第99話 あちらの道具屋と実家の謎と、圧勝の戦いと専属契約。
『ふざけるな!!』
――最初に飛び込んで来たのは、罵声でしたわ。どれどれ、様子を見ましょうかしら?
池鏡に映るのは、ライバルの道具屋の一室。
そこでお年を召した方が物を投げながら喚き散らしてますわね。
『誰か冒険者の間に間者がいたんじゃないのか!? でなければ、何故うちの店よりも安くアイテムを売ることができるんだ!』
『とは言っても、店は一週間休んでましたし、その間に人がいた形跡などありません』
『一体どうなっている……こちらのアイテムの値段も品質も、何もかもがバレているではないか!』
『そうは申されても……あちらはダンノージュ侯爵家の傘下ですし、道具店はダンノージュ侯爵のお孫さんですよ!』
『だから何だというんだ! 俺達は長年このダンノージュ侯爵領で道具屋をやってきたんだ! 一人勝ちだ! それを新規の店に取られてまるか!』
『ですが、ダンノージュ侯爵のお孫さんに手を出せば、タダではすみませんぞ!』
『痛めつければ良いという話ではありませんぞ! 下手をすればこちらがダンノージュ侯爵家に反逆罪で捕まります!』
『えええい……何とかならんのか! 一体どこでアイテムを手に入れている!』
『箱庭産だと聞いてますが』
『馬鹿を言え! 箱庭で作物等育つはずがなかろう!』
あら残念。
うちの箱庭を舐めて貰っては困りますわ!
大人数を抱えた箱庭では多くのスキル持ちが居ますので、その方々だけで属国となったほうも、こちらのダンノージュ侯爵領もまかなえるほどでしてよ。
そちらは随分と焦ってますのね。
仕入れ先が大きくないのかしら?
『今あの商店街にある店はどんなものがある!』
『はい、道具店にこちらを裏切った酒屋に布団屋、洋服店。新たに魚屋と八百屋に飲食店があります』
『こちらは道具屋だけですから、向こうが今のところは』
『まて、布団屋も服屋も酒屋も圧力を加えていただろう。仕入れ先はコチラが握っている』
『そちらも、箱庭産だと……』
『一体どんな箱庭なんだ!!』
敢えて言いましょう。
規格外の箱庭だと!!
その規格外に勝てる程の物をお持ちなら良いですわね。
そちらのお客、貰いますわよ。
にこやかな笑顔を浮かべつつその後も様子を見ていましたが、こちらを暫くは静観するとのことでしたわ。
その間にゴッソリ貰って信頼関係を築き、気付いたときにはそっちには戻れません事よ。
けれど、その時ふと妙な言葉が耳に届きましたの。
『それで、ナスタ・マルシャン様から連絡は?』
『領地が落ち着き次第、こちらに一度来るという話です』
『フン! 前マルシャン公爵はダメな男だったが、ナスタ様は頭がいい。気を抜くなよ』
『ですが、ダンノージュ侯爵家の婚約者を奪い取りに来るなど。本当に手を貸していいのですか?』
『知らん! ナスタ様がそう言うのなら仕方ないだろう。カイルとやらの婚約者は外には出てこられんのだろうから、侯爵家の中だろ?』
『だと思うんですが』
ナスタ?
何故ナスタの事が此処で出てきますの?
わたくしを奪いに来る? どういう事ですの?
実家とは縁が切れてるはずですわ。
――義理の弟のナスタ。
心根から悪い子ではなかったですが、あのわたくしを見つめる目が苦手なのよね。
所謂、粘着質と言うかなんというか……。
小さい頃、一度勢いをつけて顔面を殴ってからと言うもの、重度のシスコンになったのは何故でしょうか。
外で女遊びもしているのに、何故か何時も「姉さん姉さん」と煩かった。
それも煩わしくて、最低限の授業の後は箱庭に閉じこもっていたのよね。
箱庭から出てくると、常に後ろに引っ付いてきて気味が悪かったわ。
それは成長してからも変わらず、「金髪の美しい娼婦を抱いてきたんだけど、やっぱり違うんだよ」なんて言いつつ付いてきたときは頬を引っ叩いたものですわ。
本当に、意味が分からない。義理の弟が、何故ダンノージュ侯爵家にまでくるのか……。
まさかカイルに害をなす為!?
わたくを連れて帰るつもりなのかしら!?
弱みを握ってわたくしを呼びだすつもりかしら……。
これは由々しき問題ですわ。
アラーシュ様にも話をして対応しておかねば。
これからも道具屋から情報を聞き出さねばなりませんわね……。
「マルシャン公爵家。今どうなっているのかしら……」
属国となってから、落ちぶれるとばかり思っていましたのに、ナスタが頑張って盛り立てているとは思いませんでしたわ。
お父様は領地経営なんてできませんものね。
話しの様子では、代替わりしたのかしら。
「なんて面倒くさい……」
「リディア様大丈夫?」
「ええ、ちょっと困った弟がわたくしを探している様ですの」
「困った弟なの?」
「ええ、話が一切通用しないと言うか、自分基準でしか見えないというか」
「困った弟だね」
「アタシの弟だったら拳一つでいう事きくのに」
「本当に、殴ると喜ぶ体質なのよ」
「「「変態じゃん」」」
子供達にすら言われていますわよナスタ。
そうか、変態だからこそ馬鹿なのね。
兎に角カイルたちが帰ってきたら話は通しておきましょう。
それとも、今のうちにアラーシュ様に話を聞きに行く?
