第227話 番外編 守護神たち(1)

 

「貴様よくそのザマで偉そうに踏ん反り返っていられたものだな。まだルオートニスの学生の方が戦えるぞ? 体力もなければ根性もない。喚いてもなにも変わらない。なにより貴様が無価値のままだ。役立たずの足手まとい。他に得意なこともなければ、できることもないのだろう? 他者を見ることも、他者の話を聞くことも、現状を客観的に見る能力もない。よくハニュレオの貴族たちは貴様でよいと言ったものだ。——ああ、だから貴様だったのかもな。都合のいい傀儡くぐつにはぴったりだ」


 王都を一周するように。

 そんな課題を出されて、ルオートニス騎士団と魔法騎士団の騎士たちは走っていた。

 王都郊外を一周って、何キロあると思っているのか。

 言われた時の絶望は、計り知れない。

 しかし、騎士たちはくたくたになりながらもその課題を出した戦神が見下ろして詰る少年を見て速度を早めた。

 痛々しくて見ていられない。


「あ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

「……はぁ……一時間も走れないとはな。昨日と倒れたところが大して変わらない。しかも昨日より走れていない。疲労が取れていないんだろう。もういい、今日は動けるようになったら帰って休め」

「う、ぁ……ぐっ」


 戦神、ラウト・セレンテージ。

 よもやあの純真無垢な美少年が成長するとこうも苛烈な美青年になるとは、誰が思っただろう。

 人を殺す剣を扱っていた時から、只者ではないと騎士団の中でも話題にはなっていたが、まさか神だったとは。

 そして、その神が今声をかけたのはハニュレオの第一王子エドワード・ハニュレオ。

 ヒューバートの奴隷に堕とされ、今は代理主人としてラウトが預かって鍛え直している。

 最初こそ文句ばかりで酷かったが、最近は文句を言う体力もない。

 今のように。


「走り終えた者から東の街道で実地訓練を行う。夕方には撤収するので、体力のない者はそのまま帰ってもいい」

「は、はい!」


 と、一見優しそうに言うが、来ない者は神の恩恵とも言うべき技術や知識が与えられない。

 この国を守る騎士として、戦神の経験話だけでも非常に勉強になる。

 実際戦神の鍛え直し鍛練が開始してから騎士団内の空気は、冬の早朝のように爽やかでピリッとしたものになった。

 皆が皆責任感と使命感を胸に、実践を意識した訓練が行われる。

 新たに招かれた神シズフ・エフォロンも武神という戦いにまつわる神。

 走り終えた騎士たちが実地訓練場所へ辿り着くと、その武神と医神、美と芸術の神まで揃っていた。


(((やべーーーーー)))


 ルオートニス守護神全員集合ではないか。

 圧が半端ない。


「で、なぜお前まで来た? デュレオ・ビドロ」

「え? エドワードを笑いに来たんだけど?」

「アイツなら今日も倒れたから、動けるようになったら帰って休めと言い渡してきたぞ」

「えー、マジ? 来て損した〜。まあ、あの坊やは一生変わらなさそうだけど。仕方ないからここに来た騎士たちの阿鼻叫喚な姿を見て楽しもうかな♪」

「特に楽しいものはないと思うが……」


 不穏な会話である。

 のんびりとした足取りだが、ラウトが三人のところへ歩み寄り、シズフになにか話して騎士たちに向き直った。


「ではこれから五人五人で前衛、後衛を組み、チーム作れ。ひとまず今日はディアス・ロスへ一撃入れてもらう」

「え! し、しかし……」

「ディアス様は医学の神では……」

「舐めるな」


 たった一言、ラウトが発しただけで騎士たちは慄いた。

 確かに、ディアス・ロスは『医神』と呼ばれているが、元々はハイクラスの魔法師と言われている。

 治療系の魔法が得意というだけで、攻撃魔法も当然使えるだろう。

 なにより何百年も村を一つ、丸々結晶化した大地クリステルエリアで浮かせ続けていたという奇跡にも等しい実績。

 腰には左右二本の剣を下げ、近接戦闘にも対応している装い。

 だというのに、誰も彼の実力を見たことはなかった。

 “遺物”に乗り、ラウトの“遺物”と戦った時はあえなく撃墜されていたというが、彼は当時神ではなかったという。

 今は神として覚醒し、この国の守護神の一柱だ。


「では、まずは俺に一撃入れてみるといい。できるものならな」

「よ、よし、とにかく胸をお借りするつもりでやってみよう」

「「「お、おう」」」


 騎士たちが前衛五人、後衛五人でチームを作る。

 最初のチームの前衛が剣を抜き、立ち向かう。


「え、マジでロス家のお坊ちゃんに丸投げする気? さすがに騎士たちに有利すぎるんじゃないのぉ?」


 と、デュレオが小馬鹿にするようにラウトを見下ろす。

 その態度にラウトが睨み上げ「舐めるなと言ったぞ」と、ドスの効いた声で応える。


「あの男は、『無欠の紅獅子』の秘蔵っ子だぞ。『無欠の紅獅子』が、自分を差し置いて君主制の選挙に立候補させるつもりだったのだから」

「え?」


 騎士たちに対してディアスも剣を引き抜くと、詠唱もなしに八種類の魔法陣を同時に展開した。

 どよめく後衛の魔法騎士たち。

 当然だ。

 魔法に優れた者ならば、なおのことその異常事態に目を剥いた。

 魔法騎士団でもその能力に定評のあるジェラルドでさえ、複数の魔法の同時展開は行えない。

 複数の属性を一つに魔法に統合して使うのとは訳が違う。




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あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします!

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