第147話 串カツとカツ丼と腹と頭皮の心配。

机に並ぶ、お爺様お婆様達が楽しんで作ったおでんや肉まんの数々。

その中にひときわ異彩を放つのが――串カツ!

茶色の衣を纏いし串たちに、皆さん首を傾げていますわね?



「こちらの料理が串料理といって、様々な具材が衣で揚げられていますの。ソースは一度しかつけてはならないと言う約束事がありますわ」

「ソースってこの壺に入った奴か?」

「ええ、つけるのは食べる前の一回のみですわ」



そう言うと、皆さん各自手に取った串を壺につけ、口に運ぶと「お!?」と驚かれたようですわね!



「甘い、俺のは玉ねぎか」

「俺は豚肉だった」

「私は鶏肉です」

「アタシはピーマンだったよ」

「俺のは魚か?」

「私はエビだ」

「どうです? 食べてみないと分からないワクワク感がありませんこと?」

「これはいいな。揚げたてが屋台だと味わえるのか」

「ええ、では次はコチラのソースを使って食べてみてくださいませ」

「此れって、カフェのパンに挟まってるあのマヨネーズだろ?」

「いいえ、こちらはタルタルソースですわ」

「「「「たるたるそーす」」」」

「スプーンで取って、手にした串につけてみて下さいませ」



そう、ソースも良いけどタルタルソースも捨てがたいんですの!

思い出しますわね。

マヨネーズを最初に食べた時の皆さんの反応。

まさに、ザ・テンプレな勢いでしたわね……。



「こいつはっ!」

「美味しいです! 私はタルタルソースの方が好きです!」

「アタシは大人なソース派かな。でもモノによってはタルタルソースもあいそうだよ」

「うまい……これを揚げたてで食べられるのか」

「ただ、串カツ屋はあくまで【お試し】でやってみようと思ったものですの。これ、売れると思います?」

「売れると思うぞ、ガッツリ食べたい派は串カツだろうし、身体をホッとさせたい奴は、間違いなくおでんにいく」

「それは良かったですわ! では熱いうちに、今度は【カツ丼】をお召し上がりくださいませ!」

「牛丼の仲間みたいなものか?」

「ええ。美味しければ手間暇が結構掛かるので、数量限定販売にしようかと思ってますわ」

「どれどれ」



そう言うと皆さん出来立てのカツ丼をスプーンで食べてらっしゃいますわ。

大き目な肉厚のカツは食べ応えも抜群の筈!

男性の胃袋も満足の一品の筈ですわ!



「あ―――……これはいい、反則だ」

「牛丼もいいけど、こっちはガツっとくるね!」

「食べ応えあります!」

「味が染みるねぇ……牛丼も美味しかったけれど此れは凄い」

「ノイルさん如何です?」

「……美味すぎて涙出そう」



大好評ですわ!!



「俺、牛丼よりもこの卵のフワフワとろとろ感が好きかも」

「丼屋では、牛丼、豚丼、親子丼の三つを出そうと思ってますわ」

「「「「牛丼、豚丼、親子丼……」」」」

「牛、豚、鳥と食べられますのよ? そのうちの親子丼と言うのが、この黄色いフワフワとろとろの卵が掛かったものですの。卵はコチラでも滋養強壮に良いとされてますでしょう?」

「確かにそうだが……しかし美味いな」

「卵は採れたて新鮮なものを買っていますから美味しいんですのよ。古い卵は危険ですわ」

「なるほど」

「カイルが牧場に肉をお願いしていると同時に、卵もお願いしていたでしょう? お陰で箱庭のお爺様やお婆様、そして小さい子供たちは新鮮な卵が食べれて、元気一杯ですのよ?」

「それは嬉しいな」

「その鶏の卵を使った親子丼の鶏肉をどかして、今回は厚切り肉の豚を使った、カツ丼ですわ。豚肉には疲労回復効果がありますから疲れもぶっ飛びますわよ」

「これは是非、丼もの屋に欲しいね。数量限定だったかな?」

「ええ、一日50食の限定メニューからスタートですわ」

「限定メニューか……解る気がするな」

「でも、アタシは前に食べたカレーライスが好きだねぇ。リディアちゃんはカレーライスの専門店を出す気はないのかい?」

「出すことは可能ですけれど、ルーを作るのが結構手間なんですのよね」

「あー……」

「けど、落ち着いたらカレー専門店を考えますわ。カツカレーなんて最高ですもの!」

「「「「そこでもカツか……」」」」」

「ゲン担ぎに宜しくなくて? 商売に勝つ、戦いに勝つ」

「いいねそれは」

「ダンノージュ侯爵領でもゲン担ぎはする方は多いそうです。なので、ネイルも流行ると思いますよ」

「そうですわね、ダンノージュ侯爵領でも冒険者専用のネイルは出したいところですわね」

「やる事一杯だな」

「本当に、一つずつクリアしていきましょう」



そんな事を話しつつも、ノイルさんは只管カツ丼を食べていらっしゃいますわ。

余程気に入ったのかしら?

