第6話 挑戦

──忽然と姿を現した青年に俺は、鼻で嗤われた。

何故だろう?

え、俺って、そんな面白い顔してる?

今度は笑われるようになっちゃってる感じ?


「俺って、そんな、嗤われる様な事したか?」

「いや、逆だ。君は何もしていないだろう?」

「……何もしていないとは……?」


何においてだろうか……?


「この空間で君だけが何もしていない、という事さ。」

「え、俺はっ?」

「君は少し黙っていてくれるか?」

「ひっでえ!」


昴を切り捨てる様にして俺に蔑みの視線を送ってくる青年。

いや、何様だよ。

と言うか、この惨状を見て参加しようと思うやつはいないだろう……。


クレータだらけだぞ?


「それに、君からは《覇気》を感じない。」

「《覇気》を感じない?」


俺はその言葉に首を傾げた。

何故なら、俺は別に能力を抑えている訳でも無いため普通に見える筈だからだ。

それが見えないと言うならかなりの節穴か、もしくは俺の実力が測れない程の雑魚か……。

まあどちらでもいいが、これだけは訊きたい……。


「そういえば、お前誰だ?」


俺は心底わからんと言ったように、聞き方によれば馬鹿っぽく感じる様な声で問うた。

瞬間、あれ程蔑む様な顔をしていた筈の青年が石像の如く白く固まる。

……もしかして、これって俺あんまり訊いちゃいけない、と言うか、非常識的な発言だったか?


「……ハ、ハハ、そういえば名乗っていなかった、ねっっ!」


引き攣った顔で俺を力強く睨んでくる青年に少し申し訳なさを感じる。

えっと……ごめんな?


「僕の名前は、小枝 風真だ。以後お見知りおき……をっっっ!!」


やべっ、なんか結構怒ってるっぽい。


強い睨みつけに俺は苦笑いを受けべながら、「よ、よろしく……」と一言返しておく。

だが、その腹癒せか、それとも俺が無礼なのか、小枝が俺に向かってニヤリと怪しい笑みを浮かべ、一言叫ぶ。


「僕が名乗ったのだ! 君も名乗りたまえ!!」


うん、完全に腹癒せだな。

俺、理解力あるからわかるよ。


そんなプルプルと振るえる小枝に名を名乗る。


「えっと……三簾 世冥と言うます。」


俺は脳死でそんな風に呟いて苦笑いを自然にしようと必死に顔を解す。


「言『い』ますだろ! 『う』ではない!」


いや其処かよ!?

普通俺の態度とかを注意しません???

いや、気にしたら負けか……。


と言うか、失礼と自分で分かっているのはどうなんだ……?


「まあいい、そこまで嘗めた様な口を利くなら、僕に君の力を見せてくれるかな?」


ニヤニヤと笑みを作る小枝を見て、本格的に俺の事を見縊っている事を理解する。

それならば、と俺は首を縦に振る。


「いいぞ。それなら、お前の力も見せてくれよ?」


俺の言葉に得意げに頷く小枝。

もしかしたら、強すぎて俺の力がない様に見えるのかもしれない。

そして、俺に見えている雛にも劣る程の小枝のオーラは俺の未熟さ故かもしれない。

なればこそ、いざ尋常に!


「なら、僕から行くぞ。しっかりガードを固める事だなぁ!!」


右手を此方に、向けて、一つの魔法陣を宙に描く。


「【石竜子吐炎サラマンダー・フレイム】!」


刹那、此方に向かって炎の螺旋が向かってくる。

それに飲み込まれれば、大多数は塵と化すだろう。

だが、俺は特に危惧する事は無かったと安堵の溜息をつく。

気付けば俺は灼熱の炎に飲み込まれていた。


だが──。


「まったく、服が燃えるから火炎系はやめて欲しかったんだがな……。」


俺はそう呟いて右手を前方向に擡げる。

そのまま何かを薙ぎ払う様に右方向に腕を振るった。

すると、俺の周りを取り巻いていた炎が、内側から食い破られたかのように消滅していく。


「なっ……!?」


ありえないと言った風に声を上げた小枝に俺は告げる。


「もう終わりか? まだだよな……来い。」


瞬間、小枝が俺を睨み据えて本気の魔法を構築し始めた。

どうやら俺の意見を聞いて貰えたようで、今度は水属性魔法だった。


「ならば本気で行くぞ!!」


こうして非公式でありつつ、完全公式な決闘が始まった。

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