第98話 サルビア商店街オープン初日。

サルビア商店街オープン初日。

一斉に全店舗の扉が開き、まばらに客も冒険者もいらっしゃいますわね。

酒場前の道具屋が顔を利かせているこのダンノージュ侯爵領で、ダンノージュ侯爵家の傘下に入った店がどれだけ戦えるのか、わたくしは久しぶりに池鏡で見させてもらいますわ。


カイルの予想では、初日は様子見、本番はその日の夕方から次の日に訪れるだろうということでしたけれど、私の予想では、朝から戦は始まると思いますわ。

だって、朝からパンの焼ける良い香り漂う商店街には、既にチラホラと香りに誘われた方々の姿が見えますもの。

それと同時に――。



『いらっしゃい! 新鮮な野菜が沢山入ってるよ!』

『魚もとれたて新鮮だ!』

『属国となったあの場所で大人気の商品、気になりませんかー?』



と言う呼び込みも始まりましたわね。

流石に属国となった場所で人気の商品と聞くと気になる方々も多いようで、興味はあるけれど店に入る勇気がない……と言う足踏み状態。

ここらで一つドカーンと欲しい所ですわね。

様子を見守るお婆様やお爺様も冷や冷やしているようですわ。

すると――。



『ここが道具屋が言ってた道具店サルビアか? どれ、どんな店かみてやろうじゃねーか』

『所詮、酒場前の道具屋には叶わねぇだろうけどな!』

『いらっしゃいませ!』

『どれどれ? ポーションの品ぞろえや道具の品ぞろえを、Aランク冒険者の月の砂様がみてやるよ!』



おおおおお。

どうやらAランク冒険者が堂々と来られたようですわ!

で・す・け・ど。

こちらも道具屋に並ぶ値段くらいは全て存じ上げてましてよ?

下調べって、池鏡があると便利ですのよね。

戦を仕掛けるんですもの、こちらもそれ相応に対策はしてますわよ!

是非驚いてくださいませね。



『いらっしゃませ』

『へぇ……ノンズ、みろよ。道具屋よりもポーション類も状態異常回復アイテムも安いぞ』

『は? マジか?』

『しかも作りたてみたいに新鮮だ。古いから値段を下げてるかと思ったけど違うぞ』

『おいおい、道具屋の情報と違うじゃねーか!』



ほらみなさい。

そちらの情報がどんなものかは存じ上げませんけれど、こちらはそちらの商品に関する情報は筒抜けでしてよ?

まだまだ驚いて貰っては困りますわ!



『うちの道具店では、専属の錬金術師が多数いらっしゃいますので、出来るだけ新鮮なモノを用意するようにしていますよ。古いものに関しては破棄しております』

『マジか!』

『ちょっとノンズ! この冒険者用の鞄、めっちゃ作りが良い上に安いんだけど!』

『店員さん! ポーション類各5本ずつと、あの冒険者用の鞄一個!』

『有難うございます。ところで月の砂の方々の活動場所は地下遺跡でしょうか?』

『そ、そうだが……』

『でしたら、あの遺跡は蒸し暑いと聞いています。この『ひんやり肌着』で暑さを調整してみませんか?』

『ひんやり肌着だと?』

『ええ、例の場所でとっても売れている商品でして、持っていない冒険者は一人もいないんじゃないでしょうか』

『ッハ! 属国になった奴らが買い漁ってるっていうのかよ!』

『ええ、勿論です。それに、あちらの国の冒険者はとても綺麗好きですので、こちらの石鹸と呼ばれる手洗いの際に使うモノなどは特に人気ですね。魔物を倒した後の匂いは中々取れないと聞いていますが、石鹸を使うだけで臭いが全く違うと評判で冒険者の鞄には必ず入ってる商品です』

『へぇ……』

『無論、ダンノージュ侯爵領にいらっしゃる冒険者ですから、無論、清潔で綺麗好きだと知っていますが』

『そ、そうだな……じゃあその肌着を5枚と石鹸ってのを2つ買ってやる!』

『有難うございます! オープン初日ですので、特別に暑さ対策にこちらのハッカ水を一つオマケしますね』

『そいつはありがてぇ!』



はい、Aランク冒険者ゲットー!

皆さん口々に『話が違う』と呟いている所を見ると、この一週間シッカリとこちらの道具店をあることないこと吹き込んだようですわね。

でもザーンネン。

そうは行きませんわよ?


ほら、見なさい。

通りには紙袋に入ったパンを食べながら歩いている方々も増えて参りましたわよ?



