第164話 新たに雇う人材説明と、ダンノージュ侯爵領の酒場への提案。

――カイルside――


「子育て世代の主婦か、年配の子育てが終わった主婦を雇う……ですか?」

「ああ、色々考えたんだが、子供達も増えたし今後託児所の事もある。食事関係で保護している女性達では足りなくなると思うんだ」



食事が終わり、皆からの業務連絡が終わると、俺はリディアにこの【料理担当者の負担軽減】の為の案を出した。

リディアは暫く考え込んでいたようだが、暫くすると口を開いてくれた。



「そうですわね、食べ盛りのお子様たちの事を考えると……でも幼い子供持つ主婦というのは、色々忙しいものですわ。確かに働いている方々もいらっしゃるでしょうけれど、うーん……そうですわね、仕事に復帰するにも子供がいると難しいと聞いたことがありますから、幼い子供は託児所に預け、食事作りに専念してもらえる方々を幅広く雇いましょう。

そうですわね、乳児を持つお母さんから、子育てがひと段落したお母様まで幅広く、大目に30人も雇えば足りるかしら」

「リディア、助かる」

「では、明日の朝商業ギルドで仕事を探している主婦の方々を雇わせて頂きましょう。料理を作るだけですからスキルは必要ありませんし、洗濯物がしたい方は料理の合間に終わらせて頂いても構いませんわ。この箱庭は洗濯ものが良く乾きますもの」

「助かるよリディア」

「給料は銀貨30枚で足りそうかしら?」

「ああ、それで足りると思うぞ。寧ろ洗濯する時間まで貰えるんだから破格の値段だろう」

「寧ろ、一般的な主婦の給料を考えると多いくらいだよ? 良いのかいリディアちゃん」

「そうですわね、まだスプーンがシッカリ使えない子の食べる時の補助をして頂くことも加えましょう」

「だったら丁度いいかもね」



確かに、衣食住、とくに食は子供にとっても大事な事だ。

食育と言うものがあるしな。

それに、スラム孤児や小さい子供にとって、スプーンの使い方を覚えるのはとても大事な事だが、とても時間が掛るものだ。特に小さい子供は甘えて食べさせてもらいたい気持ちが強くなる子供も多い。

故に、子育てが終わったお母様方を雇いたいと思ったのだろう。



「雇う基準としては、性格の悪い人材はなし。後は適当すぎる人もなしで」

「そうですわね。子供の成長に合わせてついていける方が望ましいですわ」



そうやって雇う人材について纏まったところで、明日の朝また商業ギルドに赴き、主婦層で雇える人材確保に乗り出すことになった。

明日からはついに託児所のオープンと、牛丼の材料を持って酒場で作って食べる事になるが、持ち運び用の土鍋に米を炊くと言うやり方でリディアはやると言っていたが、リディアなら大丈夫だろうと安堵する。



「明日は牛丼に関しては一人か二人主婦を借りて連れて、ジューダスのところで牛丼試食会だな」

「夕方ですわね」

「俺も行きたいでーす!」

「私も参加したいね」

「お二人は食べる側で、でしょう?」

「「まぁまぁ」」

「わたくしも、この日の為に用意した道具で作りたいものがありますから、それと、カイル? ゴーンさんの所で作るカツは、日替わりで豚と鳥とで分けようかと思いますけれど、ゴーンさんとの話し合いは予定を捻じ込んで明日の朝でしたわよね?」

「ああ、途中までは一緒に行くが……俺も忙しくてごめんな」

「なら、明日の朝はゴーンさんの所に行って、更に店の中の改造及び、カイルは調理師を雇ってきてくださいませ。店の中を見ないと分かりませんから、中を見てから人数は決めますわ。それと、切れそうな材料がありますから、早いうちにアカサギ商店さんとの連絡をお願いしますわ。メモを渡しておきますから、こちらの品を大量に買いたいとお伝えくださいませ。そうですわね、合計で金貨100枚ほど」

「100枚分……解った」

「明後日の休みの為にやるべきことはやっておきますわよ! 来週は焼肉屋のオープンなんですから! それとライトさん、商店街の空き店舗の改装はどれくらい終わってますの?」

「はい、薬局は明日出来るそうです」

「では、休みを利用して一度見に行きますわ」

「はい!」



こうなると、ますます薬師が多めに欲しくなる……。見つかればいいが薬師は見つかりにくいレアスキルだ。

せめて、明日行って二人でも良いから見つかっていると助かるんだが……。


箱庭の神様、どうか薬師が最低二人……多ければ多い程構いません。若い奴らで雇いたいのでお願いします!!