全てを食べ終わったときにノイルさんの顔は――満ち足りた笑顔でしたわ。



「ヤバいな」

「どうしたんだいノイル」

「ここ最近の、俺の腹がヤバいなと思って」

「ああ……」

「お互いに絞ろうな」

「そうだな、頭皮を気にしつつ身体も絞っていこう」

「箱庭は美味しい物が多すぎる」

「美味しい料理を知っているリディアちゃんが凄いんだよ。カレーパンなんて最初食べた時は何かと思ったけど、あの味が癖になるんだよねぇ」

「私は休憩時間に食べるフルーツサンドが好きです。甘くって美味しくて」

「それな、分るわ。休憩時間に通ってフルーツサンドな」

「ノイルは単純に食べ過ぎじゃないのか?」

「朝の露メンバーは甘党も多いんですー」

「ははは、うちのメンバーもだよ」



そう言って一頻り笑いながら串を食べ続ける皆さん。

胃袋はどうなっているのでしょうね。

おでんも肉まんも消えるのが早いですわ!



「ところで、甘味処では何を出す予定なんだい?」

「ええ、カカオが余って仕方ないので、チョコレートを中心に。後はクッキーやケーキですわね。冒険者がダンジョンに入っても食べられるようなお菓子って言うと、飴も入りますかしら?」

「飴は良いね。疲れてるときに口に入れるとホッとするよ」

「後、わたくしが作れるのが金平糖と言う砂糖菓子ですわ。こちらも冒険者の方々が持っていけるような甘味になりますわね」

「へぇ……楽しみだねそれは」

「小さな星を口に入れるようなものですわ」

「ロマンチックじゃないか」

「冒険に行くとき用、帰ってきてからホッとしたいとき用とあれば充実するかなと思いましたの」

「でも砂糖を使うだろう? 高くなるんじゃないのかい?」

「砂糖の原料になる野菜は箱庭でも育てていますから、そこまで高くはしませんわ」

「そうだったね、塩も砂糖も箱庭産だった」

「簡単に作れるお菓子に関しては、紙芝居屋でも3つ銅貨1枚で売ろうと思ってますから、カイル、そろそろ絵師さんや物語を書ける方がいらっしゃったらお願いしますわね」

「そうだな、焼肉店がオープンすれば少し暇が出来る。そしたら頼もうか」

「ええ!」



こうして、沢山あった肉まんに串カツも綺麗に無くなり、皆さん最後はビールを飲んでましたわ。

疲れた時に飲むお酒って、なんであんなに美味しいんでしょうね。

前世では、わたくしも週に一度のご褒美に飲んでいたのを思い出しますわ……。



「後は、明日の朝一番に裁縫師専用の小屋に行って布の追加と糸の追加、後は屋台の中を作っていきますわ。それと、王太子領でも朝と晩に回収用のゴミ箱を用意しますので、食べ終わった紙屑や紙皿を入れて貰えるようにしますわね」

「分かった。ダンノージュ侯爵領にあるゴミ箱の設置だな」

「商店街通りはお陰でゴミが少なくて助かってるよ」

「そう言えば、道具屋前にあった酒場は今どうなってるんだ?」

「酒場の主人が捕まって、今は代理の方が酒場をしているそうですが、売り上げは芳しくないそうです。寧ろ飲食店サルビアに長蛇の列が出来ている状態ですね。皆さん王国からやってきた建築師さんたちに興味津々の様子で、新しい食事処をサルビアで作っている所ですと話すと、待ちきれない様子でしたよ」

「一カ月で解体が終わるだろう? あとは建築師の腕次第だよなぁ」

「広い二階建ての店にする予定だし、二階にも厨房を置く予定だ。何度も階段を上り下りはきついからな」

「そりゃいい」



皆さん色々な事を話しながらお酒を飲み、最後は男性陣が先に温泉となった頃、ナナノさんとハスノさんがやってきましたわ。

最近ダイエットをしているとかで、食事時間にはあまり来て下さらないの。



「「ノイルとレインたち、温泉行った?」」

「ええ、行かれましたわ」

「アタシたちも5つ温泉あるんだし、入ろうと思えば入れるんだけど、ついこの時間になっちまうね」

「今の時間は女子だけの時間ですから、その女子会に、こんなオヤツを作ってみましたの。どうかしら?」



そう言って出したのは金平糖。

小さな袋にリボンを添えて一つずつお渡しすると、ロキシーお姉ちゃんもナナノさんもハスノさんも「「「おおお……」」」と声を上げていらっしゃいましたわ。



「これくらいでしたら、ダイエットの邪魔にはならないんじゃなくって?」

「「うん」」

「美味しいねぇ……。口に中に本当に星を入れたみたいだよ」

「お星様の味は、どんな味かしらね?」

「子供が好きそう」

「そう言う話」

「絵本に丁度いいかしら?」

「ナナノ知ってる、リディアの絵は壊滅的」

「ハスノ知ってる、リディアの絵で子供が泣いたってノイルが言ってた」

「ノイルさん……」

「まぁ、人間得意不得意くらいあるさね。リディアちゃんはロストテクノロジーって言う凄い力は持ってるけれど、絵心だけは持つ事は出来なかったってだけだよ」

「ロキシーお姉ちゃんは、御胸も御尻も大きくてスタイル抜群ですけれど、料理が不得意ですものね」

「いつかライトに何か作ってやりたいとは思うけど……どうにもね」



そんな話をしながら楽しむ女子会も、また楽しいものですわ。

明日もまた忙しい一日が始まる。

今週末に向けて牛丼用の皿もそろそろ出来上がってくるでしょうし、明日はやる事が終わったら箱庭で働いている炭師の方々と陶芸師の方々の話も聞きに行きましょう。

それに、お店で使う紙皿と紙コップを大量に作っておかないといけませんし、フォークにスプーンもいりますわね。


明日も全力で駆け回りますわよ!!





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本日二回目の更新です。

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