第206話 リディア、本気で叩きのめしに向かう。(上)
朝から気合を入れた服装に身を包み、わたくしとカイル、そしてフォルにファビーの計4人は、箱庭からダンノージュ侯爵家に入り、持ってきたアイテムボックスの多さにアラーシュ様は何度か頷かれ、共にナカース国王の待つ城へと向かいましたわ。
ファビーとフォルはドキドキした様子でしたが、胸をはり真っ直ぐと歩いています。
己のして来たことに自信を持っているのでしょう。
わたくしたちはこの日の為に頑張ってきましたわ。
そして朝9時、謁見の間に入ろうとした時――ナスタが現れましたの。
「おや? ダンノージュ侯爵家のアラーシュ様ではありませんか」
「……久しいな、マルシャン公爵」
「それに、お久しぶりですね姉上」
「……」
「ずっとずっとお会いしたかったです。今日はどの様な要件で?」
そうわたくしに近寄りながら話をした瞬間、謁見の間の扉が開き、わたくしはナスタを無視したまま中に入りましたわ。
そして陛下の前で両者が敬意を示す仕草をすると、ナカース王は「面を上げよ」と仰られました。
周囲をちらりと見ると、軍部大臣であろう方々や、騎士団長の様な方々、魔物討伐隊であろう方々もいらっしゃるようす。
私は小さく深呼吸すると、心の中で『勝ち取りますわよ』と呟いた。
「この度、マルシャン公爵家から買い取っているテントとは別の品を、ダンノージュ侯爵家より提案されてな。軍部大臣及び騎士団長、そして魔物討伐隊騎士団長にも参加して貰っている。使う者が選んでこそだからな」
「「「はい」」」
「防衛費は年々、特に現マルシャン公爵になってから値段が上がっているのは、材料費が取れなくなったからだと連絡が来ている。今も変わらずか?」
「お恥ずかしながら。ですが品物は使って頂いている通り素晴らしい物かと思います」
「うむ、だが、ダンノージュ侯爵家のテントと言う物にも興味がある。どうだろうか、リディア・ダンノージュよ」
「色々な品を持ってきておりますので、是非ご提案させてくださいませ」
ナカース王が先にわたくしの名を呼んだ時、ナスタが息を呑んだ音が聞こえましたわ。
今からマルシャン家を地獄に叩き落とすから見てらっしゃい!
そう思いながらわたくしとフォルが目を合わせて頷きあうと、フォルは机を取り出し、そこに別の商品を並べている間に説明をすることにしましたの。
「では、まずはこちらの一人用テントをご覧くださいませ。その間にカイルには大型テントを此処で張らせて頂きます」
「うむ」
そう言うとアイテムボックスから取り出したワンタッチの一人用テントを出すと、本当にワンタッチで瞬時にテントになった事で周囲からはどよめきが上がりましたわ。
「こちらは一人用のテントとなっております。冒険者に貸し出す予定の物ですわ。我がサルビアでは、レンタルショップと言って、アイテムを貸し出す業務も行っております。こちらのテントも同様ですわ」
「貸し出しか、確かに必要な時だけ借りれると言うのは大きい。だが値段もそれなりにするのではないのか?」
「値段は現在のテントの半分以下と思って頂ければ幸いですわ」
「「「「「おおお」」」」」
私の言葉にナスタは言葉もなく驚いているようでしたけれど、「是非近くで触ってみて下さいませ」と言うと、どの隊長たちも近くに来て軽くて便利なテントに夢中のようですわね。
「ダンノージュ侯爵家のテントは汚れや水を弾き、風も通しません。無論風を通したい際の小窓もついたテントになっております。カイルが現在組み上げた物は大型テントとなっており、中には空気ベッドと呼ばれる、空気が中に入ったベッドも用意しております。大型テントであれば、寝ることも出来ますし、用意した軽い椅子であれば、ベッドを退かせば机を入れて5つは軽く入りますわ」
「大きいな」
「大人の力で、15分ほどで組みあがります。ただ、材質上とても軽いので、周囲の地面に杭を打つ事にはなりますが」
「それは今のテントでも同じだ」
「この大型テントも小型テントも雪には強いのかね?」
「はい、触って頂いた通り滑らかですので、雪は下に落ちるようになっております。もし雪が天井に溜まっていても、叩けば地面に落ちていくでしょう」
「素晴らしいな……。マルシャン家のテントではそうはいかない」
