第148話 新・ほっかりシリーズと屋台とお年寄りたち。

仕事が始まる朝10時。

わたくしは裁縫師の作業場へと向かうと、既に皆さん揃っていらっしゃいましたわ。



「おはようございます皆さま。足りない糸や布地の補給に来ましたわ」

「おはようございますリディア様」

「おはよーリディアちゃん」

「昨夜はごめんなさいね?」

「いえいえ、素晴らしい肉食系女子であることが分かっただけでも!」

「骨まで食べちゃうって言うのは物理的なことじゃないのよ?」

「流石にアタシたちだってホレた男の骨までは食べないわよ~」

「そうだったのですか!!」



肉食系……奥が深い。

誤解が解けた所で、欲しい糸や布地を聞きながら用意すると、やっぱり一番欲しい糸と布はほっかり系で、最近特に減ってきていたのだとか。

毛糸のパンツに関しては、お婆様方が毛糸を作って下さることになりましたわ。



「そうじゃねぇ……女性は下半身を冷やしちゃいけんなぁ」

「出産する時に、きつ―――くなるでぇ」

「そんなに違うんですか?」

「んだ」

「赤ちゃんがな、苦しがるんじゃよ。お部屋が狭い言うてな、育たんなるんよ」

「だから、女の子は下半身を冷やさんように」

「大事大事にしてやらんと、いけんのよ?」

「ダイエットのし過ぎもあかんな」

「んだ」

「女性は、程よく肉がついてるくらいが丁度ええ」

「細すぎる女の子は、鳥ガラ用の骨じゃ」

「ふとすぎる女性はアレじゃな」

「愛嬌あるな」

「でも、子供産む為にも、ある程度痩せんとな」

「んだ」


そう言いながら毛糸を作るお婆様方。

美女三人は「女の子は下半身冷やしちゃ駄目よね~?」と語り合っているので、このまま放置しておきしょう。



「あったかいの、つくっちゃるけぇ」

「あいらしかのも、ほしかねぇ」

「小さい子には、あいらしかとば作って、お姉さんくらいの年の子は、ちょっとおしゃまなやつがええな」

「んだ」

「お婆様方、宜しくお願いしますわね」

「「「「あいよ」」」」



こうして布地と糸を沢山用意してから、わたくしは屋台の元へと向かいましたわ。

まずは、【おでん】用の中身から。

おでんは出来れば鍋を幾つか用意して貰って、そこで作って貰いたい。

でも、出来れば移動中大変な事態にならないように、鍋を固定できるように窪みもつけて補強して~と作っていると、爺様達がやってきましたわ。



「鍋は全部で四つ置けるとええな」

「箱庭にあるあの、でっかい鍋じゃろ?」

「それなら4つは要るで」

「では、コンロの形を鍋を固定する溝のある大きめの四つにしましょうか。使い方は箱庭にあるコンロと同じで魔石一つで2時間持つようにして、手元でどのコンロの温度を調節するか選べれば問題なさそうですわ」

「夜の街に2時間も屋台してりゃぁ、鍋の中も追加で入れていても売り切れるさね」

「冒険者は食うからのう!」

「働き盛りの若いのも食うで!」

「そうですわね。紙皿と紙コップはお爺様とお婆様達にアイテムボックスを手渡しますから、それで何とかして頂いて、キンキンに冷えたビールとかもアイテムボックスでいいかしら?」