『いい香りがすると思ったら』

『おい、お前たちが食べてるのは何だ?』

『え? この商店街に出来た飲食店で、朝限定のカレーパンですけど』

『初めて食べたけど美味しいのよね。しかも珈琲つきで朝限定の200食ですって』

『仕事行きながら食べれるのは嬉しいよ』

『おい! お前らも支払いしたら走れ! 揚げたてのパンだ!! 限定だってよ!』



そう、飲食店では朝のモーニングの代わりに、朝限定で200食分のカレーパンを売ってますわ。

歩きながら食べれるように紙に入れたカレーパン。それに紙コップに入れた珈琲のセットで銅貨5枚。

食べ終われば商店街のあちこちにあるゴミ箱に捨てて貰うようになってますわ。

しかし、まだまだトラップは続きましてよ?



『あら、今日はお野菜元気なのね』

『ええ、仕入れ先が変わりまして、毎日採れたて新鮮な野菜を取りそろえる事が出来ます。なんと朝11時と夕方4時には値引きセールもしますよ』

『まあああ! 値引きセールするの?』

『本当に?』

『隣の魚屋も同じタイミングでするそうですよ。奥様方に是非広めてくださいね』



と、八百屋と魚屋のタイムセール話を漂わせてからの――。



『酒場にも入ってない上等な酒はいらんかねー』

『酒!?』

『朝から角打ちしてるよー。店で立ち飲み可能だよー。指定のコップ二杯、銅貨10枚でウイスキーもウォッカも飲めるぞー』

『一体』

『どうなってんだこの商店街は!!』



落ちた。

ハイ落ちましたね?

冒険者さん、是非広めてくださいませ!

その後、彼らが帰ってから一時間後。群れを成してやってきたのは冒険者と奥様方ですわ。

ちょうど時間はタイムセールが始まる少し前。それを読んだかのように今回セール品としてお出しする野菜に赤字で【タイムセール!】と言う文字と同時に値段に横線引いて赤文字で半値が書かれますわ。



『はいはーい! タイムセールの始まりでーす!』

『ちょっと、このお野菜セットもタイムセール品になるの!?』

『勿論です! お隣でお肉を買えばシチューにもポトフにも!』

『ちょっとなんなの! 葉物野菜まで安いわ! この時期高いのに!』

『リンゴが一個銅貨1枚? うそでしょ!?』

『在庫限りだよ――! 早い者勝ちだよ――!』



もうその言葉を聞けば奥様達は、八百屋に魚屋に肉屋と忙しく動き回っているわ。

その間を縫うように冒険者の方々が道具店にたどり着き、店に駆け込んでましてよ!

と言う事は、そろそろですわね?



『布団店サルビアにて、昼13時よりタイムセールです! 例の場所で人気のガーゼシリーズを是非手に取ってみて下さい! 例の場所では知らない者はいない! そんなガーゼシリーズです』

『洋服店サルビアでもガーゼシリーズに『ひんやり肌着』と『ほっかり肌着』販売中でーす。ガーゼ商品は汗疹に苦しむお子様にこそ欲しい一品! 如何ですか―?』

『汗疹ですって!?』

『ママに嬉しい商品に乳児に嬉しい商品、幼児に嬉しい商品やお薬も売ってますよ~! 勿論、洋服店サルビアでは、美しい奥様に似合う洋服も安く取り揃えております!』

『美しい奥様……』

『息子のお薬買って行こうかしら……でも13時からよね。セールに攻めるわ!』

『私もよ、一旦帰ってまた来ましょう!』



はい、次行きますわよ!

休む暇なんて与えません事よ!



『朝限定のカレーパンに珈琲セット売り切れました!』

『は? そんなのもあったの?』

『昼からはお腹にたまる美味しい料理をお出ししますので、是非飲食店サルビアへどうぞ! 買い物帰りの休憩にも是非いらっしゃいませ~!』

『きゅ、休憩に珈琲もいいわよね?』

『甘いものがあると嬉しいわ』

『店員さーん、甘いものはあるのかしらー?』

『はい! ケーキなどがお安く提供できますよ~』

『みんな』

『行きましょう、ケーキの為に!』



はい、庶民の奥様方ゲットですわね。

ふふふ。タイムセールに弱いのは前世の世界でもこちらの世界でも一緒!

カイルたちは渋ってましたけれど、良いインパクトになったんじゃなくって?

それに、お肉屋さんに何もないってのもどうかと思いましたので【アレ】の作り方も教えましたしね。



『お肉屋さん、コロッケなんて置いてあったかしら?』

『ダンノージュ侯爵様がお食べになっているコロッケを教えて貰ってな』

『まああああ!』

『一日500個限定だ! 一人最大5個まで、早い者勝ちだぜ』

『アタシにも頂戴!』

『ダンノージュ侯爵様がお食べになってるコロッケだと!?』

『俺達冒険者にも売ってくれるのか!?』

『まとめ買いは5個までが限度だが、冒険者にも売るぞ』

『うおおおおおおお!!』



大盛況大盛況。

さてさて、こちらは一先ずは安心ですわね。

此処からは情報収集のお時間ですわ。池鏡に宝石の屑を入れて道具屋の様子でも見ましょうか。

どうなってますかしらね?






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お越しくださり有難うございます。

本日も一日三回更新です。

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