ジャッジメント

学園に近づくにつれ、生徒が増えてきた。


ここ人和市にある学園には、高中部しか在籍していない。


緩い丘一帯に広がる敷地は高い壁によって丸く縁取られていた。


学校とは名ばかりに中世ヨーロッパの城塞都市の入口みたいな様相だった。


学園がある緩い丘までは路面電車が配置されていて、一番近い駅で降りてから【GATE】を抜け各教室へ向かう。


モノリスが無いと【GATE】を潜れないのだ。





【魔王】と【聖女】が一緒なのが信じられないのだろう。不躾な視線を向けてくる生徒の多いこと、多いこと。


「なあ」

「嫌です」


「まだなんにも言ってないんだけど。いやまあそうなんだけど」

「やっと、やぁーっと叶ったのに、やです」


「でも、その…花園?に書き込まれたり、さ」

「わたし、気にしません。この瞬間の為なら【咎人】に落ちても構いません」


「…覚悟決まり過ぎて怖いよ」



いかな【聖女】とはいえ、学園中の生徒を敵に回す事は裏パラメータのある【−注目度】の項目を貯めることになってしまう。


貯まり過ぎると、一定期間【咎人】という称号になる。これは称号による優遇や各種クーポンや割引が封じられつつ【クエスト】という名のボランティア活動にお呼ばれしてしまう。


これはいわゆる、称号持ちへの特権だ。

待ってないやつは即退学。


高難易度の【クエスト】をこなすと早めに復活できるらしいが、あり得ない事だと大多数が認めた場合は称号は剥奪されやすい。



「そ・れ・よ・りっ!」

「な、何?」


「愛衣ちゃんや美亜ちゃんのことを教えてください」


「二人の何を?」

「トキくんとの相性です」


「相性?」

「身体の相性です」


いきなり大声出すから何事かと思ったが、朝から何を言いだすんだ。


「……48人」

「ん?」


「ヘビーローテーションは、5人」

「……」


「しかもみんな美人で称号持ち」

「………」



人数が当たってるのが怖い。仕方なかったんだよ。何人か勘違いだったんだよ。嘘つけないから頑張るしかなかったんだよ。

てか、この学園美少女しかいないじゃん。


そのニコニコ顔、さっきと違うんだけど。



「今日の放課後はお暇ですか?」

「…あー、あはは、は」


「フォーチュンですね」

「…なぜバレてるし」


今日の放課後は学外にあるフォーチュン学院にお邪魔しないといけない。呼び出しがかかっていたのだ。


「ではお昼休み、アクセス権とナビを発行しますので昼食を食べてから文化ぬ棟11階、Fの間まで来てください」


「…なんで?」


「リアル懺悔室の開廷です」

「なにそれ?」



聖女の有する掲示板に【懺悔室】と呼ばれる板があることは知っていた。それ女子だけの懺悔じゃなかったっけ。


リアルとな?



「我々聖女、及び聖女候補3名以上からの連名での呼び出しはマザーによって承認され、拒否できません」


「月奈一人だと強制出来ないってことでしょ?じゃあ無理じゃん。」


「…はい、たった今、他の聖女との認証が取れました。さあ、マザー!」



素早くモノリスを操作したかと思ったら強引な。マザーと叫んだ月奈のモノリスにエフェクトが走る。呼びかけたら答えた? 何、友達?


すると僕のモノリスから音が鳴る。



「…なんかモノリスから聞いたことのない通知音がしてるんですけど」


「それは、聖女専用緊急招集依頼、【ジャッジメント】の通知音です。ご安心を」


「全然ご安心出来ないんですけど」


どちらかと言うと断罪されそうな名前だし、音なんだけど。音というか音楽なんだけど。なんでそんな機能がモノリスについてんだよ。ただのスマホじゃねーのかよ。


あー、モノリス壊してぇー。


…そういえば過去、追放処分にあった人がそんな音を聞いたって男子掲示板に書いていたような。


「……追放されない?」

「されません」


「…ざまぁされない?」

「されません」


「…私がザマァされちゃうかもです…」

「…」


全然ご安心出来ないよ。何されるんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る