「ええよ? メインは【おでん】じゃからのう」

「嬢ちゃんや。ワシ等はな? また働けることが出来るのが嬉しいんじゃよ」

「いらない者扱いされて姥捨て山に捨てられてな」

「あんときゃ~悔しかった! まだ働けるのになしじゃ!? って何度も悔し涙で濡らしたもんじゃ」

「その仕事を貰えるんじゃ。わしゃ死ぬまで働くぞ」

「給料が出たら、ワシは欲しいもんがある」

「わしもじゃ」

「何が欲しいんですの?」

「俺達を捨てた息子夫婦を、牢屋から出すための金じゃ!」

「ワシ等は幸せを掴んだからのう。金は出して助けてやるが、後はお前たちでなんとかせえ言うてやるんじゃ!」

「お爺様方……本当にお優しいのね」

「爺の情けじゃ」

「好きでワシ等を捨てたわけじゃねぇ。生き辛いこの世の中が悪いんじゃ」

「それに、孫も大事じゃからのう。もし助けて『孫を育てきれん』言うなら、連れて来てもええかのう?」

「ええですよ~?」



そう言って微笑むと、お爺様たちは嬉しそうに笑われましたわ。



「ここん子らは、王太子領になったあっちの世界より、充実しとる」

「手に職も持てるしのう」

「栄養のある飯も大事じゃて」

「じゃが、ギスギスした家で育つより、一人寂しい家で待ちながら過ごすより、此処で生活したほうが、うんとええ」

「小さい孫は可哀そうじゃが、食わせていけんのなら孤児院入れられるだけじゃ」

「ワシ等が養うんじゃ、死ぬまで働いて、ワシらが養っていくんじゃ」

「ご立派な考えですわ」

「嬢ちゃんが優しいからこそ、ワシ等も甘えとるんじゃ」

「孫がきたら、よろしく頼むなぁ」

「ええ、ビシバシと手に職をつけるべく頑張って貰って、お勉強も頑張って貰いますわ!」

「「「「ははははははは!!」」」」



そう言って笑う爺様達に気を取られていて、お婆様達も集まっていることに気がつきませんでしたの。

お婆様達も同じように、働いて、自分を捨てた子供を救い、孫を引き取りたいのだそう。

お爺様たちと同じ考えで、死ぬまで働いて稼いで、孫を育てたいのだと仰いましたわ。



「此処では、助け合うのが当たり前で、気にかけてあげられる人が多いからねぇ」

「寒い家で一人で過ごすより、あたたかい人達に囲まれたほうが幸せじゃ」

「うちの孫は、もう直ぐ成人する年頃じゃが、連れて来て大丈夫かのう?」

「手に職をつける為に来るお子さんが居ても宜しいではありませんの。無論受け入れますわ」

「ありがとねぇリディアちゃん」

「ありがとねぇ」



そんな会話をしながら、【おでん】【串カツ】【蒸篭と保温機】を作り終わると、お年を召した皆さんが拍手喝采で喜んでいらっしゃいましたわ。

後は試し運転ですわね。



「今日のお昼は試し運転して貰っても宜しいかしら?」

「コンロの使い方は此処と一緒じゃろ?」

「セイロ……言うんだったかねぇ。この蒸し器は」

「お湯入れて蒸す奴やんなぁ」

「ワシ等も昨日使ったから使い方はわかるなぁ」

「蒸しあがったら、保温機に入れて次を蒸していけばええな」

「次々蒸して売りまくろうかねぇ」

「火傷だけは注意してくださいませね? 皆さんのアイテムボックスには、もし怪我をした場合を考えてポーションは入れて起きますからね?」

「ありがとねぇ」



こうして、昼は皆さん試し運転をして貰い、問題が無ければ明日からでも屋台が出来ますわね。

試行錯誤しながら進んで行けば良いのです。

少しずつ前に進めたら、それが大きな一歩ですもの!



「試し運転が出来たら、明日から屋台してみます? 【肉まん】組は朝とても早いですけれど、大丈夫ですか?」

「ワシは平気じゃ、朝4時には目が覚める」

「アタシたちも同じようなもんだねぇ」

「では、種は夜に作って、朝は肉まんにしてから持って行きましょうか?」

「んにゃ、夜のうちに肉まんにしておいて、早朝から仕事に行く冒険者や仕事に向かう人たちに売ってくるよ」

「美味しい匂いにつられてくるじゃろ」

「6時から売り始めて、朝8時には撤退じゃな」

「王太子領でしたら、道具店サルビア一号店前ですわね。ダンノージュ侯爵領でしたら、商店街の解体工事現場付近かしら? その辺りに冒険者ギルドと商業ギルドが近いんですの」

「「「「あいよ」」」」



こうして、売り場を定めておけば危険なエリアに行く事も無いでしょうし、お爺様お婆様たちの心配も減りますわ。

屋台には立派なサルビアの花も描かれていますから、何処の店かも直ぐにわかりますわね。

そうだわ!!



「皆さんにお揃いの制服を支給したいと思いますの。直ぐには出来ませんから、エプロンでどうかしら?」

「ええね、ええね!」

「ワシャふりるは嫌じゃ」

「男性はスタイリッシュな素敵なエプロンで、お婆様達は可愛らしいフリルエプロンなんてどうかしら? それに大きな模様のサルビアの花を刺繍するの」

「それなら、どこの店がやってるか分かりやすいねぇ」

「お願いできるかしら」

「ちょっと裁縫師さんの所に行って話をつけてきますね!!



そう言うとまた裁縫師の作業小屋に向かい、急ぎの注文で男性が10人分、女性も10人分のエプロンを作って欲しい事と、エプロンの形の要望、そしてサルビアの花を大きく刺繍して欲しい事を伝えると、毛糸を作っていたお婆様達がササッと動き、男性用のエプロンを作り始め、美女三人は女性用のフリル満載だけど使い勝手のいいエプロン作りに入りましたわ。

あとは、各商業ギルドで商売をする許可書を貰ってくればいいですわね。

お昼に戻ってくるカイルに連絡して取ってきて貰いましょう。



さて、午前中一杯色々仕事をしたらあっという間にお昼ですわ。

お昼ご飯を食べたら、炭師さん達と陶芸師さん達の所に行かねばなりませんわね!



「リディア、お疲れ」

「丁度良かったわカイル!!」

「お?」

「お昼終わったら王太子領とダンノージュ侯爵領の商業ギルドに行って、屋台の許可証を貰ってきてくださいませ! 明日からきっとできますわ!」

「お、おう」

「お昼を食べ終わったら炭師さんと陶芸師さんたちの所に行ってきますわ。牛丼の丼ぶりの大きさは前に伝えてあるんですけれど、どれくらい出来たか聞きたいですし、炭師さんの方には、どれくらいの炭が出来上がったのかも聞きたいですもの」

「悪いなリディア、そっちは任せる」

「ええ!」



こうして、昼食を皆で囲んで食べてから、炭師さんと陶芸師さんたちと一緒に山に向かいつつ、今後の事を考えた昼過ぎの事――。





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お年寄りたちの言葉が作者の住んでる地域の方言を若干使ってます。

爺様婆様が頑張りたい理由は、ちゃんとあったんですよ。

そして新たなあったかシリーズと言うかほっかりシリーズ。

またカイルを含む皆さんの目が死んだ魚の目になりますね!

カイルはまだ暫く奮闘します。頑張ってもらましょう!


何時も☆や♡など有難うございます!

励みになっております!

今後さらに食べ物の話等も出てきますのでお楽しみに!

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