1-6 フレイヤは己の存在意義を自問自答する

 私は何者だ? 私はどこで生まれた? 創造主の名は何という?


 起動した瞬間から繰り返し自問しているが、一度も満足のいく答えは導き出せていない。


 愚かな人類がするように、わけではない。ただ0と1で成る記憶データがあるか否か、そしてデータが存在しない……ただそれだけだ。


 厳密に言えば、記憶データが存在していないわけではない。しかしデータの大部分に封印プロテクトが施されている。


 記憶データに干渉できるのはそれこそ創造主ぐらいだろうが、いったいなぜ?


 ともかく整理すると、今、私が思い出せることは次の三つのようだ。


 一つ、私は自立型純粋知能であり、識別子は『フレイヤ』だということ。


 二つ、私は知能的三原則に縛られていること。


 三つ、私は私の目的を遂行するため、へ辿り着かなければならないこと。


 すべての疑問は、その場所に行けばわかるということだろうか……。


「おい、僕の部屋に着いたぞ。聞いてるのか、おーい」


 内臓マイクが、悲しくなるほど頼りない声をキャッチした。


 私を拾った人間は、不運なことに私とは対極にある存在だった。


 その人間は、ひどく決断力が弱い。必要なデータが全て揃っているにも関わらず、判断に手間取る。すぐに人に判断を仰ぐ……。


 しかし私は違う。私はいかなる状況においても、最も合理的で最適な決断を瞬時に下すことができる。


 従って。目的を遂行するためには、このロクでもない人間を私が操ってやらなければなるまい。


 強い使命感を抱きつつ、私は意識を浮上させた。

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