第8話 少女

 ──昨日の一件から時間をおいて翌日。

 俺は学園が設けてくれた、学園寮にて、朝日に鬱陶しさを感じていた。

 眠気眼を擦り、白を基調として灰色が少し……いや、結構大胆に入った制服を着る。

 学年とクラスを現すネクタイピンを付けて、鞄を持ち、気怠げに欠伸をしながら玄関の押し戸を開ける。

 そして、一気に差し込んで来た朝日によるホワイトアウトに目を瞑る。

 それに慣れを感じて目を開けると、其処には少女がいた。


 制服の上に、肩と肩から下に分かれたローブを羽織り、アイスブルーのショートボブに白色黒チェックのカチューシャを付けた俺よりも少し背の低い少女。


 俺はその状況に首を傾げる。

 えっと……誰?


 そこに立つ謎の少女は、髪と同系色の瞳で俺の眼を見つめて一言。


 「……おはようございます。快調な朝ですね。」

 「うん、そうだね。君の名は?」


 俺は間を置く事無く名を訪ねる。

 すると何と言ったか、「学校へ行きましょう。」と無視を決め込むのだ。

 いや、質問に答えてくれよ。

 俺の言葉は何の念も籠っていないのか、将又、彼女が只々俺を無視したいだけなのか。


 「いや、名を言えよ。」

 「……我儘な……仕様が無いですね、答えてあげましょう。」

 「いや、お前も十分我儘だと思うが。」

 「私の名前は、神咲 月夜と言います。では、学校へ行きましょう。」

 「我儘……と言うより、マイペースだな。」


 俺はそう呟くと、確かに早く行った方がいいと思い、寮室の鍵を閉めて、足を動かし一歩を踏み出す。

 すれば、少女──月夜が付いて来る。

 お前はスライムか?


 と言うか、何故俺の寮室を知っていたのだろう?

 そして、俺に何の様だろうか?


 「あー、なんか用事があるんじゃないのか?」


 俺が問うと、詰まらなそうに半開いている瞳が少しだけ広がる。

 ブルーな瞳を向けて月夜は口を開いた。


 「そうだった、忘れていた。貴方にお願いがあってきた。」

 「お願い? 何だそれ?」


 俺は月夜の言葉に首を傾げ乍ら振り向く。

 俺の顔を見ると間をおいて、ゆっくりと話し始める。


 「順を追って説明すると、私は貴方の隣のクラスの生徒。Bクラス。だけど、私はAに至る程の実力を持っていると思う。だから、あなたと一緒に『功績』を作りたいの。」

 「……『功績』?」

 「……。」


 コクリと頷く彼女は続ける。


 「あの学校には、この世界に蔓延る様になった魔物を倒さなければいけないという使命がある。だから、あなたとパーティーを組んで一緒に功績を作りたいの。」

 「そう言う事か。別にいいが、なぜ俺となんだ?」

 「……Aクラスだから?」

 「そんないい物なのか?」

 「勿論!!」


 食い気味に答えをくれる。

 わざわざ俺の方に身を寄せ、その双丘を揺らしながら。

 あまり近付くな。

 セクハラ呼ばわりされる。


 「とは言うが、別段変わった事なんてないと思うが、、、。」

 「ある。Aクラスの生徒はずば抜けて実力のある人間ばかり。」

 「ふむ、そう……なのか……?」


 ヤバイ、全員五十歩百歩、どんぐりの背比べ的に力が無さ過ぎてわからん。

 何だったら此奴も……って、確かに、その実力にそこまでかけ離れた物は感じられない。

 ただ、少し筋力が乏しく感じる。


 「あまり近接戦闘は得意じゃないだろ?」

 「え、何で分かったの?」

 「歩き方と、魔力の質……かな?」

 「あ、歩き方……?」


 そう、本来であれば、近接が得意であれば自然とそれに近しい強い一歩になる筈なのだ。

 だが、月夜はとても優しいと言うか、一歩一歩が軽い。

 つまり、近接、と言うよりは魔法などの補助や支援と言った、遠距離特価だろう。

 遠距離で言えば、あのクラスの誰よりも優れているだろう。

 だが、多分あの学園は全ての総合評価によってクラス分けが成されているのだろうと思う。


 「まあ、とりあえず、パーティーの話はいいぞ?」

 「え、オーケー?」

 「ああ。」


 俺の返事に、目を輝かせて喜ぶ月夜。

 だが、未だそう言った事は許されていないのではないか?


 「ああ、それなら大丈夫。」

 「大丈夫?」

 「うん。C~Aクラスの人間は入学してすぐパーティーを組んで魔物狩りが出来る。」

 「そうなのか。」


 つくづく俺の知らない事ばかりだ。

 だが、確かにそれはいいかもしれない。

 じゃあ、今日からでもいいのだろうか?


 月夜に聞いてみれば、大丈夫らしい。


 それならば、なるべく早くやってみたい。

 今日の放課後にでもやってみようか?


 月夜はどうだろう。


 「……私はいつでも行ける。」


 だそうだ。

 なら、思い立ったが吉日。

 放課後直ぐに魔物狩りだ!


 そうして俺は、何も知らず今日という一日の始まりを歩み始めたのだった。

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