と、これで今日の話し合いと大量のアイテム作りは終わりを告げたようだが――。

本当に日の曜日、戦争になるんじゃないかとしか思えない数々に、俺は遠い目をしようとしたその時。



「兄さん」

「どうしたライト」

「明日の朝一番に、ほっかりシリーズ合計200セット貰ってきてください」

「……はい」



ライトも、一度火がつくとアレだよな。

叩き潰すまでは辞めないよな。

血の気の多い奴らを見てると冷静になるって言うが、本当だなと改めて感じた数日後の、日の曜日の前日――。





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