第146話 新しい冬の商品と誤解が生んだ【カツ丼】の誕生。

夕食前に、わたくしはジャックさん、マリウスさん、ガストさんを別の休憩所に来て貰うように頼むと、三人はワンピースと美しい髪を靡かせながら付いて来てくださいましたわ。

思う存分女性らしい恰好をして、女性のように振る舞っても、この箱庭では誰が咎めるもなし、自由に過ごされています。



「リディアちゃん、私たちにお話って何かしら?」

「ええ、実は皆さんにしか頼めない裁縫師としての依頼が御座いますの」

「まぁ! ポンチョだけではなくて?」

「ポンチョはポンチョで今後も頼みたいですわ。大口依頼が入っていて手が回らないそうで。それにサーシャさん達も、御三方なら素敵なモノを作れると仰ってましたし」

「「「まぁ!」」」

「是非今来ていないお婆様方の裁縫師にも今からお話する事をお話をして下さいませね?それで、作って頂きたいものなんですけれど、まずはコチラをご覧くださいませ」



そう言うと、わたくしは前に作った腹巻と毛糸のパンツ、それに新しく【ほっかり布】で作った袖のあるベストと、袖の無いベストとマフラーを取り出しましたわ。



「こちら、腹巻と毛糸のパンツ、それにほっかり布で作ったベストとマフラーですの。ダンノージュ侯爵領は今から秋から冬へと寒くなりますから、中に着れる【あったかシリーズ】みたいなものですわ」

「そうね、これにレッグウォーマーも欲しいわ」

「レッグウォーマーですの?」

「足元の冷えも、万病の元よ?」

「そうだったのですね」

「そう……なるほど。私たちに作って欲しいのは、この【あったかシリーズ】を作って欲しいって訳ね? しかも、デザインは私たちが好きにして良いと、つまりはそういう事ね?」

「ええ、ポンチョだけでも大変でしょうが……腹巻に関しては、ほっかり布で伸縮性のあるものを使えば良い物が作れそうだと思いますわ」

「そうね……子供用から大人用まで幅広く作れるわね」

「マフラーも頭から被って首元に持っていくタイプとかも良いかもしれないわ」

「それだったら酒場での置忘れがなくていいわね」

「子供もなんだかんだと置き忘れてくるもんだから……」

「そうそう、公園で遊んでいてそのまま……ね」

「色々あるのですね」

「一番の問題はやっぱり置き忘れよ! 布が可哀そうだわ!」

「そうよ、子供はまだ許せても、酔っぱらいは別よ!!」



――流石裁縫師、人よりも商品への想いが強いですわ!!



「でも、此れだけ多いと担当決める?」

「ローテーションが良いわ。モチベーションアップの為にも」

「そうね、二日ずつでのローテーションが、一番モチベーションが保たれるかしら?」

「「それで行きましょう!」」

「そちらにどうするかはお任せしますわ。ほっかり糸やほっかり布は足りてまして?」

「色合い的には全体的に使う様にはしてるけれど。追加で欲しい色は幾つかあるかも知れないわね」

「明日の朝一番に作業場に来てもらえたら助かるわ」

「分かりましたわ」

「オシャレが出来ると、女性って言うのは輝くものよね」

「どんな女性も、どんなスタイルの女性も、どんな年齢の女性でも、輝こうと思えばやりようは幾らでもあるものね」

「あら、それは男性にも言える事だわ。要は、需要と供給よ」

「アタシたちにも需要と供給あるかしら?」

「素敵な殿方と?」

「いやーん! 骨まで食べちゃうー!」



――骨までっ!!!

流石ですわ……流石美女三人組ですわっ!

相手の男性を、骨まで食べつくすなんてっ!!

わたくしでは一生カイルの骨までは食べれませんわね……。

これが前世で聞いた……肉食系女子と言う奴かしら。



「リディアちゃんも、カイルちゃんの骨まで食べてるんでしょ?」

「いえ、わたくしは骨まで食べるのは難しそうですわ」

「あら、そうなの?」

「カイルくんって魅力的だと思うんだけど……」

「骨まで食べてしまったら、カイルが居なくなってしまいますわ!!」

「「「!!!」」」



そう叫ぶと、三人は目を見開いて口に手を当てて驚いてますわ。

何か変な事を言ったかしら?



「リディアちゃん……」

「純粋なのね……」

「嫌だわ、私たちが汚れているのかしら……」

「兎に角! 骨まで食べてしまっては本末転倒ですわ!」

「そ、そうね、そうよね!」

「アタシたちが悪かったわ!」

「そうよ、骨くらいは残すべきよ!」

「そうですよ!?」

「「「そうします!!」」」



全く、骨までなんて……証拠隠滅も甚だしいですわ!!

人肉は食べちゃダメ、絶対ダメ!

もしや、もっと美味しい料理を作らねばならないのかしら?

こう、肉食系女子が喜びそうな肉料理?

難しいですわ……これは少々彼女たちを見くびっていたようですわ。

わたくし、もっと精進しませんと!!



「もっともっと美味しい料理を開発しますから! 待っていてくださいませ!」



必ず肉食系女子の胃とハートを満足させられる料理を作りますからっ!!



「リディアちゃんっ!」

「違うの、違うのよぉぉおお!!」

「既にリディアちゃんの作る料理が美味しすぎて体重が――!!」



遠くで三人が何か叫んでいましたけれど、わたくしの頭の中は美味しい料理を考える事で一杯でしたわ。

前世を思い出すのよ、わたくし!!

