クラスチェンジ
「さっそく反応があった」
「もう?」
「うん、マザーに届くには良くも悪くも一騎討ち後だし」
放課後、【衣裳研究部】にて。
あと一時間足らずで完全下校時間に迫っていた頃。二人の女子生徒が一台のPCの前で釘付けになっていた。
【勇者】
二人は【勇者】になってからというもの、恋心に向き合い続け、やっぱり【魔王】が忘れれないと落ち込んだ日々にさよならをし、努力し続けていた。
「あちゃー、やっぱり赤木さんだった」
「やっちゃったかー」
「しかも平手打ち」
「足す、罵倒…」
「これは白も黙ってないかも」
二人はPCから携帯デバイスに視線を移し、他の情報をさらっていた。
【人和黎明学園】では入学と同時に生徒は携帯型デバイス、【モノリス】を渡される。
スマホのような外観のモノリスは学園の生徒である証明として主に扱われていた。
モノリス内の情報は、学園内のビッグデータ管理システム【マザー】によって管理され、プロフィール、成績、ステータスなど、個人の情報がつぶさに表示される。
仮にもし虚偽などがあった場合は、虚偽情報討伐部隊、通称【暗部】によって暴かれ物理的に修正されていたため全ての生徒に信頼されていた。
その他、保護者の銀行などと紐付けられており、学食や日々の消耗品など提携先で支払いが可能な便利な端末であった。
マザーはモノリスを通して学園内にある様々なメール、掲示板、SNS、つぶやきなどを常に監視しており、他者から見た自身の評価などをリアルタイムで更新し続け、モノリスに返していた。
【勇者】とは玉砕した瞬間からホットワードに上がるため、モノリスにもすぐに反映されてしまう。
人は一次情報を信じやすく、玉砕後自身が変わったと認めても他者の評価が変わらない限り【勇者】以外に成れない。
変わるには、大多数の学生の認識を変えなければならず、通称【クラスチェンジ】と呼ばれるマザーによる認識変更認定を通さないと、【勇者】となったままであった。
時間とともに人々からの関心がなくなり【元勇者】になる事は知っていた。もっとも【元勇者】であっても大概いやなのだ。花のJKなのだし。
自分たちの経験を踏まえ、事前に赤木にはそれとなく伝えてきたのだ。【勇者】になると変えるのが大変だと。
「でもやっぱりチャンス、ね」
「赤木さんには悪いけど、ね」
【勇者】の二人は虎視眈々と自身の呼び名が変わる確率の高い日を狙っていた。特に新たな【勇者】誕生の時は評価は裏返りやすい。
赤木にはもちろんきちんと誠意を持って伝えていた。そもそも二人は他人を頼るつもりは無かったのだ。元【勇者】としても有名な【妖精】も【女王】も他人に頼らずとも魔王と近くなった。そこには憧れもあった。皆【勇者】の時より圧倒的に可愛くなったからだ。
二人は同じ部活、同じような境遇、似通っていた背格好を利用し、新しい二つ名を浸透させる為の根回しを既に終えていた。本日、勇者誕生が起きたため、プランBに急遽変更した。
だが、いざその時になって、自身も通った別れのシーンを思い出し、お互い顔を見合わせて少し躊躇う。
もう乗り越えたのだが、やはり思うところはあるらしい。まあ躊躇うのは今からアップするデータのせいもあるが。
元々は貞淑な思想であったため、蟻の一穴を開けるジャンルを見つけた際には二人して頭を抱えてしまっていた。だがこのジャンルこそ未開。しかも似通った二人だけで独占出来るからと、なりふり構わず走ってきた。
二人は頬を赤らめ、明日からの私達は本当のことを意味で変わるのだと自分に言い聞かせて決意を固める。
「いくわよ、いい?」
「ええ、いつでも」
「じゃあ…」
「「Uploadッ」」
声を揃えて祈るようにボタンをタップした。拡散して欲しいからと、動画データはクオリティが損なわれない程度に可能な限り軽くした。
データの表層は【勇者】の事ばかり、だからこそ飽きやすい一定数が、時間とともに新しい情報を探しに出てくる。早ければ数時間内に。そこを狙って放たれた一撃。
どうか魔王様、誤解しないで、と。
どうか魔王様だけ誤解して、と。
どうか誤解したまま私達をフィッシュオンして、と。
二人は顔を見合わせ、どうかこの思いが届きますように、とお互いの手の平を合わせて魔王を思った。
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