「ですが、唯一の弱点として、刃物などには弱いと言う点ですわ。そこだけは取り扱いにはご注意願えたらと思います。また、テントだけでは冬の行軍では不安でしょう。水の確保も難しいと聞き、わたくしの弟子が並べた商品も貸し出す事も検討中です」
そう言うと、ズラリと並んだキャンプ用品に、隊長たちは目を丸くしていたわ。
「保温保冷が24時間対応の、8リットル入るキーパージャグは、冬の行軍でも夏の行軍でも、温かいお湯や冷たい水、または温かい紅茶や冷たい紅茶を飲むことも可能です。8リットルあれば随分と持つと思います。
また、冬の行軍用に、こちらのダウンジャケットを着る事で寒さをしのげますし、肌に当てると温かくなる特別な布で作ったネックウォーマーがあれば、首や肩の冷えも抑えられるでしょう。
更に、ダンノージュ侯爵家が作っている【ほっかり肌着】を着る事で更に寒さは軽減しますわ。冒険者の間でも有名な商品で、今では王太子領とダンノージュ侯爵領の冒険者から庶民までの必需品となっておりますわ。ダウンジャケットや肌着に関しては、買い取りをお願いしますが、他の商品は貸し出しと言う事でいつでもお貸しすることが可能です。
また、寒い外にいる際に冷えては辛いでしょうから、火の魔石で動く温熱ヒーターもご用意いたしました。近くで暖かさを確かめてくださいませ」
そこまで話すと、隊長たちはテントから離れ温熱ヒーターの前につくと、「これは温かい」「是非欲しいですな」とおおむね好評のようですわね。
「リディア嬢、このオイルヒーターと言うのは?」
「はい、オイルヒーターは直ぐに温かくはなりませんが、部屋全体を温かくするための物ですわ。乾燥で喉が痛くなることもなく、温度設定を適切にしておくことで、テントの中も温かい状態に保つことも出来ますし、兵舎では冬の寒い部屋で凍えずに済むかと思い持ってきましたの」
「なるほど。後はこの足の長い机に布がついているのは」
「炬燵ですわ。孤児院にも貸しているものですが、椅子に座ったまま使え、中に入ると温かいんですの。寒さをしのぐにはとても良いものだと思いますし、最も真価を発揮するのは個室での使用などですが、牢屋番などは寒さを感じて集中できない等あるのではないでしょうか?」
「ああ、冬の牢屋番は辛いと聞いている」
「そこに一つあるだけで、凍えて身体を壊す事もなく、動く際も身体が温まっているからこそ、即座に対応できるかと思いますわ」
「なるほど……」
「此方全て……一部違うが、貸し出し……と言う事で間違いは無いだろうか?」
「ええ、此れだけの品を貸し出しても、現時点では、現在マルシャン公爵家に支払っているものの半分以下ですが、ある者を冬の行軍で雇う場合は、少しだけお高くなりなりますわ」
「ある者……とは、箱庭師だろうか?」
その言葉にわたくしが笑顔で頷くと、ファビーを呼んでわたくしの隣に立たせましたわ。
「わたくしの箱庭の一番弟子であるファビーです。彼女の箱庭はとても広く、温かい温泉宿がありますわ。説明するよりも中に入って頂いたが宜しいかと思うのですが……陛下、許可を頂けるでしょうか?」
「ワシも見たいからな、是非ついて行こう」
「ではファビー、扉を此処に繋げてくださる?」
「畏まりました!」
そう言うと、ファビーは光り輝く箱庭への門を作り、カイルが最初に入ると、次に国王陛下、アラーシュ様、そして隊長たちが続き、最後にわたくし達三人が中に入りましたわ。
どよめきの起こる中に入ると、団長たちはあたりを見渡して呆然としながらも「素晴らしい」と口にしておられます。
「此処から先は、ファビーに案内してもらいながらご説明させて頂きますが宜しくて?」
「ああ、是非此処を教えて欲しい」
「こんな広い箱庭など見たことが無い!」
「では、まずは此処についてのご説明からさせて頂きますわね」
そう言うと、わたくしはファビーの箱庭について説明を始めましたの。
このファビーの箱庭こそが、最も売り込みたい場所の一つ。
絶対に、ナスタなどには負けません事よ!!!
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本日も三回更新です。
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