そう強く願い、その日は早めの就寝となった。

そして翌朝。明日が休みともあって皆が駆け回っていた。

今日は託児所のオープンの日だ。朝は顔を出した方が良いだろうと言う事で俺とリディアで向かうと、多くの子供達が来ているのが分かる。



「リディア様にカイル様! おはようございます!」

「おはようございますミレーヌ園長先生」

「えへへ」

「子供は多そうだな」

「ええ、現在0歳から12歳までの子供が40人来てます。時間までにまだ増えるかもしれません」

「ミレーヌさんの箱庭が広くて良かったわ」

「そう言って下さると嬉しいです!」

「体調が悪そうな子供が居たら直ぐに薬師の所に行ってきてくれよ」

「はい!」

「あと、箱庭のレベルが上がったって言ったでしょう? 温泉も二つほど増えているの。是非子供達が帰宅する頃に御風呂に入れて貰っても良いかしら」

「宜しいんですか!?」

「ええ、是非お願いしますわ」



そう、箱庭のレベルが上がり、箱庭がどう変わったかと言うと――大きな畑が二カ所追加になり、山は二つになり、採掘所は変わらなかったが、掘ったらレア素材が良く出るようになっていた。そして住宅エリアは広くなり、大きな温泉が二つも追加になった上に、今まで一つしかなかった教室は二つに増え、台所や休憩所も大きく広く増えていた。


箱庭の住民達は、皆「箱庭の神様に感謝を」と毎日祈りを欠かさない。

やはり、リディアの箱庭には神様が住んでいるんじゃないだろうか?


リディアは、箱庭に関わる人たちの幸福度でレベルが上がっているのではないかと思っていたようだが、それだけではない気がする。

特に最近の箱庭の拡張具合を見るに、何らかの力が降り注いでいるのかも知れない。



「では、これから大変ですけれど、宜しくお願いしますわね」

「畏まりました」

「皆さんにもよろしくと伝えてくれ」

「はい!」



こうして、ミレーヌと別れて俺達は材料を揃えてダンノージュ侯爵領のゴーンの酒場へと、厨房にいたマームさんを連れて向かった。

マームさんは夫の暴力に耐えきれず逃げてきた一人だが、子供はいない。

今は箱庭の台所を回している一人だ。

ゴーンは俺達の登場に泣いて喜んでいたが、台所を見せて欲しいと言うと快く見せてくれた。



「広いですわね、前は何人雇ってますの?」

「今日リディア様が来ると聞いて皆来て貰ってる。調理スキル持ちは8人だ。ウエイトレスは休ませているが10人だな」

「それだけいれば問題ありませんわね、カイル」

「ああ、足りなさそうなら商業ギルドに行くところだった」

「では、一つずつわたくしとマームさんとで教えていきますので、シッカリと覚えてくださいませ。レシピも用意してますわ」

「ありがてぇ、調理師の面子集まれ!」

「ああ、無論提携するんですから材料は全てサルビアからお出しします。売り上げの二割を頂けたら幸いですわ」

「二割で良いのか?」

「お子さんに良い教育をさせたくは無くって?」

「……恩にきます」

「じゃあ、俺は別の要件があるからあとはリディアとマームさんに任せるが、大丈夫か?」

「お任せください、箱庭の料理は全て作り腕と舌が覚えています」

「マームさんは優秀ですから、わたくしの方が心配ですわ」

「大丈夫ですよ、リディア様」



こうして、酒場ゴーンに出す材料、食事などの説明に入る事になった――。

リディアの知識が、それにマームの知識も火を噴くだろう。

ゴーンを含む調理師、死なないでくれよ。




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