第28話 駄肉女神、憧れの神に愛を諭される。

その翌日、珍しく私宛の手紙が届いたという事で執務室へと向かった。

ニヤニヤしているタイリアとエルナに首を傾げつつ差出人を見ると――ナヌーサ様からの手紙だった!

慌てて中を読むと、どうやら私とエルグランド様の出会いやこれまでの事を教えて欲しい、その為に面会の許可を頂きたいという旨だった。



「お返事はどう、」

「是非に!」



憧れのナヌーサ様に会えるのなら幾らでも話しましょう!!

エルグランド様も相談すると渋々了承をしてくれましたし問題はありませんね!!

直ぐにお返事を飛ばし、その二日後にナヌーサ様がお越しになりました。

確かに……身長は優に2メートル強の筋肉隆々な色黒の胸毛も体毛も濃い男性でした。



「は……初めましてフィフィ様。筆の神のナヌーサで御座います」

「初めましてナヌーサ様! 私あなたの昔からのファンなんですよ!」

「まぁ! 嬉しい!」

「今日は私とエルグランド様の話が聞きたいとの事で、出来うる限りの話をさせて頂きます! そうですよね? エルグランド様?」



隣に座るエルグランド様は少々威圧を出していますが、私が足を叩くとハッとしたのか「うむ!」と返事を返してくれた。

ナヌーサ様は可愛らしいノートを取り出し、早速インタビューと言う名の聞き取り調査が始まりました。

出会い、そして妻にする経緯、エルグランド様の歪んで病んだ愛、語られる内容にナヌーサ様は「まぁまぁ!」と顔を赤くしながらメモを取って行かれます。

隠すことなく愛を語るエルグランド様とは対照的に、私は要点を纏めて解説するとナヌーサ様は笑い出し、メモを取りながら嬉しそうに私たちと見つめてきますわ。



「余程激しく愛されて言いますのね、フィフィ様」

「高カロリーで胸焼けしそうですが」

「けれど、神々の愛とはどれも高カロリーで女神的には体重オーバーしそうな愛ですわよね」

「ええ、その通りです。まるでラードの様な脂肪の塊です」

「なる程、それでは時折あっさりとした愛も欲しくもなりますわよね」

「そうですね、胃もたれせずあっさりとした愛は望ましい所です。スッキリした味わいの愛も欲しい所ですね」

「分かりますわ……重たいだけだと胸やけしますものね」

「そうなんですよ……」

「俺はこれでも愛情を抑えている方だと思うが……」

「これですよコレ、重いんです」

「そうね、確かに重いわ」



満場一致。

私とナヌーサ様はうんうんと頷きあいました。

愛はお互いが思い合って、どちらかが重いのではダメなのです。

お互いが丁度いい塩梅でやるのが好ましい。

その点、ナヌーサ様の恋愛小説はその塩梅が取れていて読んでいてホッとすると言うべきか。

そう語ると、ナヌーサ様は頷きつつ「砂糖や塩加減は大事よね」と語られた。



「スパイシーな恋愛も、甘い恋愛も、ちょっと塩が強い恋愛も色々あるけれど、ラードは無いわ」

「ラードは無いですよね」

「脂身だけの恋愛って胃もたれするのよね」

「分かります」

「エルグランド様は脂身タイプだったのね」

「その通りです」

「やめろ、俺の事をまるで油の塊のように言うは!」

「事実ですわ」

「だからよく燃やされていたんですね私」

「燃えるような愛が本当に燃やされていた愛だったのね……」

「着火剤かと思うくらいには」

「あらまぁ」

「程よい愛と言うのは、存外難しいものなんでしょうか?」



そうナヌーサ様に問いかけると、ナヌーサ様は暫く考え込んだ後、「そうですわね」と口にして私と向き合いました。

何か案でもあるのでしょうか。



「愛は真心なの」

「真心」

「釣った魚に餌をやらない神も多い中、ラードでも愛をくれるエルグランド様は素敵だと思うわ」

「まぁ、確かに釣った魚に餌をやらない愛よりは……」

「それに、愛情で太る事は神々では早々ないわ」

「そうですね」

「でも、あなたの表現は好きよ? 高カロリーでカロリーオーバーな愛情なんて、フフフ!」

「有難うございます?」

「是非小説で使わせて欲しいわ、良いかしら?」

「はい」

「けどそうね、エルグランド様の真心はとってもとっても重たいの。それを一身に受けると、胸やけもしそうになるのも分かるわ。けど、彼は素直なのよ。素直で真っ直ぐだから重たいの」

「素直で真っ直ぐ……」

「その特権を貰えるのはフィフィ様のみ。これはとっても尊いわ」



その言葉に隣に座るエルグランド様を見ると、他の神に言われると恥ずかしいのか頬を染めていらっしゃる……。

尊い……? とても重いじゃなくて?



「ただ……総じてそう言う男性は子供が生まれると落ち着くのよ。やっと自分から離れないって言う自信がつくの。それでも重たい人は、特殊ね」

「特殊……」

「所謂、病んでるって奴ね」

「病んでる……」

「一生治らない病気だわ。それを受け止めるのも妻の役目でもあるの。聞いた限りだと、エルグランド様は、そこそこ、病んでいらっしゃると思うわ」

「やっぱり……」

「でも貴女の事を優先してくれる素晴らしい病み具合よ。自信を持って!」

「そうします」

「私はヤンデレにも幾つか名をつけているのだけれど、普通のヤンデレ、執着系ヤンデレ、粘着系ヤンデレ、それに……純粋系ヤンデレとあると思うの。エルグランド様は純粋系ヤンデレね」

「純粋系……」

「全ての病みは天然物だけど、尤も厄介なのが純粋系だと思うわ。純粋系に愛されたら諦めて愛を受け取ってね」



つまり、逃げられないって訳ですね?

がっくりと肩を落とすとナヌーサ様は笑いながら私たち二人を見つめ、強く頷きました。

そしてエルグランド様には「素晴らしい奥方だと思います」と伝えると、どうやら少し満足した様子。

フォローも忘れない気遣い……流石ですナヌーサ様!!

そして面会時間も近づいてきたところで、最後に私たちの小説を書いていいかと言う質問が飛び、エルグランド様は了承して二人が握手を交わし合ってから会話は終わりました。

帰り際に「あなた達をモデルにした小説楽しみにしていてね」と言われてテンション上がります!!

一体どんな素敵な小説に出来上がるんだろう!

色々ぼかして書いてくれると良いな!!

夜の事情とかアレコレとか!!



「うむ! ナヌーサ様は良く分かっていらっしゃる男神だったな!」

「そうですね!! 素晴らしい方です!!」

「俺も一つ勉強になった。俺は純粋系ヤンデレだったのだな」

「誇っていい事ではないですが」

「俺の愛は真心だ! 全てフィフィに注がれる真心だ! 是非全て受け取ってくれ!」

「重たいなぁ……」



そんな事を語り合いつつも、多少呆れつつも少年のように笑うエルグランド様に、「仕方ないなぁ」と思える所で、私も随分と大人になったように思えます。



「太陽光線で焼かれない程度の真心にして下さいよ? シミになりますから」

「気をつけよう」



そう言って私の肩を抱き寄せ歩くエルグランド様に、少々自分が折れないといけないところは折れないとなぁ……と改めて思った半年後――。


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