ダブルアタック
あと少しで教室にたどり着こうとした時、凛とした声が響いた。
「おはよう」
愛衣子だった。
「おはよ、愛衣子」
「おはようございます」
あいさつはすれど、隣にいる月奈に視線を固定していた。徐に近づき、いや、近づき過ぎじゃない? 乳同士が触れてるんだけど。
「なんで一緒にいるの?」
「ああ、それは」
「アオハルは黙ってて」
「…はぃ」
似たようなスタイルのせいか、圧が凄い。
愛衣子の視線をモノともせずに、月奈は自信を持って応対する。
「で?」
「私、取り戻したいの」
「あなたにそんな資格があるとでも?」
「あるの。今日の朝、急に称号が馴染んだの」
「ちゃんとわかってるの?」
「うん、やっとみんなに並べたの」
「…そう、なら良いわ」
「愛衣ちゃん。いままでごめんなさい。」
会話の内容から愛衣子が許したのはわかった。
が、馴染むがわからない。
多分称号の事だと思うけど、え?なんかこれ意味あったの?
魔王(笑)みたいに、ただの嫌がらせかと思ってだんだけど。違うの?
僕を放置している二人を眺めていると横合いから【勇者】高梨花梨と【勇者】幡手果南がやってきた。
「ユビくーん、おはー」
「ユビさーん、おはょー」
いつもなら制服をきっちり着ていて、どこかオドオドとした態度で接してきていた二人がスッキリとした表情とともに軽快に挨拶を口にした。
いや、それよりも気になる事がある。
二人は改造制服になっていた。
具体的にはほぼメイドだった。
え? …それ大丈夫なの?
二人をこうして見るとまるで双子のようだった。鏡合わせのような髪型もバッチリ決まっていて、メイドのような制服がよく似合っていた。
いや似合うんだけど。
「おはよう、二人とも……その格好どしたの?」
「ふふん、ねー?」
「ねー?」
どこか誇らしげで、ワクワク感が溢れている。超嬉しそう。照れなんて一切ない。というかその格好は大丈夫なの? あ、いや【GATE】を通れてるし大丈夫なのか。
「「私たち、勇者、辞めました!」」
「ぉおー?、めでと?う?」
いや、違う。その格好の方が気になるんだ。いや、勇者を辞めれたのも驚きだし気になるけど。
そもそも自薦で辞めれたっけか。
服が気になりすぎて祝いの言葉も中途半端になった。二人は一切格好には触れず、モノリスを差し出しながら小声で伝えてきた。
うん?
「ね、手、貸して。」
「? いいけど」
二人は片手ずつ持ち、僕の人差し指だけを伸ばしてモノリスの画面に触れさせた。
「「コントラクト」」
『…確認しています。……認証しました』
「やったあーいぇーいっ!」
「いぇーいっ! 契約成立ですー!」
「契約?!」
学生にはあまりにも物騒な言葉が聞こえてきた。二人とも騙すような人じゃないし、何より清楚な二人のいぇーいがびっくりなんだけど。
もうテンションのインフレが留まるところを知らない感じ。それにモノリスから合成音声で認証って。
「うん、そうです。契約。正しくは隷属、です」
「そうそう。ユビくんだけが私たちのご主人様」
「……」
「結構、賭けだったけど勝ちました!ぱちぱち!」
「あードキドキしたー。ユビくんにはデメ無いからね。あ、正しくは蔑ろにしない限り、だけど」
ウインクとともに衝撃的な事をさらりと伝えてきた。どうやら二人のご主人様になったらしい。朝イチで。
何それ?
あまりにもあんまりな状況についていけていない。あんまり答えてくれない。
なんとなく取り返しがつかない事が起きたのはわかった。
誰か教えてください。
二人は僕に自分のモノリスを見るようにお願いしてきた。
モノリスを開くとさっきまでは無かったアプリがあった。
中に入ると、二人のバストアップの写真がある。
タッチしてみると、全身のシルエットとともにプロフィールが載っていた。
それは別に良い、良いんだけど、明らかに性な部位に%、鍵マーク、開発中マークなどが表示されていた。
「まさか」
「はい。可愛いがられ率です」
「はやく鍵をピッキングしてね」
これ、なんてエロゲ?
僕の内心の疑問は無視して、二人は鏡合わせのように両手を合わせ、ハート型を作ってハモりながら高らかに宣言した。
「「いっぱいいっぱい可愛がってね、魔王様っ!」」
ふと、愛衣子と月奈に目を向けると、二人とも大きく開けた口に手を当て、唖然としていた。
僕も交ぜてください。
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