1-8 志島泉は事件の真相を語る書き込みを見る

〈教室で話した書き込みのURL送ります。たぶん、志島も気に入ると思うよ〉


 内藤から送られてきたリンクをクリックすると、見慣れた匿名記事版のスレッドに飛んだ。


「ん? なんだこのスレ……」


 タイトルは『池袋大爆発』としか書かれていない。こんなタイトルでは書き込みに来る人間は少ないだろう。


 案の定スレッドは過疎っており、書き込みの大半が荒らしだった。本当にこのスレッドで合っているのか疑問がわく。


 ページをスクロールしていくと、途中で明らかに異質な書き込みを見つけた。ずいぶんと長文であり、視覚的にも異彩を放っている。


「……これか。内藤が言ってた書き込みってのは」


『22 名前:MY 2021/05/17(月) 01:55:13.51 ID:g9If83Dkf0L.V』


 お前ら、池袋大爆発は事故だと思ってんだろ? まあ当然だ。あの事件については国家機密レベルの報道規制が敷かれたからな。


 だけどな、俺は知っちまった。池袋大爆発は、事故なんかじゃねえ』


 事故なんかじゃない──俺はスクロールする手を止める。


 もともと事件に裏があることには勘づいていた。それについて、大量のデータベースに侵入し真剣に調べたこともある。


 しかし、ついに事件の真実を見つけることはできなかった。この俺でも知り得なかった情報を、こいつは持っていると言うのか?


『例のアイベルトラボが、国の補助を全面的に受けていた世界的な人工知能研究所だったのは知ってるな?


 所長の名は、アイベルト・ホームズ。アインシュタインの再来と言われた超天才さ。


 アイベルト含め、ラボメンバーは皆、ほとんど泊まり込みで研究に没頭していたらしい。


 研究内容は極秘だったが、遠くないうちに間違いなくノーベル賞クラスの結果を出すに違いないと、それはもう世界中の学者が注目してたわけだ。


 これまでの内容は、情報収集能力がある奴なら誰でもわかる。本題はここからだ』


 マウスを握る手に、力がこもる。いつのまにか手のひらが汗ばんでいた。


『あれは一年前。池袋大爆発が起きるわずか数日前のことだ。警察に差出人不明の手紙が届いた。それは、アイベルトラボで行われている非道な行為を暴露するものだった。


 そのタレコミによればアイベルトは毎晩、薬で眠らせた研究員を秘密の研究室に運び込み、勝手に頭蓋を切り開き、新鮮な脳を使って実験していたらしい。


 そして実験の中で脳が壊れてしまった研究員はラボの地下に監禁されている、と。


 つまりアイベルトラボは、マッドサイエンティストの恐怖の根城と化していたんだ。


 情報を裏付ける証拠をつかんだ警察は、2020年5月26日の未明、特殊部隊を極秘でラボへ突入させた。


 なぜ極秘だったかって? そりゃ国が全面的に支援バックアップしていた人間がマッドな犯罪者だと知れれば、面子が丸潰れだからさ。


 突入に気づいたアイベルトは豹変し、証拠を隠滅するため火を放って逃亡。火は可燃性のガスに燃え移り、大爆発を起こした。おそらく奴の狙い通りに。


 火を消し止めた後に警察が調査したところ、ラボの中から、アイベルトを除く全ての研究員の焼死体が発見された。


 死体のおでこ付近には、みんな縫い目のようなものがあったらしい。


 以上が池袋大爆発の顛末だ。このレスが消されないことを祈る」


 ハンドルネーム『MY』を名乗る者の書き込みは、ここで終わっていた。


 後にも先にもMYの書き込みはこれのみで、書き込みに対して揶揄やゆや質問のレスが複数ついているが、いずれにも反応せずパッタリと姿を消している。


 正直、書き込みの内容については懐疑的だった。作り話としては面白いが、現実的ではない。さらに言えば、感情論的な話にはなるが、アイベルトが悪人であるという話も、どうもピンとこなかった。


「まあ寝る前の暇つぶしにはなったか──ん?」


 電源を落としかけたとき、PCが妙な警告を示していることに気づく。眉をひそめてキーボードを叩いて行くと、目を見張る事実が明らかになった。


「……おいおい、どうなってんだ。内藤お前、やべえもん送っちまったかもしれねえぞ」

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