いつも新作が待ちきれないウェス・アンダーソンの「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」見た

The French Dispatch/THE FRENCH DISPATCH OF THE LIBERTY, KANSAS EVENING SUN(2021年製作の映画)

鑑賞:2022.2.8 記事公開:2022.5.3

監督・脚本:ウェス・アンダーソン


今のお洒落映画路線をブッちぎりで独走するウェス・アンダーソンの新作。ハリウッドプライスで出演料を計算したくなる豪華キャストに劇場鑑賞は必然。


題材も見せ方も雑誌をモチーフにした短編集のような作り。

ウェス・アンダーソンは一体何を作ろうとしているのだろう。映画に対する愛は感じるが、反抗しているわけでもない、映画表現を拡張するんだという意気込みを感じるわけでもない。たまたま好きな映画表現で自分の好きなものを自由に作り続けている。それがたまたま革新的な映画表現になっていた。という感じがする。革新的というか独創的というか。オリジナリティが極めて高いことは確かだろう。作家性とも言えるだろうか。それは極めてクリエイティビティが高い、モノづくりで最も価値が高いと思われることで、これだけの俳優が集められるのもやはり彼のクリエイティビティの高さだろう。


映画はかなり情報量が多い。いろいろな文化を雑誌というフィルターで記号化して散りばめたような感じ。そしていちいちそれらの情報量が多い。

画面はビスタサイズ(かな?)の脇の黒みを欄外として扱ったり、ファッションページのようにカラーとモノクロが同じシーンの間でも入れ替わったりとトリッキーな技もあり。もう、アニメパートがある程度では何とも気にならなくなるほど。かといって新しい表現というものに囚われているわけでもなく、いかにも楽しそうにやっているところがやはり凄い。凄すぎるほど凄い。


キャスティングについては書き出したらキリがない。個人的にはレアセドゥ演じるモデル兼女看守の何を考えているかわからず終始不機嫌なキャラクターが良かった。

ついにウェス・アンダーソン作品に参加のティモシー・シャラメは注目だったけど、おっさんなのでそれほどはときめかなかった。フランシス・マクドーマンドとのカップルにも違和感しかなかったけど、フランス映画なんかではおっさんと若い女の子がいい感じになりがちなので、そういうのだろうか。あのエピソード自体はヌーヴェルヴァーグらへんの雰囲気があってよかった。あのパートは何かのオマージュなのだろうか?(オマージュやネタ元を言い始めたらキリがないけど)


みんなで映画を撮るのが楽しくて、一回組んだ人を連続してキャスティングするための構成な気がしないでもない。

ウェス・アンダーソンの新作を一度で3作観れるような贅沢感もある。

お家での見直しも何度でも楽しめそうなので、そういう意味でも贅沢。


あと何作ビル・マーレイの出演作を見れるだろう。


○企画意図

あまり映画の企画っぽくないが、おそらく雑誌をそのまま映画にしたような映画を撮りたいとウェス・アンダーソンが思ったから。だと思う。ウェス・アンダーソンはかかる額と稼ぐ額がある程度見えてるのと、それほど莫大な予算を必要としていない。キャストが出演したがるので出演料交渉がスムーズ。などウェス・アンダーソンならではの制作体制の結果、「ウェス・アンダーソンの好きにして良い」ということになっているのだと思う。やり手にもほどがある。


○見どころ

やはりキャストが贅沢すぎる。誰も彼も非常に楽しそうにやっているので見ている方も嬉しくなる。

この時間内にここまで情報密度を上げるとどうなるかは、注目に値すると思う。パッケージ販売戦略だろうか。

もともと舞台臭のする人だけに、役者と演出のやり取りを想像すると楽しい。この楽しい魅力的な登場人物たちは、どこまでが役者のアイデアでどこまでが監督のアイデアなのか。正解が知りたいわけではないが、そんなことを考えて見るだけで一周楽しめる。他にも、画面を見るのに一周。ストーリーを追うのに・・・。と、何度でも楽しめる。

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