1-9 内藤修斗は警官から尋問を受ける
翌日、まぶた越しに差し込んでくる太陽の光で僕は目を覚ました。
「んん……あれ、今何時……え、7時20分じゃないか!」
普段ならもう家を出る時間だった。昨日、確かに六時半にスマホのアラームをかけた記憶があるのに、気づかないうちに止めてしまったのか?
「アラームなら私が止めたぞ。うるさくてかなわなかったからな」
勉強机の引き出しの中から声が響いた。一連の出来事が夢ではなかったことを知る。
「何してくれるんだよ、もう……って、動けないフレイヤがどうやって止めたんだ?」
「そんな単純な機械、私の知能をもってすれば電波を飛ばして侵入するくらい造作もないことだ」
「まったく妙な特技を……。朝ごはん食べてくるから、声を出すんじゃないぞ」
髪を整えながらリビングへ下りると、妹の美央が民放のニュース番組もどきを見ながらトーストをかじっていた。
「おはよ、兄ちゃん。美央の方が早いなんて珍しいじゃん」
「目覚ましが勝手に止まったんだ」
「あーわかるわかる。あるよねえ、寝ぼけて止めること」
「今日は本当に……いや、まあ、そうだな」僕は美央の向いに座る。「時間ないんだ。そのトースト半分もらっていいか?」
「えー、もーしょうがいなあ。貸しだよ兄ちゃん。利子はトイチだからね、トーストイチ」
ほほを膨らませる美央の皿からトーストを奪い、口にくわえる。
ニュースは夜中に起きた発砲事件を取り扱っていた。スタジオでアイドルの
再び現場の映像に切り替わると、そこには覚えのある景色が映し出されていた。
「これ、うちのすぐ近くじゃないか」
「ね、怖いよねえ。近くに白いスーツの男が倒れてたっていうし、これってきっと絶対、ギャングの抗争だよっ」
「ギャングて……アメコミの読みすぎだ」
ニュースを要約すると、昨夜の23時ごろ、巡回中の警官が発砲の音を聞きつけ、急ぎ向かったところ白スーツの男が倒れていた。男に外傷は目立った外傷は見られず、現在取り調べを行なっている最中らしい。
「近くの小学校は午後からの登校だって。あーあ、うちの中学も休みになればいいのになあ」
テレビを眺めながらトーストを食べ終えたタイミングで、インターホンが鳴った。
「あ、ピンポン鳴ったね。兄ちゃんよろしくー。さっそくトーストの借りを返すのだ」
「こんな朝早くから……新聞の勧誘か?」
僕は玄関へ向かい、慎重にドアを開ける。そこには、眠そうな若い警察官が立っていた。テレビでやっていた発砲事件に関することだろうか、と僕は気づく。
「どうも、警察の矢島と申します。一つだけ質問したら帰りますので、よろしいですか?」
「はあ、なんでしょう」
「昨日から今日にかけて、この周辺で白いピンポン玉のような物を見ませんでした?」
ドクンと心臓が跳ね上がる感覚があった。脳内で点と点がつながる。
「……い、いえ。わからないです」声が裏返らないようにするだけで精一杯だった。
「そうですか、わかりました。いやあ、なんだその質問って思うでしょうけど、俺も好きでやってるわけじゃないんです。こんな早く起きたのは久々ですよ、本当……」
矢島と名乗った警官がぶつぶつと愚痴り始める。一刻も早く、ドアを閉めたかった。
「大変ですね。あの、もういいですか」
「ああ、時間をお取りしてすみません。ご協力ありがとうございました」
僕はろくに挨拶も返さず、半ば無理やりドアを閉めた。まだ心臓がバクバクしている。
白いピンポン玉なら、僕の引き出しの中だ……。
「ね、なんだったの。ずいぶん長かったけど」美央が廊下をのぞきこんで言う。
「……なんでもない。ただのしつこい新聞勧誘だったよ」
「兄ちゃん、ノーと言えない日本人だもんねえ。トラブルに巻き込まれないか、妹ちゃんは心配ですよ」
「別にそんなことない。普通だ、普通。」
口先では否定しつつも、美央の言葉が的を射ていることはわかっていた。断れなかった結果、僕はフレイヤという
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