1-12 内藤修斗は幼馴染の少女に相談することを立案する
「気をつけー、礼」
帰りのホームルームが終わった。結局、フレイヤは学校に来てから一言も発していなかった。
「内藤くん、ちょっといい?」
掃除を終え、リュックを肩にかけ教室を出ようとしたところを、担任の先生に呼び出される。
「なんですか」
「昨夜、君の住んでる地区で発砲事件があったんでしょう? 大丈夫だった?」
「は、はい。特には」
「よかったわ。それでさっき警察の方から連絡があってね、まだ不審な人物がうろついているかもしれないから、芝田周辺に住んでいる生徒は今日だけ寄り道せず帰るようにって」
「えっ、本当ですか」
「何か問題がある?」
「いえ……」
人工知能に池袋へ行くよう命令されてるなんて、言えるわけがなかった。
「ここだけの話、私も大袈裟だとは思うけど……25Rのメグさんは真っ直ぐ帰ったみたいだから。そういうわけで内藤くんもよろしくね」
「は、はい」
僕は上の空で返事をし、教室を出る。のろのろと廊下を進み、人気が少なくなった途端、ポケットが震えた。
「止まれ、人間」
僕は慌てて廊下の隙間に隠れ、フレイヤを取りだす。フレイヤの目は青く光っていた。
「まさか言われるがままに帰る気ではないだろうな?」
「……今日は無理だよ。先生から直帰するように言われちゃったし……だいいちメグ姉もそうしたっていうんだから」
「馬鹿、合理的に考えろ、たかが発砲事件ごときでおかしいと思わないのか。まんまと敵の作戦に従ってどうする」
「ぼ、僕だってわかってるよ! 何かが狂い始めてるってことくらいは。だけど……その違和感に真っ正面から抵抗できるほど僕は強くない」
「ならば一挙一動、私の指示どおりに動け。最も合理的な選択で貴様をナビしてやる」
「……悪いけど、フレイヤは信用できないよ」
長く気まずい沈黙が流れる。視線に耐えられなくなった僕は、弁解するかのように口を開いた。
「あ、あのさ。一つ案があるんだ。妥協案……になると思う」
「都合のいいやつだな。まあいい、言ってみろ」
「いったん帰って、メグ姉にこれからのことを相談するんだ。彼女なら絶対、フレイヤが言う合理的な判断をしてくれるから」
「メグ姉? 貴様には妹だけでなく姉もいたのか」
「いや、あだ名みたいなものだけど……きっとフレイヤも、メグ姉のことを気に入ると思うよ。僕とは正反対の、聡明で勇敢な人だから」
「……しかし、その女は信用できるのか? 今日の昼もそうだが、貴様は私の存在を軽率に教えすぎだ。相手が敵の潜伏員だったらどうする」
「大丈夫。二人とも僕の味方だ。保証するよ」
「ふん、人間が間髪入れずに言う『大丈夫』ほど信用できないものはない」
ぶつぶつと文句を言うフレイヤをポケットにしまい、僕は帰路についた。またメグ姉を頼ってしまうことに、ほんの少し自責感を感じながら……。
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