新勇者
─
称号 / 勇者
学年 / 高等部 - 一年
◆
「はぁ」
さっきまでの勢いはどこへやら。
部室に向かいながらトボトボと歩く。
頭に血が昇ってからは心が身体を動かしていた。
そんな自分に驚き、自分のことが信じられなくなっていた。
モノリスでプロフィールを確認する。
指星先輩をぶん殴ってわずか数十分しか経ってないのに、【勇者】赤木 明日那となっていた。
はあ。
【女戦士】よりいっか…
放課後であり、生徒の大半は見ていなかったのに、もうこれだ。
【マザー】は事前に未来を読む、と噂されていた。今日の事には予測がついていたのだろうか。
「未来先取りじゃん」
どうにもならないどうでもいい事を呟く。
マザーに読まれていたのかと思うとなんか腹立たしい。
そのまま部室に向かう気にもならず、途中にある庭園内の【東屋】で休憩しよう。なんか疲れたし。誰もいないし、ちょうど良い。
何も考えられない。ボーっとしよう。
モノリスには通知が相次ぎ、間違いなく本日放課後の主役は私となっていた。
この学園の生徒は1番になりたい人ばかりで、私も注目を集めたい性分だったから中等部からの編入組だった。
だけどなあ。こんな注目は要らないなあ。
書き込みを見るとぐぬぬ…
「煽りやがって…今どんな気持ち?あぁん?負け犬だよ!こんちくしょー!」
あー腹立つ。
ふと、モノリスに表示された見慣れないアイコン。
「何これ?…あぁ、これが聖剣か」
勇者誕生とともに専用掲示板が開かれるのは知っていた。
勇者専用掲示板、【聖剣】。
開きながらブツブツと文句が溢れてきた。
「ほんと信じらんない。なんなのあの首。キスマークってもっと可愛い自己主張の表れじゃん。それなのに、相手の迷惑も考えずに、ほんとなんなの、もはや柄じゃん」
指星先輩に仲良くしてる人が複数いるのは知っていた。知っていて近づいたのだし。それでも一度だけで良いからと言って抱いてもらった。それを初恋の思い出にしたいと願って。
そうしたら、そうじゃなかった。
私の想像など遥かに超えた幸せがそこにあった。心と身体が同じ沸点に達するとこんなにも幸せなのだと知らなかった。
満たされた気持ちが溢れて零れ落ちるようだった。少しも零すものかと必死に意識を保った。
その日一日は私史上、もっとも幸福な日に制定された。のに。
「みんな同じ気持ちになったのかな」
【聖剣】に入れるという事は魔王と一戦はしたのだろう。在籍数は六人。今日のキスマークを見てからか、あまり嫉妬は湧かない。むしろ同志と傷の舐め合いをしたいくらいだ。
すぐさま事情を書き込む。反応は早く、皆一様に慰めのコメントをくれた。そんな中、良くしてくれていた二人の勇者の反応が薄い。
何か申し訳なさを感じる様なレスがくる。
この勇者二人は事前にさまざまな事を教えてくれていた。避妊の仕方から称号についてなど、私が経験するであろう事柄をつぶさに伝えてくれていたのだ。
そのせいか、意識を失わずに済んだ。どう見ても恥ずかしがり屋の二人は、それでも必要だからと恥じらいながらも教えてくれた。
先に経験している事実に、私は苦しんだけど、もっと苦しんでいる二人を見て、こうはなるまいと心の奥では見下し、心の平穏を保っていたのだ。
今思えばそれも罠だったのかもしれない。こんなにも理性が飛ぶなんて信じられなかった。二人は知っていたのだろうか。
もっと先に言ってよ!なんて言えば、だからあれだけ言ったよね、聞かなかったよね。聞かなかったの誰だろうね。なんて返されるのだろうか。
罠なわけないか。はあ。
そんな二人のアイコンを眺めていると急にアイコンが消えた。一瞬何が起きたかわからず戸惑っていたけど、他の勇者が教えてくれた。
「クラスチェンジ…」
二人は事前に脱【勇者】を狙う、と言っていた。【勇者】が外れると聖剣から弾き出される、とも。彼女達は願いを叶えたのだ。
「えー、信じらんない……。けど、そっか。おめでとう、で良いのかな」
脱力して書き込む。
とりあえず今は【聖剣】だ。
パラメータは上った。私tueeeeだ。
むしゃくしゃするから今日はぶった斬ってやる。50から行けないって言ってたな。…逆に50までは行けるのか。
はぁ…くそっ
この
私はこの【聖剣】で決断する!
まずは50まで行ってやる!
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