もっともっと、美味しい肉料理を!!

いいえ、この際肉に頼らなくても、もっと美味しい料理を!!



そんな事を考えながら、わたくしやる事はやりますのよね。

ロストテクノロジーで作った折り畳み椅子を40個。折り畳み机を6個。

つい勢いで多めに作ってしまいましたけれど……まぁ、腐るものではないですものね。

でも、此れを見ていると昔行ったソロキャンプを思い出しますわね……。

それに小学校の頃、皆で行ったお泊りキャンプ。

大きな鉄板で作る、焼きそばにお好み焼き……嗚呼、懐かしい。

お好み焼きにはマヨネーズ! 踊るかつお節も大事ですわ! それに青のりも!

焼きそばにも是非、踊るかつお節に青のりがあれば最高ですわね!

嗚呼……考えると食べたくなる……。アカサギ商店でお好み焼きの粉とか売ってないかしら。

それこそ焼きそばのような、ちぢれ麺でもいいですわ。

いっそ、うどん麺でも良いですわ、焼うどん……。

嗚呼……粉ものも欲しい。

せめて気分を変える為にも、今から厨房に行って一つ作りましょう。

そう――カツ丼を!!



はっ! そうだわ!!

カツ丼でしたら、肉食系の三人でも満足するのでは!?

胃もハートも落ち着いたらきっと男性を骨まで食べる事は無くなりますわよね!?

箱庭の平和の為ですわ。明日の昼はカツ丼にしましょう。


そんな事を思いながら作業をしていたら、いつの間にかカイルたちが口をポカーンと開けて立っていましたわ。

わたくし、変な事を口に出していなかったかしら……。



「リディア、それは……」

「え? あ、ああ! コレですわね! こちらは屋台で使うロストテクノロジーで作った折り畳み椅子と折り畳み机ですわ! 軽くて丈夫ですのよ?」

「そいつは凄いな。冒険者の休憩時間に革命が起きるぞ!」

「そう……なんですか? ノイルさん」

「ああ、これは革命だ。軽くて丈夫で場所を選ばず使える! 水にも強そうだ!」

「だが待つんだノイル」

「止めるな、レイン!」

「いいや、止めるさ。今俺達の元に、一体幾つのリディアさんの商品が新しく出ていると思う。これ以上は本当に誰かが疲労で倒れるし、私達の大事な髪も危ない!」

「くっ……」

「禿げてしまうぞ!!!」



レインさん……凄くまじめな顔とお声でそんな堂々と……。

頭皮、心配なんですね?

若いのに大丈夫かしら……。



「リディア」

「はい! 何でしょうカイル」

「今出ている商品がある程度落ち着いたら、一日50個限定で椅子だけでも欲しい。頼めるか?」

「ええ、この手の物でよければ色々と作れますけれど……」

「そうか、色々か」

「ええ、様々に色々と」

「ノイル、レイン」

「「どうした?」」

「頭皮だけは、守ってやってくれ」

「「………」」



そんな苦痛に満ちた表情で……一体何が起きると言うのです!?

彼らはSランク冒険者でしょう?

恐ろしいボスでもいらっしゃるの!?



「リディアちゃん」

「はい!」

「今は、何も作らないでくれ。いや、作っても良い、売り出しは後日だ」

「はい!! ですが既に屋台が作られておりますわ!」

「もう作ったのか?」

「ええ、おでん用と、串カツ用と、肉まん用と!」

「「「待て、聞いたことのない料理が出てきたぞ」」」

「とっても美味しいんですのよ? 作る手間は掛かりますけれど、保護した方々がとてもやる気で! わたくし嬉しくって作り方も教えましたし、今日の夕飯に出てきますわ! ついでにわたくし、思いましたの……。肉食系女子には、まだ胃袋もハートも、満足させきれていなかったと」

「どういう事だ?」

「一体何が起きたんだ?」

「ですので!! 牛丼と同格に戦える丼物を作ってきますわ!! カイルたちはその試食として食べてくださいませ!!」

「リディア、待つんだリディア!!」



待てと言われても肉食系女子の胃袋とハートを落ち着かせなければ、箱庭で殺人事件が起きてしまいますもの!! 待てませんわ!!

急ぎ厨房に立つと、既にぬるくなり始めた油を温め直しつつ、急ぎカツ丼の為のカツを作りますわ!

ドド―――ンと大きいカツが良いですわよね! 食べ応えのあるカツって最高ですわ!

それをジュワッと油で揚げつつ卵と玉ねぎを用意して材料は作りましたわ!

後はこれらをドッキングさせ――大きなカツ丼を作れば完成ですわ!

出汁の沁み込んだカツこそ絶対の正義。

そうよ、わたくし前世では牛丼よりもカツ丼派……。



わたくしも嬉しい、皆も嬉しい、肉食系女子も安心な一品ですわね!

これはわたくし、勝てたんじゃありません事!?



そんな事を一人思いつつ人数分急いで作るとトレーに乗せ、数回に分けて皆さんの元へと持って行き、自分の分も今回は豪快にドドーンなカツ丼にしましたわ!



「では、ご説明しましょう! 串カツと――カツ丼を!!」




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本日も一日三回更新です。

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