聖女
「お疲れ様です」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様ー」
「お疲れー」
「お疲れ様」
学園内、部室棟。
奥まったところにある文芸部の部室。
最後の生徒が出たのを確認してからモノリスでロックする。
部長及び部活内の役職持ちのみ扉の開け閉めが出来るのだ。
モノリスから認証を得た事を確認して歩み始める。
「はい、お疲れ様でした」
ニコニコとした相貌は崩さずに部員たちに答える。
【聖女】
二年生にして早くも部長を務めていた。
さらさらと流れる黒髪ストレートヘアは腰まで伸び、前髪は少し短めに切り揃えているため、穏やかな目元がはっきりと見えている。右のこめかみあたりのみ髪を伸ばし、総のように編み込みをしていて、鈍色のコンチョがついたヘアゴムで留めていた。
常にニコニコとしていて、誰にでも優しく受け答えし、根っからの聞き上手でもあった。
告白件数第二位ではあるものの。過ぎた謙遜はせず、八方美人にならないくらいの器用さで同性にも敵を作らない事から【聖女】の称号を得ていた。
体型は【女神】と競えるくらいの胸部をしているが、お尻は【女神】より大きい安産型だ。自身ではチャームポイントとして捉えているため、あんまり気にしていない。
制服はピシっと基準値に合わせ、清楚な印象を心掛けているが、スタイルのせいで逆にそそると男子掲示板には書かれていた。
わいわいと部活仲間に囲まれながら帰宅の途に着いた。いつもはたわいのないぐだぐだと中身のない会話をしながらの帰宅だったが、今日は別だ。
誰が話題に出すか、少し牽制しながらの帰宅となった。もちろん話題は【勇者】の件だ。
仕方なく月奈からきりだした。
「…最近、早くないかな」
「やっぱりそうですよね?」
「思ってました」
「うんうん」
進級して一月、【魔王】が活発的で話題に事欠かない。青春とは生まれた時からの幼馴染であったが、中等部の頃、興味を惹きつけたいが為にした行為によって傷付けた事があった。
たまたま家庭内での問題と重なってしまい、結果、青春は酷く人間不信になり、それ以来疎遠になってしまった。やっと同じクラスになれたが、様子を見るにまだ完全には回復していないようだった。
「でもあの指星がヤリチンなんてねー」
「見た目草食なのにね」
「ほら優しいから相手が勘違いしたんじゃないかな」
青春は受け身だ。初等部の頃の積極性は失われていた。逆に女子が違う意味で積極的だ。月奈は、はあ。と溜息を見えないようについていた。
「いや、でもヤリチンはちょっと」
「うちら未知だし」
「断れない人なんだよ」
今の時代、重婚も珍しくない。けどそれは困る。断ってもらう。と改めて認識する。
「月奈は優しいなぁ」
「そんな庇わなくても良くない?」
「そうかな?」
「そうだよ」
話しを振ったのは青春との距離を正常なものとしたい自分へのヒントが欲しかった月奈。
そのヒントを常に探しているが、毎日毎日毎日、部員に言うわけにもいかず、【勇者】誕生があったため話題に出したのだ。
でも失敗だった。どうしても肉感的な話になってしまう。その事実に月奈はやっぱり嫉妬していた。
どうすれば昔のように戻れるのか。昔は私だけを見ていてくれたのに。といつも月奈は後悔で一杯になる。そして最後はいつもこうなる。
愛を囁いてくれた。他なんて目もくれなかった。もっと愛を求めたが故に私はやり過ぎた。と。
彼は離れてしまった。【魔王】を産んだ一因が【聖女】だと知ったら、みんなどう思うのだろうか。と。
グルグルと思いと記憶がループしてしまう。こんなにループするくらいならあの間違えた時点にタイムリープして欲しいと願う。
よし、ならやっぱり【花園】の攻略だ、と。
◆
月奈はいつの間にかさよならした部員たちに気づいた時、会いたくない人にあってしまった。
「月奈ー、今帰り?」
「……いまかえり…だよ」
もう一人の幼馴染が部活帰りに声をかけてきた。苛立つ気持ちがおうむ返しにさせてしまうが途中で持ち直した。
いつもはわざとずらして遭遇しない様に気をつけていたが、今日は【花園】を覗いていたため、遅くなってしまった。
これから攻略があるのに。ついてない。
死んだらいいのに。こいつ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます