十 ※
次の日。
めでたの
すでに、まわりの者は本家の家臣に代わっているだろう。
フウは白い小袖と
婚礼の儀は、
広間の
フウは
二人の前には、一の盃、二の盃、三の盃を置いた盃台。この盃で三度ずつ神酒を酌み交わす。その
別室では心尽くしの膳が、
茶碗に山盛りの
芋の煮たの。それにウサギを
「うんまいっす」
「
「
「ふぐぐ」
宴会は、
下っ端の
「――
「
「都に近い
「そんな鉄の筒をどうするのじゃ。武家の
おー、という雄叫びが、無意味に入る。
「
「おお、えぇんじゃん。行ったれ!」
「ところで、
もう酔っている男に
「その者は、
やんわりと、
「なら、歓待せねば。ほれ、飲もうぞ。祝いの酒じゃ」
「ん~」
ごっくん。
たちまち飲み干した
「まぁ、
「馴染めるか心配したが、
婚礼の祝いは、夜を徹して行われた。
「下の者には、腹いっぱい食って呑める機会じゃからなぁ」
「まさか、フウさまは、こんな奴らに絡まれとらんね」
「フウさまは奥の間で、女共が接待じゃろ」
「そうか、安心した」
高天に月がかかる
衣擦れの音が遠くなる。
白い小袖姿になったフウを寝所に案内すると、
妙な緊張にフウは胸元から
布団の側に正座して、主人の訪れをを待つ。落ち着かない。
はじめて口に入れた酒を、飲み込まぬつもりが少し飲んでしまい、今になって体が熱い。祝いの膳も、そんなには箸が進むわけがない。余計に酔いはまわってしまった。
床は畳が敷いてあり、吊るされた
枕元にあるのは、両手で持ち上げられるほどの
外の夜気を連れて来たのだろう。夜の匂いがする。
(主さまにお任せしておればよい)
「……」
「フウ、また
フウは
「……落ち着かんので」
「かわいらしい――」
玖八郎は無理に
どうすればいいのかわからぬのに、どうすればいいのかを知っている。
しかし。
「……すまぬ」
「かまいませぬ」
何のことかわからぬが、フウは、そう言っておく。
ぎゅうううううっと、フウを
「少し、飲み過ぎた」
この寝所にたどり着くまでに
その前に父上だ。
杯を勧めてくるし、断ると、
完全に潰された。
しかし、婚儀の夜は、あと一夜ある。明日は――。
フウを
フウも、また、いつの間にか眠ってしまった。
皆がいなくなった広間で、本家当主、
「薄めた酒を、よくうまそうに呑めるなぁ。
「
この二人は昔から、そうだ。
芯から酔ったことなどない。
「よい
「……」
感慨深過ぎて、
白い衣のフウは、自分の婚儀を思い出させた。
あの美しい人を。
「あれは、
「はい」
この男の判断があれば、
「ほんに美しい。あれなら、わしが妻にしてもよかったやぁ。もう側室は、子供を望めぬからな」
「その薄い酒で酔いましたか、
「ここでは、
「そうさせまいと、
「……嘘ではございませぬ」
「そういうことにしとけ」
「
「……」
「まだタオがおる。気長に待とうかの~」
「……酔っておりますね。くはちろう」
静かだが、はっきりと
「怒ったか、
「怒ってはおりませぬ。ただ、しつこいかと」
やっと、
※〈めでたの刻〉 この世界で吉とされる刻
〈直垂〉 上衣と共裂の袴を含めての呼称
〈袖露〉 袖括りの緒
〈小露〉 直垂の飾りの紐
〈鋳鍛〉 鋳造と鍛造
※婚礼の儀は戦国時代を参考
三日の間の細かい儀礼についてはこだわっていない
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