第6話 箱庭師は商業ギルドに店を構える為に向かう。
湯上りサッパリのカイルの髪は、わたくしと同じ美しい金の髪に燃えるような赤い瞳でしたわ。
髭も整えたのか、一気に若返って見えますけれど……20代だったのかしら?
わたくしの髪と瞳とは若干違う色合いではありますけれど、パッと見は兄妹のようにみえるかもしれませんわね。
そんな事を思いながらカイルと共に商業ギルドへと到着すると、店舗兼居住スペースのある家を借りたいと伝え、担当者は「暫くお待ちください」と言って席を外そうとした。
しかし。
「少々お待ち頂きたい」
「なんでしょう?」
「出来れば月金貨20からの物件を探しています」
「畏まりました」
ここのエリアの物件の値段は知りませんけど、カイルが前もって注意のように伝えるという事は何かしらあるのでしょう。
わたくし達が待っていると暫くして担当の方が戻られましたわ。
「月金貨20枚からですと5軒ほどあります。間取りを見られますか?」
「お願いします」
ここまでわたくし、一言も喋ってませんわ。
カイルが自分で進んでやってくれる為、隣で様子を窺っている程度。
5枚ある間取りと住所を見ると、どれも似たり寄ったり……のように感じるのだけれど?
「この三つの物件は無しでお願いします」
「宜しいのですか?」
「ええ。この三つの物件は築年数と立地を見てもあまり宜しくない。その代わり、こちら二つの物件は、築年数はそこそこ真新しく、治安の良いエリアにありますよね?」
まぁ! カイルったらそこまで見込んで二つに絞りましたのね。
確かに治安の良いエリアでの営業は望ましいですわ。
一人で店番していたら荒くれ者が乗り込んでくるとか恐怖でしかありませんもの。
「こちら二つの物件を見させていただきたい」
「畏まりました。案内は今からでも?」
「大丈夫です」
「では、ご案内致します」
とんとん拍子に進んでしまいましたわ。
カイルは交渉術も上手ですのね。
うちのクソ親よりもうまいんじゃないかしら?
そんな事を思いつつカイルについていく形で物件を見に行きましたの。
一つは近くに警備隊の勤務地がありますけれど、直ぐ隣は酒場のようで騒がしそうですわ。
問題が飛び火するのは嫌だと伝えると、次の物件へ向かいましたの。
そちらは勤務地からは少し離れてますけれど、宿屋が立ち並ぶエリアでこちらの方が安心出来そうね。
問題は店舗だけれど、二階建ての家の鍵を開けて貰うと、どうやら一階は店舗の様子。
元々道具屋が入っていたらしいけれど、経営者がご年配で辞めたのだそうだ。
広めの店舗に、隣には小さい別室が用意されていましたわ。
在庫置き場って感じかしら?
そのまま二階に向かうと、広めのダイニングルームに部屋が三つ。
キッチンにトイレ、お風呂はシャワーが取り付けられた水回りは綺麗に感じましたわ。
小さな庭もあるようで、日当たりはそれなりによく洗濯物も干すことができそう。
宿屋が近いだけあって朝と夜は騒がしいかもしれないけれど、酒場の隣よりは断然マシですわね。
「カイル、此処が宜しいんじゃないかしら?」
「そうだな」
「此処ですと、月金貨23枚となりますが」
「こちらをお借り致します」
「畏まりました。契約者はカイル様で問題はありませんでしょうか」
「問題ありません。売り物は隣にいるリディアが用意してくれますので」
「畏まりました」
あら?
もっと何を売るのかとか聞いてくると思いましたのにスンナリ通りましたわ。何故かしら?
首を傾げつつカイルを見つめると、にっこりとした笑顔を向けられるだけで意味が分かりませんわ。
しかも商業ギルドにカイルが登録し、店舗の金貨23枚プラス2枚心づけで渡したカイルに職員の方はニコニコしていて、契約が完了すると本日から使えることになりましたの。
更に、カイルが商業ギルドに登録したことで、店舗に並べる商品に関しては「道具屋」と登録したこともあり、アレコレ聞かれることもありませんでしたわ。
「こちらが鍵となります」
「有難うございます」
「冒険者をしながら店は妹に任せるというのは、いい案でしたね」
「ははは」
――なるほど!!