そっちの方が良さそうですわね。
「わたくし、アラーシュ様にお話を聞きに行くわ」
「お店の事は宜しいので?」
「情報は欲しいから、この籠に入ってる屑宝石を投げて、カイルたちの様子を見て下さる? 後でおしえてくださいませ」
「「「「はーい!」」」」
こうして、わたくしは一人ダンノージュ侯爵家に向かうと、目についたメイドにアラーシュ様は御在宅か聞き、わたくしが来ていることを話して欲しいと言うと、直ぐにアラーシュ様との面会が出来ましたわ。
少し慌てた様子でしたけれど、わたくしは努めて笑顔でアラーシュ様に向かい合いました。
椅子に座り、まずはカイルの持つ商店街の話から。
「こちらの商売に関する事は、まずは大成功といって過言ではないでしょう。カイルは本番は二日目からと言っていましたが、既に初日から凄い人ですわ」
「流石リディア嬢だな、商売人とはそうでなくてはならない」
「有難うございます。また情報を集めていた所、道具屋と我が実家が繋がっていることが分かりましたの」
「なに?」
「実家についてお話は何か聞いておりませんでしょうか? 領地が落ち着いたらダンノージュ侯爵家に赴くそうですわ。わたくしを取り返しに」
此処まで話すと、アラーシュ様及びブラウンさんの顔が鬼になりましたわ。
まぁ、やっとみつけた孫の婚約者を、縁をきったにも関わらず取り戻そうとする実家に対して怒りを覚えるのは致し方ない事。
「直ぐにマルシャン公爵家について調べを進める。リディア嬢は安心して箱庭にいていい。もし何かあったとしても、ナカース王国の国王陛下及び、ダンノージュ侯爵家が君を必ず守ると約束しよう」
「有難うございます」
「調べが済んだらカイルと共に来るといい。暫くは店が忙しいだろうから、カイルの負担にならぬよう話は避けておくべきだ。調べが終わったらワシの方から話をする」
「ええ。ただ、道具屋は徹底的に潰していいのですのね?」
「潰してもらった方が為になる」
「分かりましたわ。遠慮せずぶっ潰します」
こうしてアラーシュ様が実家の事を調べて下さることになり、ホッと安心しつつ箱庭に戻ると、子供達は大興奮中ですわ!
一体どうしたのかと池鏡に駆け寄ると――。
「凄いんだよリディア様!」
「Sランク冒険者の鳥の瞳がやってきて!」
「専属契約を結んでいったの!」
「まぁ!!」
「鳥の瞳の冒険者は全員で5人いて、5人全員がだよ! 凄いよね!!」
「それに触発されて、他のランクの低い冒険者も次々に契約してるの!」
「カイル様って凄いのね!」
「凄いのは箱庭で作ったアイテムもだぞ!」
「僕たちも頑張ってスキルを上げよう! そしていつか僕たちもカイル様からお店をまかされるようになるんだ!」
「あら! でしたら勉強は頑張ってくださいませね? せめてライトさんくらいには」
「ライトは頭良すぎるよー……」
「でも目指す場所はライトさんだって分れば」
「頑張ろうぜ!!」
子供たちにとって、道具店で既に働く年の近いライトさんは憧れの存在。
彼のようになる為に勉強にも励む事でしょう。
さて、アラーシュ様からのご連絡を待ちながら、わたくしも足りなさそうな商品は一気に作っておいておきましょう。
店専用のアイテムボックスを見れば、わたくしのロストテクノロジーで作れるアイテムがごっそり減ってるのが分かりますわ。
化粧品からボディーソープに泡石鹸。
一気に作っておきましょう。
だって私、滾ってますもの!!!
「さ、わたくしはアイテム作成しながら店の様子を流し聞きですわ。皆さんどうなさいます?」
「僕海に行って貝集めてくる!」
「僕は彫金スキル上げてくる」
「私は森にザザンダさんといってくるわ」
「わたしもー!」
「私は錬金術の練習ね、アイリちゃんやリリーちゃんに追いつきたいもの」
「ふふふ、皆さん一緒に頑張りましょうね」
「「「「はーい!」」」」
こうして、カイルたちの声や店の声を聞き流ししながら商品をガンガン作り、尚且つお酒屋さんに卸すビールも200本作ると、こちらはお試しで流して欲しい旨を伝えておかねばと思いましたわ。
ビールって一度作ると100本単位でできますのよね。
瓶は回収するようにしましょう。そして瓶を分解して新たに作れるようにすれば素材効率もいいですしね。
さ、もっともっとアイテムを作っておきますわよ!
明日からこそが戦争なのですから!!
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本日二回目の更新です。
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