わたくしとカイルの髪の色や瞳の色が似ているから、職員が勝手に兄妹と勘違いしましたのね!
道理で箱庭師と言葉がでなくともスンナリ借りれたはずですわ!
「後は毎月の家賃の他に、商業ギルドに納める一定金額の登録料が掛かりますがよろしいですね」
「ええ、家賃に金貨23枚、ギルドに納める金額は月銀貨10枚ですね」
「お忘れなく」
「畏まりました」
――こうして、アッサリ店舗兼住居も手に入れたわたくし達は、その足で路地裏に入って即箱庭に向かいましたわ。
今まで興奮で叫び声を上げたくて仕方なかったのを我慢していた事もあり、箱庭に着いた途端「やったわ――!!」と叫んでしまいましたわ!
「凄いですわカイル! アッサリでしたわ!」
「あちらが勝手に俺たちを兄妹と間違えてくれたおかげでスンナリだったな。後は俺の冒険者ランクも関係しているだろう」
「そう言えばカイルの冒険者ランク聞いてませんでしたわ」
「俺はBランクだ」
「結構上ですのね……」
「ああ、もう上に行くことは無いがな」
何処か諦めた様子の喋り方でしたけれど、カイルは腕を鈍らせるような真似はしないだろうと判断し、此処まで色々して貰ったお礼にと、カイルに金貨5枚を先に渡しましたの。
だって、男の人の一人暮らしをするにしても、着替えは何とかした方が良いと思ったのよ。
「家具はわたくしから全部プレゼント致しますわ! その金貨はボーナスですわ!」
「ぼーなす?」
「よく働いてくださった特典ですわね! 貴方がいらっしゃらなかったら此処まで一日に進みませんでしたわ! 後はそうですわね、服を買ってきていただけたら助かりますわ」
「じゃあ店が閉まる前に服を買いに行こう。リディアは買わなくていいのか?」
「平民に落とされた時に既に購入致しましたわ。それと、鞄ですけれど、わたくしからこちらをプレゼントさせて頂いても宜しいかしら?」
そう言うと机の上に置いておいた鞄を持ってくると、カイルに手渡しましたの。
カイルは不思議そうにしながら鞄を開くと、沈黙してから鞄を閉めましたわ。
どうかしたかしら?
「リディア」
「何かしら?」
「これは、アイテムボックスと呼ばれる」
「よくお解りになりましたわね!」
「これは流石に高額過ぎるんじゃないか?」
「そんなことありませんわ、手作りですもの」
「あ――……なるほど」
「それに、わたくしの箱庭は広くて作業も多いでしょう? アイテムボックスがあった方が、都合が宜しいのよ?」
「確かに言われてみればそうだ。有難く借りるよ」
「差し上げますわ。今日のお礼ですわ」
「金貨5枚も貰った上にアイテムボックスまでは流石に貰えない」
「でしたら、今後の貴方の働きに期待して」
そう告げるとカイルは苦笑いを零し「シッカリ頑張らないとな」と告げて鞄を受け取りましたわ。
その後カイルは服を買いに出かけ、その間に趣味で作っておいた家具一式を用意しておきましたわ。毛布もベッドもわたくしのお手製だけど、とっても眠りやすくってよ!
だって日本にあるベッドのスプリングとか色々組み込んでますものね!
家具と寝具一式を用意し終わる頃にカイルは戻ってきて、用意された家具を見て驚きはしていたものの、「働いてこの恩に報いよう」と言ってくれたのが嬉しかったですわ。
そして夜、ロストテクノロジーを使いクリスタルと材料で料理を作りお皿に盛りつけていくと「料理までスキルで作れるのか!」と驚いていましたけれど、絶対美味しいですわよ?
あら、男性は胃袋を掴めと仰いますけど、掴んじゃうかしら?
そんな事を思いつつ、カイルは家具と寝具一式を鞄に入れて店舗の方へと戻り、その日はグッスリと眠りにつきましたわ。
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夕方に@1更新予定です。
全て盾に任せておけばいいのよ!
トントン拍子に進んでますが、気楽にお読めるように
書けれたらいいなぁ。
まだカイルと出会って1日経ってないという話の長さよ。
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